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メッセンジャーで受けたビデオチャットとVR内のアバターが自撮り!

Oculus開発者イベントで見えてきた「会いに行けるVR」への布石

2016年10月09日 14時30分更新

文● 文● 広田 稔 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!

 どもども。VRおじさんことPANORAの広田です。今週、大きな注目を集めたニュースといえば、埼玉県越谷市にあるイオンレイクタウンに、常設のVRアトラクション施設「VR Center」がオープンしたことでしょう。今年は「VR ZONE Project i Can」(10月に終了)や「東京ジョイポリス」など店舗にVRが進出してきましたが、ここにイオンが参入するということで話題になりました。

 グーグルが新型スマートフォン「Pixel」と、スマートフォンを挟み込んで使うVRヘッドマウントディスプレー「Daydream View」を発表したのもビックニュースです。既存の「男の子向け」なデザインの強豪とは異なり、ファッション性の高いデザインで勝負してきたところも普及にかなり力を入れていそうです。

 もうひとつ欠かせないのが、米国カリフォルニア州サンノゼにて現地時間の5〜7日に開催したOculus開発者向けのイベント「Oculus Connect 3」(OC3)です。6日に行われた基調講演では、Oculus Rift向けモーションコントローラー「Oculus Touch」の発売日が12月6日と明らかになったことなど、新要素が明らかになりました。基調講演のまとめはPANORAの記事を見ていただくとして、今回はその中から、ソーシャルVRについてピックアップしていきましょう。

大きく歓声が上がったソーシャルVRデモ

 Oculus VRはあのSNS界の雄であるFacebookの子会社、というのはわりと知られた事実かと思われます。OC3では、会場のいたるところに掲げられたOculus VRロゴの下に「from facebook」という文言が加わりました。6月のE3など過去のイベントでは見られなかった現象で、それが意味するのは、OculusがソーシャルネットワークサービスのVR化に大いに力を入れていくということでしょう。

 事実、今回の基調講演で、Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が登場した際には、アバターを使ったVR空間でのコミュニケーションデモが披露されました。

 ザッカーバーグ氏自らOculus Riftをかぶり、Touchを手にとって自身の顔をモチーフにしたアバターと化し、男性、女性という別の2人のアバターと同じ空間にログイン。例えば、周囲をぐるりと取り囲む映像を水中や火星に切り替えてみんなで会話したり、テーブルを使ってカードゲームやチェスを楽しんだりといった様子を見せていました。

 会場が大きな歓声をあげたのは、メッセンジャーでかかってきたビデオチャットをVR内でとって会話しつつ、さらにビデオと一緒に自撮りをして、その写真をFacebookに投稿する──という一連の流れを見せたときです。バーチャル空間で撮影された、アバターとリアルの人間が混ざっている写真って、ちょっとクールですよね。

 また、男性のアバターが笑いや驚いたり、混乱したりといった声に合わせて、豊かに表情を変えたシーンでも感心の声が上がっていました。この辺の仕組みは詳しく語られておらず、どうも表情を検知するセンサーではなくボタンを押して指示していそうで、かつ、そもそもこのデモが具体的な製品というわけではありません。しかし、表情や身振り、手振りといった非言語でも、より手軽に相手に気持ちを伝えられるということ端的に表したということでは、非常にコミュニケーションの未来が見えるものでした。

手を再現するTouch、アバター制作ツールの「Avators」

 そうした少し先を支えるために、いくつかの布石が打たれています。

 まず発売日が決まったOculus Touch。一見、HTC ViveやPlayStation VRのモーションコントローラーと同じにも思えますが、決定的な違いがTouchが「手」を、その他2つは「棒状の道具」を再現しているということです。

 Touchには、親指部分にジョイスティックと3つのボタンを配置し、さらに人差し指と中指の部分にはそれぞれトリガーを用意しています。ソーシャルVRの用途でいえば、握手を交わしたり、ハンドジェスチャーではサムズアップするといったことが可能です。

 さらに親指の2つのボタンと人差し指のトリガーには、表面に接触センサーが用意されていて、軽く触れると「触る」、ボタンやトリガーを押し込むと「押す」「つまむ」といった指示が可能です。細かい指の表現は、よりリッチな非言語コミュニケーションを実現してくれるでしょう。

 今回明らかになった自分のアバターをつくれる「Avators」も、ソーシャルVR向きです。顔、髪型、メガネ、ヒゲ、服などをいくつか用意された中からチョイスし、自分の好みに合わせたアバターを手早くつくれます。Rift向けには12月6日のTouchのローンチ時、モバイルのGear VR向けには2017年の早期に提供予定としていました。

 Oculusプラットフォームで共通したアバターを使えることは、例えるならFacebookやTwitter、Instagramといった複数のSNSで同じIDアイコンでログインできるというのに近い利便性を得られるでしょう。それはソーシャルVRでも同じで、近い将来には、ゲームのオンライン対戦で出会ったアバターをソーシャルVR上でも見かけて「あっ、あのときの!」となることも出てくるはず。

 さらにGear VR向けには、「Oculus Parties」と「Oculus Rooms」という2つの新機能を投入しました。PARTIESはフレンドリストから最大8人を選んでボイスチャットを、ROOMSはバーチャル部屋をつくってアバターでログインして友人と映像を見たり、ゲームを遊んだりといったことをそれぞれ実現してくれます。Rift向けは明らかになりませんでしたが、この辺はクロスプラットフォームで展開していくと予想されます。

「会う」感覚が得られるコミュニケーションツール

 VR空間でのコミュニケーションについて懐疑的な人もいるかもしれませんが、視界いっぱいに広がるバーチャル空間で、ゲームパッドで操作するよりも自然に振る舞うアバターがいて、さらに肉声でしゃべっている──。それはほぼ人間を目の前にしたのと変わらない感覚です。

 人は言葉よりも、表情や挙動といった要素で相手の伝えたいことを読み取っているという話もあります。そうした非言語的な部分を知るために、人は手紙やメール、電話、ビデオチャットではなく、「会う」ということに、時間やお金を割いてきました。ゲームが先行して注目されているVRですが、数年後には、そうした「会う」ツールとして大きく活用される未来が実現しているかもしれません。

著者近影

広田 稔(VRおじさん)

 フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。


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