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ベネッセ、窓口業務に生成AI “人の価値”見直すきっかけに

2023年10月13日 12時00分更新

 ChatGPTなどLLMを用いた生成AIの活用で、大幅な効率化が期待されている業務のひとつにコンタクトセンターがある。この分野にいち早く取り組んでいるのが、「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」でおなじみのベネッセコーポレーションだ。

 同社では今年6月、コンタクトセンターやバックオフィスを運営するTMJ、音声認識を用いたソリューションを提供するHmcommとともに、「次世代コンタクトセンタープロジェクト」を始動。9月には生成AIの導入に先行して進めた、音声認識AIを活用した取り組みが評価され、業界専門誌が主催する「コンタクトセンター・アワード2023」のオペレーション部門で最優秀賞を受賞している。

 同社によれば「次世代コンタクトセンタープロジェクト」の狙いは、「お客様からの問い合わせ対応」「窓口管理・サポート」に生成AIを活用することで、「お客様にとってより早く、簡単に、エフォートレスに用件解決できる」サービスを提供することだ。年度内には生成AIの窓口内利用の一部実用化を目指すという。

 生成AIを活用した次世代のコンタクトセンターとはどのようなものなのか。現在の進捗や見えてきた課題、今後の取り組みについて、ベネッセコーポレーション コンタクトセンター開発部 部長の稲垣昇司氏と、同インバウンド課 課長の森田哲生氏に聞いた。(以下、本文内敬称略)

生成AIでオペレーターの品質向上目指す

──まず「次世代コンタクトセンタープロジェクト」を立ち上げた背景から教えてください。

稲垣 ベネッセの業務は、幼児向けの「こどもちゃれんじ」から小中高向けの「進研ゼミ」まで、秋から4月の入学シーズンにかけてが繁忙期となります。夏の閑散期に対して繁忙期の業務量は約3倍。コンタクトセンターの人員も倍近いキャパシティが必要です。一方でオペレーターの採用が、年々難しくなってきている状況もあります。採用ができても、新人のオペレーターでは品質に不安もある。お客様の利便性を損なうことなく、品質を向上しながら、どうコストを最適化していくか。どうしたら生産効率を上げられるかという課題がずっとあったところに、AIの話しが飛び込んできました。人とAIをうまくハイブリッドできないかというところと、会社全体で動いているコスト構造改革、その両方に軸足をあわせて動き出したというのが経緯です。

コンタクトセンター開発部 部長 稲垣昇司氏

森田 コンタクトセンターは労働集約型組織で人権費が高く、運営費の6~7割が人権費です。さらに弊社の場合は繁閑差のギャップがあるので、それをすべて人で補おうとするとどうしてもコストが高くなる。そこで2017年からコンタクトセンターのデジタル化を進め、Chatbotの導入や、有人チャット窓口の開設、電話で行っていた「何番を押してください」のような案内をWebでビジュアル化して、適切なルートにおつなぎする「Visual IVR」といった技術を順次導入してきました。2020年頃からは音声認識によるテキスト化の取り組みも始め、2022年に本格導入しています。これら既存のアセットと生成AIを組み合わせることで、お客様の利便性と生産性を飛躍的に向上できるのではないかというのが、プロジェクトの背景になります。

 デジタル化については、何か壮大なロードマップやグランドデザインがあってやってきたというより、どちらかというと一番実現可能性が高く、かつお客様の利便性が毀損しない取り組みから、とりあえずやってみようということで取り組んできました。できるところから増築型でやってきたんですが、生成AIが出てきたタイミングで一度全体を見直して、グランドデザインを描いてみようと立ち上げたのが、今回のプロジェクトということになります。既存のアセットのどういうところを生成AIと組み合わせれば、効果を倍増できるのか。今まさに取り組んでいるところです。

──具体的にはどういうところに、生成AIを組み込んでいこうと考えているのですか?

森田 先ほど、コンタクトセンターは労働集約型だという話をしましたが、逆に「人の手じゃなくてもいいところはどこか」ということです。生成AIには間違った内容でももっともらしく見えてしまうハルシネーションの問題などもあり、お客さまに直接ご利用いただくにはまだリスクがある。そこでまずはバックグラウンドの、窓口内での利用というのを第一のターゲットと考えています。その中でも必ずしも人がやらなくてもいいこと、たとえば音声認識と組み合わせて、テキスト化された応対履歴を要約して記録するといったことを考えています。

 また繁忙期には新人採用のために習熟度の低いオペレーターも多くなるのですが、そういう人たちがわからないことがあったときに、生成AIに質問して自己解決できるようにしたい。本当に適切な回答を出せるのか、その実現可能性をPoC(実証実験)という形でトライアルしながら、確かめつつやっているところです。

稲垣 たとえば「進研ゼミ」では毎月テキストが変わります。今までは研修などで対応していましたが、お客様との会話から必要な回答の候補が自動的にあがってくるようなものができれば、オペレーターはお客様の課題解決に集中できます。またすでに今、Chatbotや音声Botでお客様確認をした上で、オペレーターに引き継げるようになっていますが、たとえば音声bot+生成AIでの一次対応し、それを要件として要約した上でオペレーターに引き継げば、お客様体験も向上できる。そういうトライアルもやろうとしています。

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