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海外駐在員の負担を軽減し、ワンチームへ kintoneは言語と文化の壁を越える「翻訳の魔法」

「混沌(コントーン)」だった旧世界 言語と文化の壁を越える仕組みへ

 こうした段階的なアプローチにより、アナログだった海外人事部の業務はkintone化され、業務改善につながった。「しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした」と小林さんは語り、「どのように課題に対応したか」のアプローチを紹介する。

 kintone(キントーン)が導入される前、旧世界は「混沌(コントーン)」に陥っていたという。その課題は「引き継ぎ」「アナログ」「属人化」の3つだったという。

混沌(コントーン)の旧世界

 まずは「引き継ぎ」の課題だ。会社から赴帰任の準備発令が出ると、海外駐在員と現地担当者にさまざまなフローが一気に降りてくる。しかし、現地担当者が交代してしまうと、フローが回らない。

 そこで海外人事部では赴帰任案内アプリを開発した。添付ファイルてんこ盛りで、長文の巻物のようなメールをkintone化。内容は各項目にタブ化し、担当者をひも付けたワークフローを申請できるようにした。また、抜け漏れがないようにセルフチェック用のタスクリストを用意したり、現地担当者用の英語の設定画面も用意したという。

 続いて「アナログ管理の限界」。そもそも日本本社のルールは複雑で、今までExcelで管理していた書式も更新されている。申請フローはメールとPDFの嵐で、原本の発送には国際郵便が必要で、無駄なやりとりも多かった。担当者の離職でルールが引き継がれず、当たり前が大きく異なる文化・言語・認識の壁はまるで「バベルの塔」だったという。

当たり前が大きく異なる文化・言語・認識の壁を超える

 これを解決するために、kintoneでワークフローを構築した。kintoneでは言語の切り替え機能があるので、日本語と英語で利用可能。選択式フィールドを使うことで、テキスト入力を最小限に抑えつつ、各社で異なる承認ルートを一元的に管理。フォーマット化により、入力方法も統一された。

 「われわれにとってkintoneは言語と文化の壁を越える『翻訳の魔法』のような存在です」と大森さん。kintoneを利用することで、文化や言語が異なる環境でも、同じ認識でワークフローを回すことが可能になった。また、kintoneのワークフローに入力すれば、現地の規定に沿った運用ができるため、現地担当者が突然退職しても、安定した運用が可能になったという。「kintone先生、大活躍ですよねえ」(小林さん)「ホント、頭が上がらないですね」と(大森さん)といったコメントも飛び出した。

kintoneはルールの翻訳機

海外駐在の必須ポータルとなるkintone

 こうして不二製油の海外人事部は「属人化時代」から「仕組み化時代」へのパラダイムシフトを遂げた。個人の記憶やローカルPCに依存していた情報は、システム上に永続記録されるようになり、毎回の口頭説明とマニュアル依存は、ワークフローのUI制約によってルールが自動担保されるようになった。また、連絡の中継で疲弊していた駐在員は、現場で本来のミッションに全集中できるようになり、終わらない事務処理と火消しに追われていた人事は、人と向き合い、ケアする時間を創出できるようになった。

「属人化時代」から「仕組み化時代へ」

 大森さんは「私は情報の整理が得意ではないので、kintoneを見ればすべての情報が揃っているのが気に入っています」とコメント。小林さんは「私はなんといってもワークフローが一推しです」と語り、実際のワークフローの画面を披露。各拠点で異なる承認者は会社の契約に応じてルックアップされ、自動設定されるという。

 また、「駐在員費用精算」のアプリではアイテムを選択すると国ごとに異なる課税/非課税などの計上区分を自動的に振り分けることが可能だ。さらに「一時帰国申請」のアプリでは、運用ルールに従って一時許可の申請や費用精算ができ、担当者に通知されるので、各国の担当者の判断は不要となり、必要な精算を海外駐在員の口座へ迅速に振り込むことができるようになったという。

