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我々はどう生きるか。これからも問い続ける|第3回「明日の危機」レポート

首都災害、意外な新事実 清水建設、データ分析で明らかに

2023年11月30日 11時00分更新

文● アスキー
提供: 清水建設株式会社

「海」と「避難」を1つのテーマとした防災展示

── そうした「マチミル」のデータを見せたのが交通防災展示ですね。今回はどういう企画だったんですか?

佐多 シミュレーションを重ねているのでどんどんデータも増えているし、伝えたいこともたくさんある。関東大震災100年ということもあり、当時の写真なども見せたい。企画側の様々な思いをテーマ毎に分けて別々のパネルにするより、今回は大きな1枚の板(パネル)に全ての情報をまとめてはどうかと考えました。文字を読んで詳しい内容を理解する前に、巨大なパネルの存在感そのものが、来場した方に危機感や熱量を伝えてくれるのではないかと期待したんです。

インフラス(Infras) 佐多祐一氏

── 「いつかやってくるそのとき、我々はどう生きるか。これからも問い続ける」というメッセージが印象的です。阪神淡路大震災の写真も展示したんですね。

佐多 当時、実際に自衛隊の方々が撮影された写真を展示しています。救援活動の際、海上自衛隊と陸上自衛隊が別々に支援に行ったんですが、道路の寸断などもあり、陸上自衛隊は最も被害を受けた神戸市内になかなか入れなかったそうなんです。一方で海上自衛隊は神戸中心部に近い港に着岸できたので、救援拠点として多いに活躍したという話がありました。陸上自衛隊の方が休む場所もなかったので、海上自衛隊の船を開放し、そこから海自と陸自の協力が進んだそうです。

── 海が救助の拠点になったと。面白いですね。

佐多 海上自衛隊で現場指揮をとった仲摩徹彌さんという方が、その時の教訓から「海は壊れないインフラ」というメッセージを発していて、非常に感銘を受けたので展示でもその言葉を載せました。自衛隊が救助に行くための道路が寸断されていたり、なかなかヘリの発着場所が決められないなか、船だから近くの港まで行き、活動拠点になることができたという話はこれからの防災でも重要な観点なんじゃないかと。

── 海は壊れないインフラ!

佐多 これは関東大震災も同じなんです。警視庁保安部が作った木造建物被害分布図をよく見てみると、港湾部に線が書いてある。これは当時、救援物資を運ぶための航路を示しているんですね。東京湾の中で、芝浦の港が唯一大きな船が着岸できる場所だった。そのとき芝浦で実際にどんな活動がなされたかという写真と共に、これが航路になっているということがわかるような模式図を作成しました。

── 東京もやはり臨海部がキーになるわけですね。

常田 今回、江東区に多く設置されている防災船着場をテーマにしようと思ったんですが、これは宿題として残っています。江戸時代から、江東区には運河が縦横に整備され、水運を利用した倉庫・問屋の街として栄えましたが、この運河が今はほとんど使われなくなってしまいました。江東区としても平時の活性化と災害時の避難の連携を考えているそうですが、これまではなかなか動けなかったと。

清水建設株式会社 スマートシティ推進室 次世代都市モデル開発部 常田昇氏

── どうなんですか、今でも船は支援に使えるんですか?

大村 東京都観光汽船さんに伺ったお話では、2019年の台風19号のときは想定より早く水門が閉まってしまい、船が出せる状況ではなかったそうです。乗務員も家にいるので、そのときにはすぐに呼ぶことができなかったと。平時から観光船などの定期便が沢山出ていれば災害時にも転用できますが、現在はそうはなっていません。「明日の危機」では第1回から東京都観光汽船さんと議論を重ねていますが、「まずは平時での利用を増やさないといけない」という話をしています。

── 実際にそうした取り組みはあるんですか。

土田 東京都が舟運の活性化に向けた取り組みを進めており、豊洲~日本橋間の「船旅通勤」の定期運航が先日開始されています。夕方ゆっくり船に乗って帰宅する。そういうライフスタイルを提供していると思います。

── お〜、そういうのは良いじゃないですか!

土田 ミチノテラス豊洲で船着き場を整備したのは水陸の交通結節点をつくりたいと考えたからです。ミチノテラス豊洲では駅や交通広場のバス停、運河沿いの船着き場を歩行者デッキで立体的につないで、デッキ上や運河沿いににぎわいを生み出す店舗などを整備しています。そういうにぎわい拠点がセットになっていないと、普段も災害時も船着場には行きにくいですよね。それが舟運活性化を進める上での課題だと思っています。

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