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鍵は社内の情報共有と絶え間ないPDCA

ペーパーレス化だけじゃない 東北特殊鋼でkintoneが現場に根付くまで

2023年05月16日 09時00分更新

ヒヤリハットカードのkintone化で3つの工夫

 ヒヤリハットカードは、作業をしていて、危なくてヒヤリとしたこと、気づいてハッとしたことを記入するカード。安全対策の検討や安全意識の向上を実現するもので、製造業や建設業などではごく一般的な書類と言える。

 まずはこのヒヤリハットカードをそのままkintoneアプリ化することにした。書類のフォームをほぼそのままkintoneのフォームとして再現し、現場の人にテストしてもらい、アンケートをとる。そのアンケートを基に改善を施すというPDCAを繰り返し行なった。現場からは非常に多くの意見をが集まり、紙フォームのデジタル化から一歩進んだ改善に活かされたという。以下、桜井氏は工夫した3つのポイントを説明した。

東北特殊鋼 鋼材製造チーム 桜井利江氏

 ヒヤリハットカードは、もともと紙ベースだったため、監督者が一読した後は特にフィードバックもなかった。水平展開を前提に作成したkintoneのヒヤリハットカードも、標準画面だと大事なところがわかりにくいという弱点があった。桜井氏がkintone喫茶で聞いたのは、これを解決できる「RepotoneU Pro」(ソウルウェア)というプラグイン。これにより、「事例共有作成」というボタンを押すだけで、共有用の帳票を作れるようになった。

帳票作成可能なRepotoneUをkintone喫茶で知る

 次に取り組んだのは集計と分析を容易にすること。こちらに関してはkrewDashboard(グレープシティ)を用いて、どんな事例があったのか件数を集計できるようにした。また、どういった事例がどのような要因で起こったのか、一覧表形式で見られるようにした。「要因の見える化により、どこを優先的に対策すべきか、わかるようになりました」と桜井氏は語る。

 そして最後に取り組んだのは、現場の理解を得ることだ。「ここまで改善を続けてきましたが、アンケートで心に引っかかっていた一言がありました。それは『帳票をただ電子化しただけでは、安全性向上の効果はないのではないか?』という声でした」と桜井氏は振り返る。紙をデジタル化するのみならず、もっと恩恵をもたらすにはどうしたらよいかを考える必要があった。

単なるデジタル化では安全性は向上しないのでは?という指摘

 この声をきっかけにして、アプリにはリスクアセスメントの機能を追加した。桜井先輩に指名された木田氏は、「リスクアセスメントとは、ある出来事の発生頻度、怪我の可能性、想定される怪我の程度などをそれぞれ点数化し、対策を考えることです」とわかりやすく説明。これにより、危険性を数値化することが可能になった。

 また、以前は提出してもフィードバックがなかったので、提出することだけが目的化してしまったが、コメント機能を活用することで、リアルタイムな意思疎通を図ることにした。フィードバックを得られることで、モチベーションが向上したという声も得られたという。

 「これだけ改善進めれば、このアプリ、みんなに使ってもらえたんじゃないですか?」と木田氏はコメント。とはいえ、新しいものに消極的な人もいたので、アプリを確実に使ってもらうため、少人数での説明会を繰り返し、繰り返し行なった。

少人数での説明会の実施

kintoneきっかけで会社が変わる機運 kintone喫茶で後押し

 こうした改善と施策が心に響き、社内でもアプリを使ってもらえるようになった。そして、現場の担当者からも、ほかの帳票も電子化してほしいという声が上がるようになった。「本当にうれしかったです」と桜井氏。当初はヒヤリハットカードだけだったが、その後は安全帳票系のアプリ化を進め、5アプリに拡大。アプリが増えたため、スペースを活用することで、わかりやすく整理した。

 こうして安全関係書類はすべてペーパーレス化を達成。書類がなくなっただけでなく、安全成績も向上し、擦り傷などの微傷災害の件数自体が2021年の8件から、2022年の1件に激減したという。さらに当月生産する目標値である生産成績も、2021年の97%から、2022年は100%になった。「素晴らしいですね。電子化によって業務が効率化し、生産に充てる時間が増えたからですね」と木田氏はフォローする。

改善大成功!

 桜井氏は、「ときには仲間の助けを得ることで、今回の取り組みを成功させることができました。なによりケガなく、笑顔で帰れる日が増えたことが本当にうれしいです」と語る。さらなるペーパーレス化と無災害を目指して活動していくという。

 「みなさん、こんな話を聞いて、ワクワクしませんか? 今このワクワクが社内でも拡がりつつあるんです」(木田氏)とのことで、鋼材製造チームのようなkintone活用は、社内中に拡がっているという。「kintoneをきっかけに会社が変わりつつある。kintone喫茶はこの流れをもっと盛り上げていきたいと考えています」と木田氏は抱負を語る。

社内に拡がるkintone活用

 木田氏は「とっかかりは複雑なアプリじゃなくていい」と指摘する。kintoneを拡げるのに重要なのは、kintone喫茶のような情報共有の機会を設けること、桜井氏の説明のような使ってもらう工夫を行なうことだ。木田氏は「とはいえ、弊社でも機運が高まってきたばかり。ここにいるみなさんもいっしょにがんばっていきましょう」とまとめた。

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