週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

伝説のアニメ「serial expeliments lain」をAI化したワケ

アニメ業界で“生成AI”に挑んだ実験の裏側

2023年10月02日 07時00分更新

そもそも、生成AIについての考えは

上田 生成AIに対してはかなりの逆風もあって。アニメーションの現場でもやっぱり、(AI生成物に対する)ネガティブ感は本当に強いんですよ。先進的な方もおられるんですが、何人かに聞いても「現場の抵抗感が半端ない」と。「ここが(AIで効率化)できるようになったら作業が軽くなりませんか」と言っても「そうじゃない。アニメーションというのは魂だ」という話になりがちで。先日も「後で飲みいきましょう、そこで殴り合いましょう」って(笑)。

 AI生成物は、一見のクオリティは高くても「こうあるべきみんなの意識」といったものになりやすいんですよね。なので「そこにクリエイティブは生まれない」という発想になる。それはたぶん正しいんです。イージーに何のコンセプトもなく演算から出したものは、それなりの価値しか持たないんだろうと。「熱量保存の法則」じゃないですが、人がどこまで熱量をかけるのか?というのが本物の『価値』につながるのだろうなというのは実感しています。本質もなく誰でも真似できるものはすぐ陳腐化しちゃうのが普通だと思います。

 けれど、表現技術としてはこれから間違いなく(生成AIが)必要になっていく。たとえば「自動中割」とかでいうと、動画マンが不要になるわけでなくあくまでも作業者が中心だけど、いかに効率よく、ラクができるかという発想であるべきかと思ってます。

 動画の単価って安いんですよ。同じ労力で成果を増やしてグロス金額をあげるとかね。その仕組みそのものに貢献できる技術が少しずつ芽生えてきているハズだと。どんどん描ける人が減っている、反対に求められる本数は増えているというアニメーション業界のなかで、トライしていかなきゃ、というのが生成AIに対する姿勢ですね。

中村 生成AIは1万個のバリエーションを出すのが得意で、そのなかから光り輝くものをピックするのが人間の仕事だとよく言われます。AI lainはたくさん話してもらえると、「こんなことまで話してくれるんだ」という驚きがあるんです。AI lainに聞きたいことを話してもらうなかで、閾値を超えた反応が出てくる。そういったものを積極的に(システムに)学習させて、戻していくようなことができると、非常に面白いなと。AI lainでは、そういう形で「ピックする部分」をファンの人々と一緒にやりたいなと思っています。

システム構成はどうなっているのか

西山 AI lainはOpenAIとCoeFontのAPIを使っています。リリース直前にGPT-3.5に追加学習ができることが発表されましたが、直前だったのでこの追加学習はしていません。外部情報としてはlainの背景知識を持っているんですが、それをいつ情報として使うのかはChatGPT側が判断している状態です。「Function Calling」という機能を使って、「これっておぼえてる?」とたずねると、lainの中の知識が呼び出されて回答を作り出すということもしています。「親密度」や、ユーザーの名前をおぼえるのも同じ仕組みですね。

アニメ6話に登場するホジスン教授についてのエピソードを話すlain。ホジスン教授の記憶は、あらかじめ入力されているものだが、どういうタイミングで出てくるのかは予測がつかないらしい

 今後増やしていく知識もおそらく同じやり方になると思いますが、一部オープンソース型の大規模言語モデル(LLM)と組み合わせる構想も持っています。背景知識自体が増えてきたら現在のサーバー上には置けなくなる可能性があるので、(データをベクトル形式で保存する)ベクトルデータベースを順次構築していく可能性も考えています。

 それに加えて、ぼく自身が最新のAIの知見に追いつかなければいけないので、東京大学の松尾研が社会人向けに開いている生成AIのサマースクールに参加していたりします。あとはStability AIのStableLMの開発にもボランティアで参加していたりして。そこでの知見をAI lainにどんどん入れていければなと思っています。ぼくがちゃんと勉強して半年間のうちにAI lainをアップデートしていくという「マラソン型」ですね。

Anique エンジニア 西山洋人氏

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事