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やっぱりアトモスはいいぞ! ガールズ&パンツァー最終章 第4話は本日公開!

2023年10月06日 13時00分更新

『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話

視界の悪い雪原での対戦

密度感の高い映像を生かす音響の演出

 先述の「BLAME!」から数えて、岩浪音響監督がドルビーアトモスを手掛けるのは11作品目。ある意味日本で一番アトモスを作っているクリエイターと言える。ただし、本作では従来手掛けてきたものとは少し異なるアプローチで作品作りに臨んだそうだ。

『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話

トークショーの様子

 その理由は映像にある。試写会後、岩浪音響監督が最初に口にしたのは「シナリオを見てどうなんだろう、コンテでもどうなんだろう。映像をみてぶったまげた。やりすぎでは?」という言葉。約54分の上映時間のうち、バトルシーンが占める時間は40分以上。普通ではあり得ない尺の長さに加え、内容がかなり詰め込まれた密度の高い映像になっていることに驚いたのだという。

 アクションシーンがウリのガールズ&パンツァーだが、それでもバトルシーンと日常シーンの割合は半々程度だった。「これまでは観客が落ち着いて観られるシーンと迫力のあるシーンでメリハリを付けた演出ができた」が、本作では「映像の密度がものすごいので、いままでのようにでしゃばってはいけない、映像の理解度を深めるような音作りを目指した」と岩浪音響監督は話す。BGMも最小限とし、音響的にも音量的にも、「対戦のクライマックスに向けた流れを重視するつくりになっている」という。こうした表現も「映像のすごさ」を生かすための配慮だ。

岩浪「(過去には)結構無茶な音をいれたこともあったが今回はそうではない。音でドヤっとするものではないです(笑)」

アトモスだから、いま何が起こっているか、どういう状況なのかが分かる

 その意味するところは比較用に用意された5.1ch版を見ることでよく感じ取れた。

 ドルビーアトモスは、空間の狙った場所に音を自在に配置できるオブジェクトベースの技術である。横、縦、高さそれぞれの軸に対して約1000ポイント、全体で10億ポイント以上になる座標上に、音(オブジェクト)の位置をピンポイントで指定でき、爆発はここ、弾丸はこの位置からこの位置へなど、物体ごとに独立した音を動かせるのが特徴だ。5.1chや7.1chのサラウンドは現在の映画館における標準的なフォーマットであり、音の広がりや迫力という点では十分な表現力を持っているが、音の移動や方向感の再現という意味では、やはりドルビーアトモスにはかなわない。

『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話

継続高校の「白い魔女」ヨウコの狙撃に苦戦?

 ガールズ&パンツァーの魅力は戦車と戦車の激しい対戦だ。複数台の戦車が絡んだ乱戦になることも少なくない。その迫力を増すために、カット割りではアップや一人称の視点が多く用いられる。ここで問題になるのが、いま目の前で何が起こっているのか、各車両の位置関係はどうなっていて、誰が放った弾丸がどの方向から飛んできたのかといった情報の把握がしにくくなることだ。この情報を補うのが、音による演出だ。ドルビーアトモスを用いれば、右から放たれた弾丸が装甲に当たった、だから敵は右にいるはずだといった空間の把握を、画に加えて音を通じて効果的に補える。

岩浪「(戦車や弾丸の)フレームイン、フレームアウトの表現もすごく多いので、音の移動感をどう見せるかに配慮しました。観客に対して『映像のここを見てほしい』『ここですごいことがおきているよ』といった位置の情報が明確に伝わるようにし、鑑賞の助けになるような音作りを心掛けています」

『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話

 ドルビーアトモスで制作した本作品の音響には、一皮むけたような抜け感の良さがある。特に効果音は明瞭で、戦車の車内のシーン、そして吹雪や砂塵が吹き荒れる屋外のシーンなど環境音による場面の変化、状況の変化も感じ取れる。また、音数があるのに、セリフや音楽がしっかりと分離して、まったく聞き取りにくくないというのも印象的な部分だ。これに映像を補完する音の演出が加わることで、シーンの理解度が高まり、まるでその場に立ち会っているかのような没入感が高まることになる。

 ガールズ&パンツァーと言えば、つかみのある音響=迫力のすごさが特徴のひとつだった。しかし、『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話では、こうした分かりやすいエンターテインメントの枠を超え、映像と音声が一体となることで、深く練り込まれた対戦自体、戦車とキャラクターが織りなすドラマを楽しめる、より新しい表現に挑戦しているのだ。

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