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『コンビニオーナーぎりぎり日記』(仁科充乃/著)を読む

「休日が取れなくなって1057日目」ぎりぎりのコンビニオーナーが、それでもコンビニを経営してよかったと思えた瞬間

2023年08月24日 07時00分更新

コンビニ経営をしていて「良かったこと」もやっぱり人間

 後半部分で著者は、「私はファミリーハートを愛しているのだろうか? それとも憎んでいるのだろうか?」と自問自答している。そしてそのあとには、多くの不満も明らかにしている。

 しかし最終的には「私はやっぱりファミリーハートを愛している」という結論に達しており、「あとがき」では編集者からの依頼を受け、「コンビニ経営をしていて心からよかったこと」について考えてもいる。そんなこと思いもつかず、ずいぶん悩んだようではあるが、こう結んでいるのである。

 冷凍便の運転手さんは、白髪の品の良い紳士で、氷や中華まんの段ボール箱の置き方がじつに丁寧だ。音を立てずにきちんと置いてくれるだけではなく、この後の私の検品作業がしやすいように、必ずバーコードを読み取りやすい位置に並べて置いてくれる。
 パン便の運転手さんは、40代前半で元気いっぱい。入ってくるときの元気なあいさつと笑顔が素敵だ。彼がハツラツとした声であいさつしながら入ってきてくれると、どんなに忙しくてイライラしていても私もハツラツとあいさつを返し、気分が穏やかになる。こんなことだって、「良いこと」だろう。(203ページより)

 そういった小さなことのおかげで、私たちも気持ちよく買い物ができるのだ。読み終えたあと、そんな当たり前の、しかし忘れてしまいがちなことを改めて感じたりもした。

 そういえば近所のコンビニには数年前、ものすごく感じのいい中国人のアルバイト青年がいた。接客が気持ちよかったので会うのが楽しみだったのだけれど、いつの間にかいなくなっていた。あの子はいまごろ、どこでなにをしているんだろう?どこかで元気に生きているといいな。

 
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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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