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語学学習を楽しく継続するためにAIが貢献できること AI責任者が語る

最良の教師を目指してきたDuolingoのAI活用 GPT-4で語学学習は新時代へ

2023年06月12日 07時00分更新

 2023年6月9日、語学学習アプリ「Duolingo(デュオリンゴ)」を提供してきたDuolingoは、10年以上に渡るAIの活用に関して本国のAI責任者が説明する説明会を開催した。また、北米・カナダなどでローンチされているGPT-4搭載のDuolingo MAXも年内に日本で展開することを明らかにした。

すべての人に最良の教師を提供するためにAIを活用

 Duolingoはグローバルで人気の高い語学学習アプリで、42言語、合計100種類の言語学習コースが無料で提供されている。有料プランも用意されているほか、最新のサブスクリプションサービスである「Duolingo MAX」ではOpen AIのGPT-4を搭載し、新しい学習体験を提供している。

 Duolingoの最大の特徴は「ゲームのように遊びながら学べるゲーミフィケーション」だ。「一口サイズ」を謳う5分レッスンなので、気軽に続けることが可能で、リーグで競い合ったり、レッスンの連続記録を記録できるので、楽しみながらレベルアップできる。レッスンをクリアすることで経験値やアプリ内通貨を獲得できたり、継続できる仕組みがアプリのあちこちに用意されている。

 Duolingoは社内の言語学者の知見と毎日10億以上集まるユーザーデータを元に、遊ぶように学びを継続できるよう設計されているという。日本カントリーマネージャーの水谷翔氏は、「ユーザーは大学の授業を2年間学ぶのと同レベルの語学力を、約半分の時間で習得できる。科学的に効果も実証されている」とアピールする。

日本カントリーマネージャーの水谷翔氏

 2023年の1Qの業績としては、売上は前年同期比で42%増。DAU(Daily Active User)は前年同期比62%の2030万人、MAU(Monthly Active User)も前期比42%増の7260万人で、有料会員数は前年同期比63%増の480万人となっている。日本ではDuolingoアプリ(英語、中国語、韓国語、フランス語)と英語テストの「Duolingo English Test」を展開している。「日本も急速に成長しており、グローバルで見てもかなり重要な戦略的マーケティングを集めている」(水谷氏)とのことだ。

 Duolingoの掲げるミッションは「誰もが利用できる、世界最高の教育を開発する」ことだ。すべての人があまねく教育機会を得られるようにするためには、インターネットやモバイルを活用し、最良の教師による教育を用意すれば良い。そして、最良の教師を提供するためにDuolingoが10年に渡って、試行錯誤しているのがAIだ。

最良の教師を実現する3つの資質 最適な再学習タイミングとは?

 今回登壇したクリントン・ビクネル氏は、AIと認知科学の両方を研究しており、ノースウェスタン大学の助教授として勤務後、AIの責任者としてDuolingoのAI研究所を率いている。入社から5年に渡ってDuolingoのAI活用を推進してきたという。

 ビクネル氏曰く、最良の教師とは「教材を熟知している」「生徒のやる気を維持できる」「生徒の頭の中を理解している」という3つの資質を備えているという。そして、この3つの資質を備えた最良の教師を実現するために利用されているのがAIだ。

最良の教師の3つの資質

 1つ目の「教材を熟知している」に関しては、人がカリキュラムを設計するときに役立つAIツールを最適化している。たとえば、言語学習の場合は質問に対しては複数の回答が想定されるため、正解の範囲に収まる正解例を作るためにAIを活用しているという。

 2つ目の「生徒のやる気を維持できる」に関しては、たとえばDuolingo独自の音声合成技術を用いて、それぞれのキャラクターが性格にあった声を発声できるようにしている。また、学習を促すプッシュ通知にもAIを活用しており、ユーザーに最適化されたコンテンツとタイミングで通知。勉強したいというモチベーションを最大化しているという。

 そして3つ目の「生徒の頭の中を理解している」を実現するのが、Duolingo独自のAIモデルである「Birdbrain」になる。

Duolingo独自のAIモデルである「Birdbrain」

 Birdbrainを開発する前、Duolingoは以前習ったことを反復的に勉強するにはどうしたらよいかを研究した。この結果、行き着いたのが「半減期回帰(Half-Life Regression)モデル」と呼ばれる新しい統計モデルだ。

 Duolingoが記憶力を把握するために用いたのが「強度メーター」だ。これはスキルを修了した瞬間がもっとも最大になるが、その後一定の期間を経つと半減してしまうため、再学習が必要になる。そして、半減期回帰モデルは忘却カーブにあわせて再学習の時期を予見することができる。「半減期が長ければ、復習の期間を延ばせるが、短ければ、より早く復習しなければならない」とビクネル氏は指摘する。さらにエラーレートから苦手な部分を抽出し、再学習を続けて定着を図るという。

 半減期回復モデルと既存の機械学習を比較すると、前者の方が予見エラーが低かったという。また、A/Bテストでは練習問題でのリテンションレート(定着・継続率)も高くなり、アクティビティも改善。やる気も出て、学習者にも役立っていることが証明されたわけだ。

 その後、登場したBirdbrainでは、再学習する領域にもメスが入れられた。ここでの課題は、学習者が自力解決できる領域とサポーターがいれば解決できる領域との間にギャップがあるということだ。「学習者も正解率が99%になってしまうとつまらない。一方で、50%になるとやる気をなくしてしまう。ちょうど中間地点の問題を出すようにする必要がある」(ビクネル氏)というわけだ。この中間地点である「発達の最近接領域」が、もっともチャレンジングでモチベーションが上がるという。この近接領域を抽出し、レッスンに盛り込むため、Birdbrainはすべての学習者の正答率を予測している。

半減期回帰モデルで最適な再学習のタイミングを割り出す

自力解決できる領域とサポーターがいれば解決できる領域の近接領域

ロジステイック回帰からリカレントニューラルネットワーク、そしてGPT-4へ

 2018年に完成したBirdbrainの最初のバージョンはテーブルゲームやスポーツなどでも活用されている「ロジステイック回帰」を用いた。問題の難易度と学習者の習熟度という2つの変数を用いて学習者の正答率を予測し、レッスン時間を近接領域の問題で埋めるようした。予見精度が確かめられたあと、A/Bテストを用いて調べると、学習者はコンテンツの長さや学習に費やした時間は以前より延び、よりチャレンジングな内容を試すようになった。前述した1日10億にもおよぶユーザーの学習履歴データにより、精度はますます上がったという。

 Birdbrain v1はシンプルなモデルだったが、最新のv2はリカレント(回帰的)ニューラルネットワークを用いた、よりリッチな大規模なモデルを構築した。「学習者がどこで苦戦しているのか、細かく把握できるようになった。より学習者にあったコンテンツを提供できるようになった」(ビクネル氏)とのこと。1日1回だった学習履歴のデータ更新タイミングだったが、継続的に進めるようにした。レッスンデータも一括し、ストリーミング配信し、演習自体もすべてリアルタイムで処理している。

 そして最新サブスクリプションモデルであるDuolingo MAXは、Open AIとの協業による早期アクセスによってGPT-4をいち早く組み込んだ。2つの新機能が追加されており、スマート解説(Explain my answer)では、学習者がなぜ間違ったのかを解説してくれる。また、ロールプレイ(Role Play)は文字通りチャット形式で会話力を鍛えることができる。3月に米国とカナダでローンチされているが、日本での投入も年内には予定されている。

スマート解説とロールプレイを提供するGPT-4搭載のDuolingo Max

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