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深谷自動運転実装コンソーシアム:

自動運転バスに取り組む深谷市、渋沢栄一も喜ぶだろうと市長

2023年07月10日 08時00分更新

今回のひとこと

「深谷市は、日本経済を築き上げた渋沢栄一の里でもある。先進的な自動運転技術を、深谷市から発信できることに、渋沢栄一も天国で喜んでいるはずだ」

(深谷市の小島進市長)

 埼玉県深谷市は、日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一氏の生誕の地として知られる。東京から約1時間の距離にあり、2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の放映にあわせて、コロナ禍ではあったものの、ゆかりの地を巡る観光客の姿も多く、深谷市が一気に注目を集めたのは記憶に新しい。

 さらに、2024年7月に発行される新1万円札には、渋沢栄一氏の肖像が描かれることから、改めて、深谷市に注目が集まることになりそうだ。

 そうしたなか、深谷市がもうひとつの取り組みで注目を集めている。

 それが自動運転バスの運行に向けた取り組みだ。

自動運転マイクロバス

 深谷市は、6月27日、埼玉工業大学やKDDIなどと、「深谷自動運転実装コンソーシアム」を設立。深谷市役所で連携協定の締結式を行った。

協定締結書

 同コンソーシアムは、深谷市における地域公共交通の自動運転技術の導入および推進を目指すもので、まずは、2023年度後半を目標に、約1カ月間の実証実験による運行を計画。将来は、深谷市の公共交通の運営に自動運転を取り入れることも視野に入れている。

 深谷市では、2021年2月16日から2022年1月10日までの期間限定で、「渋沢栄一 論語の里 循環バス」の営業路線に、大型自動運転バスを導入した経緯がある。

自動運転を行った「渋沢栄一 論語の里 循環バス」

 全長9m、58人乗りの大型自動運転バスで、走行範囲を順次広げながら、渋沢栄一記念館、尾高惇忠生家、旧渋沢邸・中の家、誠之堂などを周回する約26kmのルートを自動走行。期間中の走行距離は1万554.5kmに達し、営業運行する自動運転バスとしては、国内トップクラスの走行距離を実現した。

循環バスのルート

 深谷市の小島進市長は、「数年前までは、自動運転は異なる次元の話だと思っていた。だが、自動運転は、自治体経営において実現すべきテーマのひとつであり、今後、深谷市内のバスを自動運転にしていきたいと考えている。深谷市は、日本経済を築き上げた渋沢栄一の里でもある。先進的な自動運転技術を、深谷市から発信できることに、渋沢栄一も天国で喜んでいるはずだ」と語る。

運転手不足や運転手の高齢化が深刻化

 深谷市では、市内公共交通における運転手不足や運転手の高齢化といった問題が深刻化しており、将来的な公共交通の維持、確保を重要な課題まひとつにあげる。

 「深谷市は都市部も農村部もあり、日本の縮図のような場所である。コンソーシアムの参加企業と連携し、市内公共交通における『地産地消』の自動運転技術導入を目指すことで、今後の高齢化の進行や人口減少社会にしっかりと対応した持続可能な公共交通の実現に向けて取り組む」と意気込みを語る。

コンソーシアムの参加一覧

 コンソーシアムでは、参加各社の特徴を活かし、地域の課題を解決し、持続可能な公共交通の実現に向けて相互に協力する。具体的な活動として、「自動運転技術に関連した社会ニーズの掘り起こし」、「社会ニーズに即した自動運転技術の開発及び環境整備」、「次世代モビリティサービスとしての自動運転技術の社会実装に向けた検討」、「自動運転技術による関連産業の振興」などを行うことになる。

次世代自動車に取り組む、埼玉工業大学

 深谷市が自動運転バスの取り組みに積極的な背景には、深谷市に本部を置く、埼玉工業大学の存在が欠かせない。

 埼玉工業大学は、2016年に創立40周年記念として、学内次世代自動車プロジェクトを開始。実験車としてプリウスを入手し、自動運転ソフトウェアの開発に着手。2017年10月に公道での実証実験をキャンパス周辺で開始した。

 埼玉工業大学の内山俊一学長は、「2017年時点では、国内では例が少なかった自動運転の公道走行を、深谷市の理解と承認を得て、先進的な研究を開始することができたことが大きかった」と振り返る。

 2019年度には、私学では初となる自動運転技術の全学的な研究組織として「自動運転技術開発センター」を設立するとともに、自動運転マイクロバス「リエッセII」を開発。2020年度に自動運転大型バス「レインボーII」を開発した。また、2018年には自動運転技術の大学発スタートアップ企業として、フィールドオートを設立としている。

 その後、兵庫県播磨科学学園都市や愛知県日間島、長野県塩尻市、栃木県茂木町、千葉県千葉市、東京都羽田空港、愛知県セントレア空港、愛知県モリコロパークなどでの自動運転の実証実験を行ったほか、先に触れた深谷市の「渋沢栄一 論語の里 循環バス」の自動運転にも埼玉工業大学の研究成果が生かされている。これらの実験の積み重ねによって、自動運転技術を進化。2021年度以降は、毎年1万km以上を自動運転で走破しており、正着制御では誤差3mm以内の精度を実現しているという。

 埼玉工業大学の内山学長は、「深谷市をはじめ地域のニーズに対応した研究、開発で貢献することが、地元工業大学としての使命である」と語る。

 そして、小島市長は、「埼玉工業大学は、自動運転の先端を走る技術に取り組んでおり、それを心強く思う。深谷市の宝である」と表する。

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