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中南米市場を狙う新興スマホメーカー「FreeYond」は、“元”老舗のGioneeの復活か

2023年04月18日 12時00分更新

2022年に生まれたスマホメーカーFreeYond

Gioneeの元スタッフが仕掛ける新スマホ

 スマートフォンメーカーがどんどん大手に集約されていく中で、2022年に新しいメーカーが立ち上がりました。中国をベースにする「FreeYond」です。格安端末からスタートを始めた同社のビジネスですが、そのビジョンは広大で、数年後に存在感を示すメーカーに成長するかもしれません。

2023年3月にはマレーシアへの参入発表会も行なわれた

 FreeYond(Shenzhen FreeYond Technology)は、新興国を中心にスマートフォンやIoTデバイスを展開しています。スマートフォンの現行モデルは2機種。ミドルレンジで上位モデルの「M5」は6.52型(1600×720ドット)のディスプレー、チップセットはUNISOC T606、メモリー6GB/8GB、ストレージは128GB/256GBという構成。カメラは5000万画素+800万画素超広角+200万画素マクロ、フロントは水滴ノッチの800万画素を搭載します。バッテリーは5000mAh、5Gは非対応で4Gのみ。マレーシアでの価格は8GB+128GBが699リンギット(約2万1000円)です。

上位モデルの「M5」。ミドルレンジスペックだ

 下位モデルの「F9」は6.52型(1600×720ドット)ディスプレー、チップセットはUNISOC SC9863Aでオクタコア1.6GHz、メモリー2GB/3GB、ストレージは64GB/128GB、カメラは1300万画素+200万画素マクロ、フロントは水滴型ノッチ型で800万画素、5000mAhバッテリーを搭載し、4Gに対応します。2GB+64GBが399リンギット(約1万2000円)、3GB+128GBが499リンギット(約1万5000円)です。

エントリークラスの「F9」

 日本人から見るとスマートフォンのスペックは低く、注目に値する製品ではないかもしれません。しかも中国のマイナーメーカーですから、適当に作り上げたスマートフォンと考える人もいるでしょう。しかしFreeYondはパッと出てきた素性のわからない弱小メーカーではありません。そのバックボーンには中国のスマートフォン市場を知り尽くした知能が集結しています。CEOでありFreeYondを創設したYu Lei博士は、元Gionee(金立)の副社長だった方なのです。

FreeYondの創設者でありCEOのYu Lei博士

 Gioneeは中国で老舗の携帯電話メーカーであり、一時は中国国内トップ5に入ったこともあります。特にスマートフォン時代はYu博士がGioneeの売り上げを大きく延ばしました。中国以外の市場にも参入し、インドのセルフィーブームが始まったころにはOPPOやvivoとともに大々的に進出。「Selfiestan」(セルフィー「Selfie」とヒンディー語のインドを表す「Hindustan」の造語)をキャッチコピーに大人気のメーカーとなり、インドの中国メーカーでトップにもなりました。ところがGioneeは2018年に突如倒産。その原因はGionee CEOのマカオでのカジノの負債という、情けなくも、社員にとっては無念のものでした。

2017年2月のMWCでは新製品発表会を行なうほど勢いがあったが、翌年に倒産した

 倒産後にGioneeを離れたYu博士はIT関連企業を経て、2022年にスマートフォンメーカーを立ち上げたのです。そのため、FreeYondをGioneeの再スタートと見る人も多くいます。とはいえ今からスマートフォンで再参入するには、世界の市場は大きく変わっています。シャオミは中国外でも大きな力を持ち、インドや東南アジア市場ではトップメーカー入りしました。アフリカ市場ではTecno、Itel、InfinixのTranssion傘下メーカーが圧倒的な強さを見せています。

 そのような情況の中、まだ成長が見込まれる残された市場が残っています。それはラテンアメリカ。ラテンアメリカはAPAC、中国、北米に次ぐ巨大なマーケットであり、2021年の年間スマートフォン出荷台数は1億3000万台を超えているとのこと。また、ほかのエリアの市場成長がマイナスを記録する中、ラテンアメリカはプラスを続けているといいます。

 そこで、FreeYondはまずメキシコ、チリ、ペルー、コロンビアなどに参入。ラテンアメリカでは250ドル以下のスマートフォンのシェアが2/3を占めているため、低価格モデルから投入を開始したわけです。「究極のコストパフォーマンス比で市場を取る」戦略で、ラテンアメリカを皮切りに東南アジアやアフリカにも進出を進めています。

ラテンアメリカ向けにあえて低価格スマートフォンから参入

 FreeYondを軌道に乗せるため、Yu博士は旧Gioneeの人脈、チーフデザイナー、プロダクトマネージャー、製品企画マネージャー、メディア部門マネージャー、財務マネージャーなどを呼び寄せました。そしてそこに若いスタッフが集まり、小規模ながらもアグレッシブな活動を始めています。FreeYondの社名はFree(自由)とYond(超越を意味する)から取ったとのこと。

 Yu博士はスマートフォンがテクノロジー4.0時代に重要な中央のハブになると考え、スマートフォンのみならずIoT製品も展開し、スマートライフの中心となる企業にFreeYondを成長させようと考えているようです。

スマートウォッチ、リストバンド、ワイヤレスイヤホン(TWS)も販売している

 Gioneeは過去に世界最薄スマートフォンを出したこともありました。そしてアフリカ中心に展開しているTecnoが今や折りたたみスマートフォンを出す時代です。創業からまだ1年のFreeYondの製品は、今はまだ特筆するほどのものではないでしょう。しかし数年後、気が付けば新興国では誰もが知っているメーカーになっているかもしれないのです。

FreeYondのこれからは長い目で注目していきたい

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