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【第4回】『PLUTO』制作中のスタジオM2・丸山正雄社長、野口征恒氏に聞く

日本のアニメ制作環境はすでに崩壊している――レジェンド丸山正雄が語る危機と可能性

日本のアニメは崩壊している

―― 丸山さんがおっしゃると、なんというか「重い」ですね……。

丸山 まあ極論すると「日本のアニメは崩壊した」と思っているんですよ。デジタルによって、日本のアニメの一番良いところが失われてしまって、それを継いでいく人がいない。それを理解して、デジタルでも再現したいと思っている人が、果たして何人いるんだろうかと。恐らくほとんどいないでしょう。

 そして、デジタルを日本の手描きアニメーションに近づける努力、それから努力ができる環境、あるいはおカネを用意するという環境は(日本に)ありません。

 かつて虫プロなどではアニメーターを社員として雇い、養成していました。マッドハウスでも毎年3人のアニメーターを養成するということをやっていました。そこから原画に上がった人もいます。現在は、東映アニメーションなどごく少数を除き、将来を考えた養成をしている場所はないのです。

 これが「日本のアニメーションは崩壊した」とぼくが仮説を立てた理由です。

 そして、国のレベルでもそれ(養成が足りないこと)を「許している」。要するに、アニメーションの将来なんて考えている人は少ないんです。

 現状、小さなプロダクションは作画志望を集めるものの、安くて食えないから辞める人がいたり、もしくは給料に上手い人が描いて稼いだ分をプラスすることでなんとかやっています。

 そんな水準でやっとこさ生き残っているわけです。「すごく海外で儲かったから企業(プロダクション)にカネが下りてくる」なんて状況はないんですよ。「今が良ければ」でやっている。日本のアニメーションはそういうものなんです。

 業界全体をまったく見ていないから、むしろそれを考える中国などが先を行く。韓国にだってその可能性があるけれど、あそこはオリジナルを作る能力をサボっていて、どこかの下請けを上手くやることだけやっているから(難しい)。

 中国は自分たちのものを作りたい、こういうことをやりたいという人の数が膨れ上がっています。手描きだけで見ればまだまだなんですよ。でも宮崎駿さんに憧れて新海誠さんが好きだという、日本のアニメーションを好む若いアニメーターが成果を出してきています。

 中国で映画祭をやったとき、ぼくが声をかけた当時高校生の子がプロになって作ったフィルムも高いクオリティーです。

―― そういった「作りたいものを作るんだ」という若い担い手がいる、というのは、たとえばかつての東映動画でもあった光景ですよね。

丸山 かつてはね。もう日本ではそういうことはやらなくなっていて、わずかに作画プロダクション、たとえばスタジオ・ライブなど、動画プロダクションから良い原画家が生まれてくるといったことはありましたが、デジタル化が進んでそういう動きも鈍いのです。

動画の担い手が国内から失われていく

―― 文春オンラインの記事でコメントをもらったTRIGGERの舛本さんも、感覚値として動仕の8割は中国に出し、国内については特に重要なカットのみに絞り込まれているといったお話をされていました。すると、動仕のノウハウが国内から失われてしまう。

 また、丸山さんのおっしゃるように、動画プロダクションから才能が芽生えるという可能性も低くなってしまう。アニメの本質は動き=動画ですから、そこが危機というのは……。

野口 動画は大事です。海外も、もちろん腕の良い会社はあるんですが、ポンと放り込まれてコミュニケーションを取らないまま、つまり大事なポイントなどを理解されないまま、仕上げられてしまうこともあります。

―― 原画は脚本や絵コンテを読み込んで作画打ち合わせを綿密に……というプロセスを経ますが、動画、特に海外アウトソースのものはそういうわけにはいかない。単純に中割りできていれば良いでしょう、という感じになったりもする?

野口 中割やクリーンナップした線が、機械的に、それこそデジタルっぽく上げられてしまうということはありますね。

丸山 「1枚いくら」ですから、まさに安く・早く、生産性を追求するのです。時間通り、指示通りに仕上げてきます。でもぼくのように「時間に間に合わなくてもいいから、こだわりたい!」となると、どうしても折り合いがつかなくなってきちゃう(笑)

 かつてマッドハウス時代に日本では(納期的に)どうしようもなくなったとき、海外の動仕会社に頼んだことがあります。現地を訪れると、昼間は別の大手の仕事をして、夜こっそりマッドハウスの仕事をしていたりする。大手の人がそこにやってくると、みんな机の下に作業中のものを隠したりするんだ。

―― (笑)

丸山 彼らは「大手の仕事はとても良い」と言う。遅れれば、そのまま返しちゃえば向こうでなんとかしてくれる。ダメなものも向こうで直してくれる。

 一方、マッドハウスの仕事が面倒。ダメなものを送ると、リテイクで返ってくる、もしくは日本の人がやってきてその場で全部直さなければならなくなる。だから、マッドハウスはおカネにならないし、辛い、という話は何度もされました。

 ただ、それを10年辛抱したときに、その動仕会社の人たちがどんどん成長してくるんです。つまり、ダメなものを出して1枚いくら、じゃなくて「自分の仕事」としてやっているから。だから、件の動仕会社はその後、うち経由で有名国内スタジオの仕事を頼まれたりしています。

―― なるほど。でも本来は、同じことが海外の会社ではなく、日本の動仕会社で起こらないといけないわけですよね。

丸山 マッドハウスはそれができたんです。だからマッドハウスは赤字出してしまって、どっかに買ってもらうしかなくなっちゃうんだけどね。

 そんな実情があるのに、国レベルだと「アニメが海外で人気」などと言う。そこに関わる一部の企業が儲かっているだけで、決してアニメ業界全体が底上げされているわけではありません。

―― うーん……。もう、手遅れですか?

丸山 手遅れですね。完全に日本のアニメーションは崩壊したというのがぼくの結論です。

 デジタルに手描きの要素をどれだけ足せるか? それを突き詰める人がどれだけいるのか? そっちのほうがはるかに大事だと思うんですよ。いまから手描きに戻るなんて100%ないんですから。

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