2012年04月13日08時00分

ソニー・平井一夫新社長の施策を分析――カギは“いままでにないリーダーシップの発揮”にあり【西田宗千佳氏寄稿】

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2012ソニー経営方針説明会

■技術開発費の7割を“デジタルイメージング”、“ゲーム”、“モバイル”の3分野に

「権限の集中による素早い経営判断と開発」、「3つのコア事業への注力」、そして「テレビの黒字化」。
 ソニー・平井一夫新社長の施策は、簡単にいえばこの3方針が軸になる。実のところ、それぞれ、これまでソニーがやっていないことなのか、というとそうではない。同じようなテーマはこの数年、必ず語られてきた話といってもいい。 だが、平井氏が強調したかったのは、「これらの選択を徹底する」と、強く社の内外に示すことだったのだろう。

 たとえばコア事業の選び方。
 ソニーは今後、“デジタルイメージング”、“ゲーム”、“モバイル”とした。技術開発費の7割をこの3ジャンルに集約し、2014年度の営業利益における3ジャンルの構成比を85%までに高めよう、というのだから、今よりもさらに一歩前へ出て、絞り込んだビジネスを目指すことになるのだろう。

2012ソニー経営方針説明会

 確かにどれも有望なジャンルだが、ソニーが“コア事業”と定めた理由はそれぞれに異なる。

“デジタルイメージング(カメラ)”は、ソニーが強い技術開発力をもっていることが最大の理由だ。『α』、『NEX』といったカメラを自社で作って売っていくだけでなく、“カメラ”のつくすべての製品で必要になる撮像素子の部分について、ソニーは差異化技術をもっている。“技術のソニー”の旗頭とするには最適の存在だ。しかも、新事業領域として有望な“メディカル”の世界では、高精度の撮像素子は常に求められている。比較的古典的な意味で、“家電メーカーとしてのアイデンティティ”を 打ち出すことのできる分野だ。

“ゲーム”も近い。 家庭用ゲーム機に参入できる企業は多くない。ソニーがこの位置にいるのは、現在もっている技術要素というよりも、1994年以来作りあげてきた、ある種の伝統とノウハウによる。そして、特にソニーの場合、ゲーム機とその要素を、安定した映画・音楽といった“エンターテインメント事業”と連携させることができる。AV機器・モバイル機器としての価値も打ち出せる。

 それに対して“モバイル”は逆だ。ソニーに、いま特別な強みはない。人気もブランドもあるが、アップルやサムスンという強いライバルに勝つのは簡単ではない。しかし、これからの家電の主軸は間違いなくモバイル。スマートフォンとタブレットとパソコンの境目はどんどん小さくなっていき、生活の中での重要度が大きくなる。なので、このジャンルで強い力を発揮できなければ、家電メーカーとしての鼎の軽重を問われることになる。強みを打ち出せるのでなく“打ち出さねばならない”のがここである。

■スマートフォンを“ハブ”にして、3分野のコア事業で補完し合いイノベーティブな製品を生み出す

 実のところ、この3ジャンルは関連性が大きい。
 平井氏自身、「デジタルカメラやビデオカメラの市場は、スマートフォンの伸張の影響で今後大幅な拡大は難しいと認識している」と話し、デジタルイメージングが単純な成長市場ではない、と認めている。だが、スマートフォンの伸張は“モバイル”の伸張であり、スマートフォン用センサーの伸張はデジタルイメージング事業の伸張につながる。

 ゲームはスマートフォンなどに押され、“ゲーム機”というビジネス構造が変わる可能性もある。しかし、スマートフォンをはじめとした“モバイル”を押さえられれば、そうなっても利益につながるし、ゲーム機向けに作ったプラットフォームは、モバイルの上でも生かせる。

 すなわち、3つの領域が補完し合い、成長を促すことができるジャンルであることが重要なのだ。平井氏は「スマートフォンは『ハブ』となるデバイス。ソニーモバイルコミュニケーションズがソニーの完全な一員になることで、ソニーの強いアセットを投入し、よりイノベーティブな商品により、市場シェアを拡大する」と宣言している。目標売上も、2014年度に2011年度の倍、とかなり大きい。

 なお、特にゲームについては、2014年度の売上高を1兆円、営業利益率を8%にすることを目指す。だが、PS3は6年目であり、PSPからVitaへの移行は進行中。“ゲーム機の世代変化”がありそうな時期であり、そこで利益率を維持できるかどうかは気がかりだ。SCE関係者は「そこまでになにがあるかは一切コメントできない」としながらも、「すべて織り込み済みで1兆円・8%を実現する」と話す。新プラットフォーム導入をしないのか、それとも、最低限の出血で新プラットフォームへ移行するのか。はたまた、巨額なコストをすぐに取り返す目論見があるのか。注目しておいて損はない。

■はたして2013年度でのテレビ事業黒字化は成るのか? それとも10年連続の赤字か?

 他方で、8年連続で出血を続けるテレビの改革は急務だ。2013年度の黒字化を目指しているが、それに失敗すると、10年連続で赤字になってしまう。

 実のところ、そこに3事業への注力に見られるような、はっきりとした改善策があるわけではない。アセットライト戦略をすすめて製造にかかる固定費を削減した上で、商品点数も削減していく。「売れるものを必要なぶんだけ、パートナーと組んで作る」形へ切り替えていくと見られる。その中には、有機ELやCrystal LED(関連サイト)といった高画質デバイスを使った“高付加価値型テレビ”も含まれる。

2012ソニー経営方針説明会

 ただし“3つのコア事業”に“テレビ”は入らない。コア事業に入らず、収益性に問題があるような事業については「提携や事業譲渡などの可能性も積極的に追求していく」(平井氏)としている。だが、お荷物と言われるテレビを切るつもりはない。「テレビは家庭の中心になる製品。また、ソニーのDNAの中にテレビがある。そのビジネスは継続したい」としており、捨てられる事業ではない、と強調している。

 とはいうものの、現状ソニーにとって、テレビは“改善途上のひとつの事業”でしかない。あくまで“象徴”だ。“ソニーらしいテレビ”を作れたとき、そしてその結果、事業を健全化できたとき、コア事業に戻ってくる日もあるのかも知れない。新興国など、現在もソニーのテレビが良好な地域はある。そういった国々での成功は、ひとつの契機となる可能性は高い。

 これらの施策に、正直驚きはない。ひとつひとつは納得できるものであるが、特別な“秘策”ではない。いかに着実に計画を実現するか、そこで出た成果=“優れた商品”をどれだけ多く生み出せるか。それぞれの部門の認識や情報共有の徹底が必要だ。

 このところ、ソニーの社長から“強いリーダーシップ”を感じたことはなかった。平井氏の打ち出した“秘策なき正道”を実現するには、歴代のソニートップとは一線を画した明確なリーダーシップ、強いメッセージを社員に示し、彼らから支持を得る必要がある。

「ソニーを変える。ソニーは変わる。」

 平井氏は、会見の中でそう宣言した。
 施策がどうこうという以前に、いつも以上にはっきりとした声で、大きなみぶりで、強く語りかけることを意識するかのように話していたように思えるのは、多分気のせいではない。


■関連サイト
ソニー

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