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【前編】新潟国際アニメーション映画祭プログラムディレクター数土直志氏インタビュー

「映画祭」だと日本アニメの存在感が途端に薄くなる理由

2024年03月13日 18時00分更新

映画祭が「日本アニメ」の評価を高めた

―― 日本でも、映画作品がヨーロッパの映画祭で受賞するとニュースになりますよね。でも実際は、映画祭の基準は「大衆人気」ではなく「アート」だと。では、そこで賞を獲ることにどんなメリットがあるのでしょうか?

数土 「海外の権威ある映画祭で受賞する」というのは単純に賞をもらうだけに留まらないんです。

 世界的に権威ある3大映画祭と言えばカンヌ、ベルリン、ヴェネチアですが、2002年に宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』がアニメーションで初めてベルリンの最高賞・金熊賞を受賞したことで、スタジオジブリの評価は世界的なものとなりました。

 スタジオジブリの作品ファンが世界にも数多くいるのは、やはり映画祭などで評価を上げて、認知が広がっていったのも理由の1つです。そして評価が上がれば、海外でのビジネスにも結びつくという流れがあります。

―― 数土さんは著書『日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?』(星海社)でも言及されていましたが、作品が「映画祭」に出ると、どんな形で作家が認知されて、どうビジネスに結びついていくのでしょうか?

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数土 映画祭の大きな賞レースがマスコミに取り上げられるのは「コンペティション部門」です。

 これはまず、制作会社や作家が新作を映画祭のコンペに応募する。すると映画祭の前に選考され、何本かのノミネート(候補作品)が選ばれる。映画祭ではそのノミネート作品が上映されて、審査員によって各部門の賞が決定する……という流れがあります。

 でも、映画祭では必ずしも、賞を獲った作品と作家だけが評価を高めるわけではないんです。

―― どういうことでしょうか?

数土 映画祭の一番の効果は「作家の認知が広がる」ところにあります。どういうことかと言えば、映画祭ではノミネート作品以外にも、さまざまな特集が組まれて作品が上映されるからです。

 そして映画祭には大勢の評論家、研究者、文化人が来場しています。映画、文学、アートなどに影響力のある人たちですね。その人たちが「これは良い作品だ」と評価をすると、新聞や雑誌などのメディアに評論が載ったり、作家のインタビューが掲載されたりするわけです。

 また、映画祭にはコアな映像ファンもやってきます。「最先端のアニメーションはどこにあるか?」「次の才能はどこにいるんだ?」と探してるような人たちですね。そういう人たちが「この作品はすごい」と思えば、インフルエンサーとなって、作品や作家の才能を広める役割を果たします。

 上記が繰り返されることで、作家の知名度が広まり、賞に結びつき、地位が確立されていく、という流れがあるのです。

「玄人が唸る」ような作品は映画祭に出せ!?

―― すでに日本で支持されているアニメ作品でも「権威あるヨーロッパの映画祭で受賞すること」が大事だと。なぜ大事なのかを、あらためてお聞かせください。

数土 1つは「作品と作家のため」です。日本でもいわゆる大衆的な娯楽作品は広まりやすいんです。人気や魅力が興行収入やテレビの視聴率、配信の視聴回数などの数字に現われますから。そうした作品は海外の配給会社もすぐに見つけてくれるから海外展開にもつながりやすい。

 一方で、「作家性が強い」と言われる個性的な作品は、一部の熱狂的なファンは付くけれど、認知を上げていくのはなかなか難しいものです。そういった作品を映画祭に出すわけです。映画祭での評価基準は大衆的な人気とは違いますから、映画祭をきっかけとして世界各国の潜在的なファンにも届くようになります。

―― つまり、「玄人が唸る」ような作品は、映画祭に出したほうが良いと?

数土 1990年代までは偏見を持つ人も少なからずいました。「日本のアニメは、スタジオジブリ以外はセックスとバイオレンスの集合体だ」なんて大真面目に言う識者もいたくらいです。

 そうした状況のなかで、先駆者である作家たちが映画祭に出品して評価されることで、「日本のアニメはこんなにも個性的で多様なんだよ」と印象づけることができた、という歴史があります。

―― なるほど! 映画祭で認められることは、「日本の一部の監督が有名になる」だけでなく、「日本アニメ全体の評価が上がる」ところに結びついていたのですね。

数土 海外の映画祭で高畑勲、宮崎駿、今敏、押井守などの作品が受賞することで、日本アニメの評価が高まりました。そうした映画祭での受賞に至るまでには、大友克洋監督の『AKIRA』(1989年)、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)などが海外ではビデオで見られていて、映像ファンから高い評価を得ていたという経緯があります。

 新潟国際アニメーション映画祭の第1回では、審査員を押井監督にお願いして、大友監督に来場していただいたのも、彼らの功績に対するリスペクトのつもりです。

コラム:主な日本アニメ作品の受賞歴(1990~2000年代)

1995年 高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』アヌシー国際映画祭グランプリ受賞
1997年 今敏監督『パーフェクトブルー』カナダ「ファンタジア映画祭」グランプリ受賞
2002年 宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』ベルリン映画祭金熊賞(最優秀賞)受賞
2004年 押井守監督『イノセンス』カンヌ映画祭コンペティション選出
2005年 湯浅政明監督『マインド・ゲーム』ファンタジア映画祭5部門で受賞

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