週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

脱炭素、医療、交通

日立と日立で取り組む、未来都市の共創

2023年12月25日 08時00分更新

今回のひとこと

 「日立製作所と日立市は、一企業と行政の立場を超えた絆が育くまれている。人口減少や少子高齢化、脱炭素、デジタル化の推進といった課題に対して、日立製作所の支援を得ることができる。大きな力をもらった」

(日立市の小川春樹市長)

次世代未来都市共創プロジェクト

 日立市と日立製作所は、次世代未来都市(スマートシティ)共創プロジェクトを開始することを発表した。

 12月21日に、日立市役所で、包括連結協定締結式を行い、日立市の小川春樹市長と、日立製作所 執行役副社長 デジタルシステム&サービス統括本部長の德永俊昭氏が、協定書に署名した。

 今回の包括連結協定では、日立市の「グリーン産業都市」、「デジタル医療・介護」、「公共交通のスマート化」の3点に取り組むことになる。

 日立市出身で、幼少期を日立市で過ごした日立製作所 執行役副社長 デジタルシステム&サービス統括本部長の德永俊昭氏は、「日立製作所の強みが生かせる3つのテーマから取り組みを開始する。日立市との共創を通じて、社会イノベーションを起こし、Society5.0を具現化する」と語る。

 また、日立市の小川春樹市長は、「日立市は、直面する課題を克服し、未来につなぐ市政運営に向けた道しるべとして、2022年度に、日立市総合計画を策定した。この計画では、4つのプロジェクトを設定し、そのうちのひとつが、『未来都市プロジェクト』である。今回の連結協定により、共同で課題に取り組むことになる」と位置づけ、「連携協定で取り組む3つのテーマは、いずれも日立市の活性化や、市民が安全安心に暮らせる街づくりを推進する上で、極めて重要な取り組みになる」と述べた。

グリーン産業都市の構築

 ひとつめの「グリーン産業都市」の構築では、日立市が打ち出している「ゼロカーボンシティひたち」に呼応。日立市全体のCO2排出量を、2030年には、2013年比で46%を削減し、2050年には実質ゼロにする目標達成を支援する。

 第1弾として、日立市内の中小企業のエネルギー使用量やCO2排出量の見える化を支援する「中小企業脱炭素経営支援システム」を、2023年10月から、日立市で供用を開始。日立製作所のデジタル技術の活用により、CO2排出量の見える化や削減ポテンシャルの算定、ロードマップの策定と計画の進捗管理を行うことができるという。

 日立市では、CO2排出量の約7割が「産業」領域によるもので、全国平均の約4割を大きく上回っている。また、その半分が中小企業からの排出となっている点も見逃せない。

 「中小企業の努力に頼るのでなく、地域企業、大学、金融機関、行政の産学金官連携によるエコシステムが必要不可欠である。中小企業が1社ごとに取り組むには大きな負担がかかる。日立製作所が貢献できる部分が大きいと考えている」と、德永副社長は語る

日立製作所 執行役副社長 デジタルシステム&サービス統括本部長の德永俊昭氏

 たとえば、日立市内にある日立製作所大みか事業所では、カーボンニュートラルを目指して、自らが実証フィールドとなり、グリーン化に取り組んでいる。ここで蓄積した脱炭素化に関する技術やノウハウを、地域に還元する「大みかグリーンネットワーク」を構築しているほか、「日立市・中小小企業脱炭素経営促進コンソーシアム」にも参加し、日立市の脱炭素化に貢献する活動を進めているところだ。

 「日立製作所は、日立市で創業し、エネルギー分野で事業を拡大してきた。今度は、日立市のグリーン産業都市化を通じて、グリーンエネルギー事業を成長させ、第2の創業とも呼べる取り組みを進めていく」と宣言する。

 将来的には、日立市内に事業所をもつ企業の従業員向けにEVのリースや、職場充電が可能な環境を提供することで、通勤車両の電化促進を図るほか、スマート住宅団地や産業団地の計画を検討するなど、若者が誇れるグリーンな街づくりに向け、幅広く活動を検討していくという。

デジタル医療・介護

 2つめの「デジタル医療・介護」では、地域医療体制の構築、高齢者福祉の取り組みにおいて、デジタル技術とデータ活用によって、「住めば健康になるまち日立市」の実現を目指すという。

 具体的には、1938年に、日立市内に開業した日立総合病院と連携して、デジタルを活用したオンライン診療環境の整備、健康データの集約と活用、地域包括ケアシステムの構築などを進めていく。

