週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

今秋のNHK連続テレビ小説の舞台、竹鶴酒造の酒がおいしい理由がわかった!

 うまいだけでなく、食べ物や人との関係を呼び、生きる力が湧く"竹鶴"の酒。今秋のNHK連続テレビ小説『マッサン』の舞台にもなる竹鶴酒造の杜氏・石川達也さんに酒造りへの思いをうかがいました。

20140719_arai_sore988

竹鶴酒造株式会社 杜氏
石川達也

1964年広島県・西条生まれ。亡父は元賀茂鶴酒造専務。早稲田大学第二文学部在学中より埼玉県・神亀酒造の蔵人として働き始める。1994年に竹鶴酒造へ移り、1996(平成8)酒造年度から杜氏。聞き手であるやまけんとは20年来の付き合いで、"タツヤン"と呼ばれている。広島RCC ラジオで1年間、『酒ゴジラの間違いだらけの酒常識』というコーナーを担当。この秋からのNHK連続テレビ小説では、竹鶴酒造でも撮影が行なわれ、自身もチラッと出演するらしい。ニックネームは"酒造界の大魔人"、"酒ゴジラ"、"酒モアイ"など。

山本:タツヤンとの出会いは1994年だっけ。

石川:平成6年かな。

山本:まだ僕が大学生で畑サークルをやっていた時代、熊本まで合宿に行く途中に、同期の女の子が竹鶴酒造の娘だったので広島で途中下車してご実家に泊めてもらったんだ。文化財みたいなお屋敷に10人くらいで雑魚寝させてもらい、しかもバーベキューもやってくれて酒もバンバン飲ませてくれて「やったー!」みたいな(笑)。

石川:そうそう(笑)。

山本:そのとき社長に「おまえは慶應に入って農業やってるバカなやつだけど、ウチにも早稲田を出て酒づくりをしているアホがおるんや」って紹介してもらって。あの当時はタツヤンもまだ追いまわしというか、いちばん下の立場でね。

石川:入ったばかりだったから。

山本:そのときから全然印象は変わってないな。

石川:ハハハ。まあ、やまけんもそうじゃない。当時から大勢で蔵に来ても、ひとりで目立ってて。11人で、1人対10人になってもやまけんのほうがパワーがあるって感じでね。

山本:ひひひ。

石川:いやあ、おもしろいやつがいるなあと思ってたけど。それが将来こうなるとはね。

山本:思わなかったのは俺のほうだってさ。実は俺自身は、農産物としての酒に興味はあっても、飲む酒としてはそんなに興味なかったんだ。だけど地酒特集で“竹鶴”が取り上げられていて「ええ? あの石川達也が杜とう氏じ?? いつの間に出世したんだよー」みたいなね。それがいまじゃ“竹鶴”の石川杜氏といえば、地酒業界じゃかなり知られた存在でしょ。しかも地酒で自然派なつくりをしているなかでは飛びぬけて知名度が高い。淡麗辛口的な酒が流行った時代があるけれども、“竹鶴”はそうではなくて本当に日本酒らしい味わいでね。だけどそもそも、なぜ早稲田の文学部を出てるのに、酒づくりの道に進んだの?

石川:実は自分の父親は広島の大きな酒造メーカーに勤めていてね。そこの社宅というのが蔵の敷地内にあったので、蔵の中を遊び場にし、杜氏さんや蔵くろうど人さんにかわいがってもらって育ったのよ。そして、別になにになりたいということもなく、モラトリアムな感じで大学に入って東京に出てきていたんだけど、友人で酒にハマっている、いまでいうオタクみたいなのがいてね。それに感化されて酒を飲むようになったんだ。それまでは全然お酒の知識もなくあまり飲んだこともなかったのが、知ってみたらすごくおもしろくてどんどんのめりこみ、そのままだったら単なるマニアで終わってたところが、“神亀”という埼玉の蔵の酒に出会ったことで目からうろこがボロボロ落ちた。「ああ、こんな酒を造る蔵で働けたらいいな」と思って、大学の在学中から、その蔵に入って酒造りの道を歩き始めた。

山本:在学中からだったのか。

石川:その後、広島に帰ることになって“竹鶴”に移り、いまに至るという流れだね。

20140719_arai_sore988

“いい酒”とは“関係を呼ぶ酒”

山本:“竹鶴”のいちばんの特徴は無色ではなく、かなり黄色い、この色だよね。

石川:でも今日のは新酒だから、これでも色は薄いほうだけど。

山本:通常はもっと琥珀色だね。そして飲むと酸味をすごく感じ、あと莫大な量のアミノ酸、うまみを感じるわけですよ。やっぱり僕は食べることが好きな人間なので、それを考えると一時期流行った、メロンとか青リンゴみたいな強い香りのする日本酒よりも、こういううまみのある酒のほうが好きなんだなあ。

石川:それは光栄でございます(笑)。でもね、お酒のおいしさって、その酒の味自体で評価してもらってもいいんだけど、そこにお酒の本当のおいしさはないとも思うんだ。つまり、ごはんのおいしさといっしょ。ごはんはおかずと合わさってはじめて完結するおいしさじゃない? ごはんそのものだけのおいしさってあんまり意味ないと思う。そして自分の考える“いい酒”というのは、それ自体がおいしいだけではなくて、それを飲んだらそこで終わりじゃなくて、なにか食べたくなる。ようするに食べ物を呼ぶ酒。食べ物だけじゃなくて「関係を呼ぶ」って自分は言っているんだけどね。つまり、食べ物がほしくなるだけじゃなく、人と話したくなったり「あいつも呼ぼうか」みたいなことになったり。

山本:あるね、そういうこと。

石川:それはどういうことかというと、食べ物を呼ぶ、ものを食べるということは生きる糧を得ようとすることでしょ。それを得ようとするということは生きる力が湧くということ。だってたとえば親しい人が死んだとか、あるいは鬱になっている人が食欲モリモリなことはあり得ないわけで。食欲があるということはとりあえず、先へ生きようという意欲があるということだから。

山本:ふむふむ。

石川:さらに人を呼ぶ、人とつながろうとするということは、人間はひとりで生きられない社会的な動物であるから、自分ひとりでなくてみんなといっしょに生きようとするわけだよね。これも生きる力が湧くということにつながる。

山本:なるほどね。

石川:お酒とは、ただおいしい嗜好品の飲料ではなく、人間に生きる力を与えられるもの。そういうものであってはじめて存在価値がある、といまは考えるようになっている。だから究極的に言ってしまうと、酒自体の味はまずくてもいい。極端な話だけどね。酒がまずくても、食べ物をおいしくしてくれる、あるいは会話がはずむ、そして人と人との関係が深まる、そういうお酒なのであれば……。

山本:役割を果たす、と。その考えはおもしろいね。

今回の聞き手
山本謙治(やまもとけんじ)
農産物流通コンサルタント、食生活ジャーナリストとして年間100日以上出張をする日々。最近では肉牛のオーナーになり、畜産関連の仕事も多数。

■関連サイト
『竹鶴』の酒を飲もう!
●広島お酒スタイル
●銘酒市川
●葡萄酒蔵ゆはら

週刊アスキーで全部読めます!
7月14日発売の週刊アスキー7/29号(No.987)では、石川達也さんを直撃したインタビューをすべて掲載。石川さんが丹精こめて造った酒の魅力を存分に知ることができます。

Newsstand 電子雑誌をダウンロード

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう