週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

元Samsung副社長が率いるBOSの勝算 Tenstorrent製NPUとオープン規格で挑む車載AI「Eagle-N」

2026年11月02日 12時00分更新

 Hot Chips 2026の解説シリーズであるが、今回からAIプロセッサーに移りたい。まずはBOS SemiconductorのEagle-Nを取り上げる。

Samsung 5nmで製造される車載SoCと
Tenstorrent提携の背景

 BOS Semiconductorは2022年5月に創業した、比較的新しい韓国のベンチャー企業である。創業者はJaehong Park博士だが、Park博士は創業以前は22年半にわたりSamsung Electronicsに在籍し、最終的には自動車関連およびカスタムSoCビジネスのEVPを務めていたという経歴の持ち主である。

 そんなPark博士は、自動車向けAIチップの開発にフォーカスした結果として生み出したのがEagle-Nである。SamsungのSF5で製造され、Denseで250TOPSという演算性能を叩き出すのはなかなかの性能だが、特徴的なのはコアとなるNPUにTenstorrentのTensixコアを採用していることだ。

実はEagle-N以外にEagle-AやN1301/N1501といった製品もあるのだが、どれが最初なのかよくわからない状況になっている。Eagle-Nは2025年のCESでデモを実施しているので、比較的早期に設計に入ったことは間違いないのだが

 2023年10月にBOS SemiconductorはTenstorrentと自動車向けチップの開発で提携を発表しており、Eagle-NのNPUもTensixコアベースのものとなっている。

 こう言ってはなんだが、Eagle-NはNPUそのものはTenstorrentのものをそのまま利用する格好で、BOS Semiconductorはそれを組み込んだ自動車向けSoCの開発に注力した、という感じにも見える。

 下の画像がEagle-Nの全体構成である。ホストがQuad Cortex-A53、NPUがTenstorrentのTensix Trinity、Security Islandというセキュリティ処理専用の隔絶されたハードウェアがCortex-M7ベースで構築されている。

Eagle-Nの構成。Trinityは本来だとTenstorrentのQuasar(Tensix NEOを32コア搭載する製品)のTask Dispatchを行なうフレームワークの名前であるはずなのだが、今回のスライドを見ているとTensix NEO×12コア+Dispatch Engine+αをまとめてTrinity IPとして提供しているようである。ほかでは聞かないので、BOS Semiconductor向け専用の名称なのかもしれない

 その横のHSMというのはHardware Security Moduleの略で、RT-640という名称からするとRambusのRS-640を実装しており、これとCortex-M7が対になって動作する格好なのだろう。

 インターコネクトを挟んで汎用I/OのほかにUCIeがx32、それとPCIe Gen5 x8が搭載され、さらにLPDDR5xがトータル12ch/16bitで、帯域は204GB/秒ほどになる計算だ。

 Trinity IPというかNPUの構成が下の画像だ。NoC2AXIが4つも並んでいるのは、NoC2AXIが1個あたり64Bytes/サイクルのI/Oしかできないので、256Bytes/サイクルにするために4つ並べていると考えるべきだろう。

NPUの構成。256Bytes/サイクルで双方向のインターコネクト(つまり合計のバス幅は4096bit)もすさまじいが、そもそもLPDDRが192bit幅で接続され、8533MHzで動作してることを考えると、このくらいのバス幅がないとつじつまが合わないのだろうというのは容易に想像できる。当然ながら内部バスの速度は8533MHzよりずっと遅い

 NPUの核となるのがTensix Neoコアである。TenstorrentのTensixコアの構造は連載599回で説明したが、今回搭載されているのはこの後継となるTensix Neoコアとなる。

Tensix Neoコアの概要。外部からの違いは、RISC-Vコアが5つ→4つに減ったことだが、もちろん実際にはそれだけではないだろう

 もともとのTensixコアは、Matrix EngineとVector Engineの間をつなぐRISC-Vコアがあったのだが、これが省かれた格好である。また4つのTensix Neoコアで1つのクラスターを構築し、このクラスターで3MBのL1スクラッチパッドを共有する形になっている。

 Tensixの場合はコアあたりに独立した1464KBのL1スクラッチパッドが搭載される格好になっていた。そのクラスター周りの構成が下の画像だ。

Tensixはクラスターの概念がなく、おのおののTensixコアにNoC用のルーターが2つ搭載されていた

 このクラスターが最小単位になっているわけで、Eagle-Nではクラスターが12個搭載されているため、Tensix Neoコアとしては48個が搭載されている格好である。

 連載599回でTensixコアはピークで4TOPS、一般的に3TOPS程度の性能とされていたが、Tensix Neoがどの程度なのかは明らかにされていない。ただTenstorrentが示しているTensix Neo IPのホワイトペーパーによれば、1.4GHzのTensix Neoコアの性能はINT 8で22.4TOPSとなっている。

 おそらくこれは4コアのクラスターの値と思われるので、1個当たりで言えば5.5TOPS程度。Tensixのピーク4TOPSと比較するとそれほど向上している感じがないのだが、5.5×48=264で、記事冒頭の画像に出てきた250TOPSにかなり近い数字となる。

 細かな動作周波数などは公開されていないが、Eagle-NのNPUは、下の画像に近い状態で実装されているのではないかと考えられる。

厳密にはSamsung SF4Xでの製造で、しかもL1 SRAMが4MBの数字だし、動作周波数もEagle-Nと同じとは限らないので、この数字をそのまま使うのは危険

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事