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ヘッドセットとスマホアプリで脳波から56種もの微細な感情を読み取り

脳波ビジネスに驚き 感性で革命を起こすリトルソフトウェア

数十万件の実験データが裏付けする揺るぎない解析能力

えっ、私が取り付けるんですか?

というまもなく簡単にセットできた

 ヘッドセットは、額(前頭葉)と耳たぶに電極を付け、その間の電位を測定することにより、脳から発生する信号(脳波)を得る。その信号を周波数解析したり、出現するまでの時間を評価する。慣れていれば装着は簡単なものだ。

 川原氏はこれまで、あらゆる感情が伴う行動を想定して実験を行い、脳波データを収集してきた。手元には数十万件ものデータが集まったという。

 そもそも川原氏が脳波と出会ったのは、シリコンバレーで働いていた知人経由でニューロスカイ社の脳波測定用ヘッドセットを手に入れたのがきっかけだった。ニューロスカイは2004年設立の研究所発ベンチャーだ。

 「当時、ちょうど高速バスの居眠り運転事故が多発した時期で、このヘッドセットを使えないかと思っていた。ただ、いきなり実用的に使うのはハードルが高いし、こういうものは自分で使ってみて体験したうえでないと人に勧められないのがわかっていたので、使いこなせるようになるために、独自で研究を進めていた。ちょうど、某国立大学医学部の癲癇(てんかん)研究に簡易脳波計が活用できないかということで声がかかり、数年間共同研究を行った。こうしてできたのが脳波を感性に翻訳できるアルゴリズムだった。長い間温めていたが、一部の大学教授からエンターテインメント分野でやってみたらどうかと勧められたのもあり、3年前にリトルソフトウェアを創業した」(川原氏)

 脳波というまだまだ一般的ではない分野だったため、脳波のことを知ってもらうために、最初は興味を持った企業に対して無料での共同実験を重ねることから始まった。2014年には脳波による音楽キュレーションアプリも手がけている。

 「まずは各社の担当の方に実験を体験していただくことから始まった。針に糸通しをする実験では、初めは『緊張』してうまく行かず『イライラ』していた脳波が、やっと糸が通って『快感』の数値に変わる。測定された時間、本人の感情、脳波が一致していると、実験結果は正しいものとなる。本人にそのときの気持ちを確認すると、『合っています。顔には出さなかったけど、糸が通って達成感を感じて幸せでした』となった。脳波では明らかに、糸が通ったときに快感の数値がブワーッと出ていた」(川原氏)

 こうして期待にかなう結果を出し、ヘッドセットと脳波に対する信頼を1つ1つ得ることで提携する企業が増えてきた。

 ある企業との共同実験では、サッカーの試合観戦中にどのタイミングで盛り上がるかを調べるために、90分間の試合観戦中ずっと測定したこともある。このとき同じ90分の試合でも、サッカーを頻繁に観戦する人と初観戦者で比べると、8対0といった勝敗が固まった試合では、前者の場合すでに1、2点が入った時点で興味が薄れてきたのにもかかわらず、後者はずっと興味をもって観戦していたという結果が出た。

 また、テレビ局とは「視聴率」に加えて、視聴者の好みを測るために脳波データを取り入れる検討がされており、番組制作の段階で試験的に脳波データを測定して好感度を測定しようという話もある。

 表立ってはないが、実は脳波研究をしている大手企業も多い。だが、研究開発を進めるものの、それをビジネスとして生かせた実績が乏しいのも確かだ。自社の名前は出さずに、リトルソフトウェアのようなベンチャーに投資をすることで、啓蒙的に市場を活性化する役割を担う部分もあるという。

データ測定のため、極限状態での脳波計測も実施

感性にまつわる数多くのソリューションがある

 ベンチャーだからこそ持つ独自の脳波分析アルゴリズムというとがった技術は、同様の形で、大企業が新たに開発した心拍計などについて、商品調査企画の持ち込みなども呼び寄せた。

 数十万件もの積み重ねの裏側には、これまで国内の大企業がためこんできた脳波データのナレッジと、新たな分野での拡大実績があった。またリトルソフトウェアでは、国内外の企業や大学と連携しながら、脳波の解析を行っている。

 「脳波データを測定したことでわかったことは、人間の脳というものは24時間ずっと動いていて、朝起きて夜寝るタイプの人であれば思考能力は午前中に比べて夜は落ちていく。だから、判定アプリでは同じ『リラックス』という表示が出たときでも、朝と夜では本人の感じ方が違うため、私たちのアルゴリズムでは時間帯によって微調整している。もちろん時間だけでなく、状況によっても人は別のものに感じる。たとえば、運転中の『集中』と、勉強中や仕事、テレビを見ているときの『集中』は感じ方が異なる。それぞれのシチュエーションでは同じ集中であっても、本人的には別の状況に感じている」(川原氏)

 リトルソフトウェアでは、人の脳波を解析して単純に感性に換算しているだけではなく、人が行動しているときの外部環境も要因の中に取り入れてアルゴリズムを作っているのが特徴だ。

 例えばアロマの実験ならば、アロマショップ、研究室、自宅と場所を変えて同じ香りをかぐ実験を行う。環境が変わると脳波がどう変わるかのデータも含めて取り入れている。

 さらに正規の実証実験に加えて、社員やスタッフ全員が日常的に自分の脳波データを取っているという。脳波計のヘッドセットとスマホさえあれば測定できるので、いつでも手軽にデータを取れる。

リトルソフトウェアが構築する感性プラットホーム

 このような計測アルゴリズムのベースは、川原氏をコアとして作り上げてきたものだ。測定した自分自身の脳波データを元に作りこんだアルゴリズムに、川原氏以外の測定脳波データを取り入れ、微調整をして現在のものになっている。

 例えば、川原氏はこの5年間のほぼ毎日、同じ時間に同じ曲を聞いて、曲を聞いた前後で脳波がどう変化したかを測定している。この基準をもとに、他のスタッフにもやってもらうことで、同じ曲を1カ月聞くとどう変わるか、季節によっても違いがあることがわかってくるのだという。

 「統計がモノを言うので、サンプル数が多いことが重要。また、サンプル数には加えてないが私個人も実験に加わっていて、自宅でコーヒーを飲むときには、前後で脳波を測定してどう変わったかとか、1つ1つ楽しみながらやっている。仕事の前には自社のアプリで脳年齢が30代以下と表示されてから始めるようにするなど。脳波を取ることで、いままで知らなかった自分の体の本音を客観的に見ることができるのでおもしろい。実際、ダイエットをする人が毎日体重計に乗ったり、高齢者が血圧を毎日測ったりというようなことに近いと感じている。手軽に自分の健康にかかわる情報が見えるため、つい毎日測ってしまう」と藤井氏は補足する。

 さらには、真夏に40℃近くまで気温が上がる中でマラソンをして、極限での脳波測定を体験したケースも同社にはある。

 「人はある程度の環境に追い込まれると、脳波がきれいになるというのが身を持ってわかった(笑)。暑くて徐々に脱水状態になり、水を飲んでも回復せず、段々と極限まで行ってしまうという状況だった」と川原氏は語る。

アプリではリアルタイムで計測された脳波により感情が表れた

個人差も多く、意図的に特定の脳波を出すのはなかなか難しいとのこと

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