週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

「不良品ゼロ」と「水冷NG」の狭間で。ルネサスが明かした車載チップレットSoCのリアル

2026年05月25日 12時00分更新

 ISSCC 2026の解説も電源周りが一段落したので、今回は珍しい発表を取り上げたい。ルネサスエレクトロニクスが発表した"A 3nm 400 TOPS 1080k DMIPS SoC with chiplet Support for ASIL D Automotive Cross-domain"である。これはチップの内部構造の説明ではなく、自動車向けにチップレット構成をとるSoCをどう構築したか、というなかなか興味深いものとなっている。

自動運転の高度化にともなう1000TOPSの壁と
ゾーン・アーキテクチャーへの移行

 昨年くらいから、自動車向けのSoCにもチップレットの波が押し寄せつつある。理由は簡単で、特に自動運転向けに高い演算性能が必要になってきているからだ。自動運転に必要な要素は、連載711回にTeslaのFSD(Full Self-Driving)と絡めて簡単に説明した。

 自動運転のための手法はさまざまだが(TeslaやSUBARUはステレオカメラだけで実現しようとしているし、Waymoのロボタクシーのように複数のセンサーを組み合わせて実現しようとしている例もある)、いずれにしてもセンサーからの入力を元に自動車周囲や進路方向の状況を把握したうえで、運転アシストないし運転手の代替をする必要になる。

おおむね自動運転のレベル定義は、国交省の資料から違いがない

 このレベル1~5の自動運転にどの程度の演算能力が必要か? に関するざっくりとした指針が下の画像である。

自動運転に必要な演算能力の指針。SAE(自動車技術者協会)標準化した仕様(J3016_202104)に出てくる数字を元にしていると思われる

 おおむねレベル4以上の自動運転には1000TOPSが必要という判断であるが、実はこの実現が非常に難しい。いや、1000TOPSという演算性能を実現するのは比較的簡単である。例えばNVIDIAのGB10が1000TOPS/1PFlopsの性能となっている。

 ただGB10はTDP 140Wであるが、こんなものをエンジンルームに置けるのかといったら絶対無理である。消費電力をもっと減らさないと車載のECU(Electronic Control Unit)として採用するのは不可能だ。例えばTeslaのFSDは最大で72Wという話だったが、これを車載環境で利用するためにTeslaは水冷を採用している。もう扱いがエンジンと大して変わらないわけだ(もちろんエンジンよりは発熱量が少ないが)。

 もう1つ厄介なトレンドが最近のSDVあるいは電動化の波である。例えば車体特性、従来ならフレームやサスペンションの構造やセッティングで決まっていたが、昨今ではアクティブサスペンション(動的に特性を変えられるサスペンション)を使い、後から変更が可能であり、これをソフトウェアから制御することで車の乗り味そのものを変更するといったことも志向されている。

SDV(Software Defined Vehicle)はここ1年くらいで急速に言われるようになった言葉だ

 電動化は言うまでもない話であるが、こうしたトレンドが出てくる中で現在急速に求められているのがドメイン・アーキテクチャーからゾーン・アーキテクチャーへの移行である。

従来は目的(Domain)別にECUを配していたが、これからは場所(Zone)別になるという話

 例えば今出てきたサスペンションの制御。従来ではサスペンション制御用ECUが中央にポンと置かれ、そこから4つのタイヤにそれぞれ配線が伸びてサスペンションの制御ユニットにつながるという格好になっていた。これがドメイン・アーキテクチャーだ。

 純粋に制御だけを考えたら、サスペンションの制御をまとめて行なう方が効率的なのは事実なのだが、問題はそのためには車体中央から各サスペンションまで結構な距離の配線が必要になるということだ。これはほかにも車体制御や照明制御、ウインドウやワイパー、エアバッグ、カメラ、エンターテインメント、etc...とすべての領域に渡るわけで、結果車は配線だらけになってしまうが、この配線の重量がバカにならない。

 そこで機能別にECUを置くのではなく、右前/左前/右後/左後と場所を決めて、その場所にあるすべての機器をまとめて1つのECUで制御する、というトレンドが出てきた。これがゾーン・アーキテクチャーであり、この場合ECUとそれぞれの機器の距離は大幅に短くなる。

 もちろん電源配線はどうしようもないし、それぞれのゾーンECU(上の画像で言うところのZone Gateway)同士はネットワークでつながるため、その分の配線は残るものの、トータルの配線は大幅に減る。そしてゾーンECUはあくまでもゲートウェイ的に動作させ、実際の制御そのものは中央に置かれたビーグルコンピューターでまとめて行なうことで、きめ細かな制御を集中管理できる。

 余談だが、こうしたゾーン・アーキテクチャーでは、ビーグルコンピューターはギリ水冷が許されるかもしれないが、ゾーンECU(Zone Gateway)の水冷はほぼ不可能である。したがって、空冷で動作すること、という制限事項が付かざるをえない。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事