 これらのワークフローは、まず基本となるアプリを構築し、アプリを増やしていった。必須申請アプリを構築し、海外駐在員のkintone利用頻度が増えたところで、海外駐在の必須ポータルとなった。

底辺の課題「関係性の崩壊」 関係者との連携を中心に据えたアプリ

 しかし、業務効率の底には実は本当の課題があった。これはワンチームで協業できる環境と、十分なフォロー体制の不在。「私たちが直面していたのはシステムの不在ではなく、『関係性の崩壊』でした」と小林さんは指摘する。関係者同士がきちんと連携できていなかったことが課題の根幹にあったわけだ。

業務効率の底には「関係性の崩壊」という課題が眠っていた

 たとえば、属人化していたVISA関係の業務。国によってルールが全然異なり、現地と国内の担当者でやることも全然異なるため、業務が属人化しがちだった。また、いろいろなフローがあるため、関係者が多く、混乱しやすいのもこの業務の特徴。このVISA業務をアプリ化したいことで、やりとりはかなり整理されたという。「情報が仕組みに蓄積されていくことで、整理されていきました」(小林さん)

 VISA業務アプリの基本は担当者ごとに持っている情報を集約すること。そのため、フィールドを色分けし、誰が入力すればよいかを明確にした。基本情報はマスタからルックアップするため、セットアップも容易だ。複雑かつ大量のタスクも一元管理されており、やりとりはコメント欄で実施。進捗確認や作業依頼などが日本語と英語で飛び交い、1案件で100件を超えることもあるという。「VISA関係の情報が1つのレコードにまとまるので、なにかあったときでも最高の引き継ぎ作業になる」と大森さんは語る。

 最後に紹介されたのは、海外駐在員が本業に専念するための「健康管理アプリ群」だ。現在は産業医と連携し、海外駐在員の心理的・身体的安全性をサポートする「入院・手術申告アプリ」、現地の就業時間を可視化できる「労働時間管理アプリ」、健康保険の申請が可能な「健保申請用紙作成アプリ」などで構成。「日本とはまったく異なる環境下で戦う海外駐在員の一大事に、日本の産業医とタイムリーに連携できる仕組みを構築しました」と小林さんは語る。

海外駐在向けの健康管理アプリ群

国際郵便はゼロに そして効率化の先に生まれたワンチーム

 kintone導入の結果として、定量・定性効果も披露された。年間で削減された業務時間は116時間で、70万円の削減。給与明細の送付が5分に、国際郵便はほぼゼロになった。「わかりやすいところだと、大きなキャビネット2つ分の書類がなくなりました」と小林さんは説明する。

 数字を超えた変化も大きかった。「判断が個人から仕組みへと変化したこと」「駐在員が『中継役』から解放されたこと」に加え、現場主導DXも始まっており、中国ではすでに30近くのアプリが構築されているという。

 大森さんは、次の「冒険」として「駐在員候補のプールの可視化」「拠点を越えた知見共有ネットワーク」「データ活用化の高度化」「攻めのバックオフィスへの進化」の4点を挙げる。kintoneを共通基盤として活用しつつ、分断していたこれまでの状況を改善していくのが、今後の方向性だ。

 最後、小林さんは「kintoneは世界中で戦う仲間たちのホームになった」、大森さんも、「効率化の先に生まれたのは、世界をつなぐワンチーム」とコメント。「不二製油グループはワンチームで世界の食を支えていきます」と会場にアピールし、登壇を終えた。

kintoneは世界中で戦う仲間のホームになった

 講演後のアフタートークでは、「キンコミ」や「kintone Cafe」をはじめとしたコミュニティに参加したことで、利活用や運用のスキルを得たという話が出た。また、海外の文化として「ジョブホッピングが多いため、引き継ぎが容易で、すぐに使える画面を設計できるkintoneを導入した」という点も挙げられ、海外現地法人での利用に大きな参考になると思えた。

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