 また、健診データなどに基づく将来の疾病リスク分析、その予防に向けた市でのさまざまな健康増進事業を連携させた一人ひとりの状態に合わせたサービスの提案などを想定。さらに将来的には PHR(個人の健康に関する情報)を一元的に管理し、それらを活用した住民の健康状態の見守り、住民に寄り添った生活習慣・行動改善アドバイスなど、デジタルを生かした豊かな生活の実現に向けて取り組んでいくという。

 「データに基づく適切な健康維持や増進、疾病予防および介護予防施策、医療・介護サービスを提供することで、安心して生活できる街づくりに貢献する」と述べた。

公共交通のスマート化

 3つめの「公共交通のスマート化」では、日立市では慢性的な幹線道路の渋滞、高齢者や免許返納者の移動手段の確保など、交通や移動に関する課題解決に取り組む。ここでは、既存の交通事業者や新たな移動手段との連携も進める。

 日立製作所は、イタリアのジェノバにおいてMaaSアプリを提供。シームレスな移動体験の社会実装に成功している。こうした国内外の実績をフルに活用。AIなどのデジタル技術を用いて利用者の多様なニーズに応える移動のシームレス化の検討や、自宅から路線バスなどの公共交通の結節点まで、あるいは市街地の移動手段として、歩行者と共存可能な次世代モビリティの検討を進めていく。

 「2035 年の『日立市の交通のあるべき姿』をグランドデザインとして描き、移動に関する課題解決に取り組む」としている。

共同推進チーム

 さらに、日立製作所の德永副社長は、「日立市との議論をさらに深め、短期的施策の実行と成果の刈り取り、中長期的な施策の検討を並行して進める」とコメント。日立市の小川春樹市長は、「街づくりを進めるための日立市総合計画を、確実に進捗する使命がある。日立市は、人口減少、高齢化、脱炭素、デジタル化の推進の課題がある。日立製作所の支援を得て、ともに進めことができる。力をもらった」とした。

 日立市では、副市長をチーム長とするプロジェクト体制を構築。日立製作所では、常務をチーム長とする共同推進体制を組成。日立製作所社内には、11月1日付で「ひたち協創プロジェクト推進本部」を立ち上げており、脱炭素化、デジタル医療・介護、スマート交通など、約50人の社会イノベーションのプロフェッショナル人材が集結し、具体的な検討を進めている。

日立市の発展は日立製作所の発展とともにあった

 日立市の小川市長は、「日立製作所と日立市は、一企業と行政の立場を超えた強い絆が育くまれている。日立市の発展は、常に日立製作所の発展とともにあった」と指摘する。

小川市長

 日立製作所は、1910年に、日立市で創業した。

 「初の国産5馬力モーターの開発に成功して以来、日立市において大きな発展を遂げ、世界30万人の社員を有する大企業として、日本経済を牽引している。日立市民にとっても大きな誇りである」と小川市長は語る。

 また、小川市長はこんなエピソードも語る。

 「歴史を記した日立製作所史を見ると、創業者である小平浪平翁は、日立市は、気候も景色もよく、東京から遠くもなく、面白みを感じて永住してもよいと思える場所とし、都会を避け、日立の土地で、事業を伸ばすのはよいことだと記している。私も、小平翁が打ち出した企業精神に勇気づけられてきた」とし、「社会情勢は大きく変化したが、いまでも多くの日立グループ社員が、日立市民として生活を送っている。今回の連携協定は、日立市出身の德永副社長から提案をもらったのが発端となっている。日立製作所が日立市に特別な思いを寄せていることに感激し、将来に向けて、ともに永続的な発展を遂げたいとの思いを強くした」と語る。

 これを受けて、德永副社長は、「日立市を訪れるたびに、街が変わっていく様子を感じた。かつては茨城県で最も人口が多い都市だった時期もあった。日立市に対して、支援ができないかということをずっと考えていた。そうしたなか、日立市の課題解決に役立てることに気がつき、それを逃さずに2023年6月に一緒に取り組みたいと提案した。幼少期の体験を含めて、ひっかかるものがあり、それが今回の取り組みのエンジンになっている」とする。

 そして、「創業の地で、新たな共創を始めることができる。日立市の活性化に加えて、全国のモデルになる、持続可能な街づくりへの新たな挑戦でもある」と意気込む。

 2024年1月15日は、小平浪平氏の生誕150周年にあたる。そのタイミングで、創業の地において新たな共創プロジェクトがスタートすることになる。強い絆を持った両者が取り組むスマートシティの共創は、ほかのスマートシティとは一味違うものになるのか。今後の取り組みが注目される。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事