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『続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子 著、講談社)を読む

黒柳徹子さん「窓ぎわのトットちゃん」42年ぶりの続編に懸けた思い

2023年12月14日 07時00分更新

体験した戦争のことを書き残したいという思い

 終戦後に東京へ戻ったトットは女学校時代、イタリア映画の代表作である『トスカ』を観て感銘を受ける。そこで展開される世界は、戦争が終わったばかりで着るものがほとんどなかった時代からすれば夢そのもので、それは「あの人になろう!」という思いへとつながっていった。

でも、オペラ歌手になると決めても、なにをどこでどう勉強すればいいのかがわからない。香蘭(筆者注:通っていた女学校)のともだちに相談すると、「それは、やっぱり音楽学校じゃないの?」と言われた。トットのママは、音楽学校に通っているときにパパと出会って結婚したので、まずはママに「オペラ歌手になりたいと思うんだけど」と、おそるおそる相談してみた。
すると、いつもの感じで答えが返ってきた。
「そうなの。いいんじゃない」(155ページより)

 やはりここでも、子どもの言うことを決して否定しない“母の力”が発揮された。かくしてトットは音楽学校で学ぶことになり、NHKの専属女優として活躍するようになっていったのだった。

 こうした関係性がとても素敵なので、個人的には本作を親子の物語として読んだ。もちろんそれも間違いではないだろうが、先にも少し触れたように、本書を書こうと思い立ったことにはもうひとつ、とても重要な理由があったようだ。

 長寿番組『徹子の部屋』について触れられた「あとがき」に書かれているその部分を引用し、この文章を終えようと思う。

二〇二二年最後の放送のゲストは、例年どおりタモリさんだった。「来年はどんな年になりますかね」という私の質問に、「なんていうかな、(日本は)新しい戦前になるんじゃないですかね」という答えが返ってきたけど、そんなタモリさんの予想が、これからもずっとはずれ続けることを祈りたい。
『徹子の部屋』の四十八年間は、こういうお話を伺い続けた四十八年間でもあった。私が体験した戦争のことを書き残しておきたいと考えたことが、『続・窓ぎわのトットちゃん』を書くきっかけの一つだということも、このあとがきに書いておきたかった。(252ページより)

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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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