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Web 3に本腰を入れるKDDI、αUのメタバースで行き交うものとは?

2023年03月20日 09時00分更新

デジタルツインはリアルとバーチャルの循環、メタバースは行き交う場所

 KDDIは、2030年を目標とした「KDDI VISION 2030」を打ち出し、そのなかで「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる」を掲げる一方、「KDDI Digital Twin for All」というメッセージを通じて、テクノロジーを活用し、すべてのものをデジタルツインで実現する姿勢も示している。

 KDDIの髙橋社長は、「デジタルツインは、リアルの世界をDX化することでデータ化し、これをバーチャルの世界でシミュレーションして、その結果をリアルの世界に戻し、リアルの世界をより良くしていくものになる」と定義しながらも、「だが、デジタルツインをコンシューマービジネスに展開した際には、リアルとバーチャルを自由に行き交う世界になると考えた。これがデジタルツインを活用したコンシューマサービスの基本的な考え方になる」とする。コマーシャルではリアルとバーチャルが循環するが、コンシューマではリアルとバーチャルを行き交う世界になるというわけだ。

 αUでターゲットとするZ世代は、友達同士で位置情報を常時共有したり、つなぎっぱなしの「リモート同棲」と呼ばれる生活を楽しんだりしている。髙橋社長は、こうした実態を捉えて、「コンシューマの世界では、リアルの世界とバーチャルの世界の線引きは、もうないのかもしれない」と指摘。「メタバースの世界は、『もうひとつの世界』ではなく、『もう、ひとつの世界』である」と定義する。

 これまでのデジタルツインは、リアルとバーチャルを別の世界に捉えた「もうひとつの世界」だったが、「αU」で目指すコンシューマ向けデジタルツインは、もはや、現実とバーチャルがひとつになった世界で、楽しく遊び心にあふれた日常を実現することを目指すことになる。だからこそ、もう「ひとつの世界」なのである。

グーグルのクラウド技術やYouTubeを活用

 αUは、メタバースのデファクトスタンダードを目指すものではないという。

  バーチャル渋谷やバーチャル大阪を手掛けてきたKDDI 事業創造本部の中馬和彦副本部長は、「これからの世界は、複数のメタバースが共存し、自分のアバターが、ひとつのウォレットを使いながら、メタバース間を自由に旅するオープンメタバースの世界になる。αUで、すべてを組み上げることは考えていない。メタバース同士が相互に接続し、新たなワールドを提供できればいい。日本のメタバースの仲間とともに、世界を目指したい」とする。

 KDDIの髙橋社長も、「メタバースはオープンであり、αUは、グローバルを舞台にしなくてはならない」と語る。

 そのために、3つの取り組みを推進する。

 ひとつめは、Google Cloudとの連携により、最新クラウド技術とYouTubeの活用によって、新感覚ライブ体験を共同で創出することだ。

 髙橋社長は、「アプリのなかでライブを実現するには限界がある。クラウドのレンダリング技術を使うことで、没入感がある新感覚のライブを届けることができる」とする。

 Google Cloudは、デバイスのスペックに依存せず、高精細なARおよびVR表現を実現するクラウドレンダリング技術の「Immersive Stream for XR」を提供。さらに、バーチャルアバターなどの自然な会話を支えるGoogle Cloudの機械学習プラットフォームの活用、遅延を最小限に抑えて、より没入感のある体験を支えるGoogle Distributed Cloudなど、XR体験をよりリアルに表現する技術も提供することになる。

 Google Cloud Immersive Stream担当バイスプレジデントのアンカー・ジェイン氏は、「リアルな体験をクラウド上でレンダリングし、あらゆるスマホ端末にストリーミング配信できる。ユーザーは、アプリやコンテンツのダウンロードに手間をかけず、没入感がある体験ができる。最新のクラウド技術とネットワーク技術を活用し、ユニークでシンプルな楽しい体験を提供できる」とする。

 AIを活用することで、すべての言語を話すバーチャルアバターが誕生し、そのアバターがメタバースのなかで活躍したり、バーチャルアーティストにフィーチャーした音楽ライブイベントを開催したりといった活動を通じて、グローバルに認知度を高めていくことも可能になるという。

 髙橋社長は、「リアルの世界は定年を迎えたり、男女による差があったりするが、メタバースの世界はボーダーレスになる」とする。

世界展開も視野

 2つめは、世界最大のマーケティング・コミュニケーションズグループであるWPPとの連携により、2023年度上期を目標にαUをグローバルに展開。日本以外の地域におけるビジネスモデルを構築するという。

 WPPのマーク・リードCEOは、KDDIなどが展開している「バーチャル渋谷」で共創してきた実績を示しながら、「Web 3、メタバース、NFTなどのデジタル領域において、グローバル成長を目指したい。WPPには、世界110カ国で、10万人が働いており、日本でも30カ国から集まった1000人の社員が活躍している。日本は非常に注力しているマーケットであり、日本の次世代カルチャーを発信する一助になりたい」とコメント。KDDIの髙橋社長は、「WPPとの協業によって、αUの世界観をグローバルに広げたり、世界の人たちを呼び込んだりすることに期待している」と語る。

ネット初のリアルバーチャルアーティストの創出

 3つめが、リアルとバーチャルで活躍する次世代型アーティストの創出とグローバル展開だ。ここでは、きゃりーぱみゅぱみゅをはじめとしたリアルアーティストのプロデュースに強みを持つアソビシステムと、世界中に1000万人以上のファンを持つバーチャルタレントKizuna AI (キズナアイ)を生み出したActiv8と連携。2社が設立したANNINを通じて、次世代型アーティストの創出に取り組む。

αU liveのサービス画面

 αUを活用したライブイベントの開催など、ファンとの交流の場の提供や、プロモーション、XRなどの先端技術を活用したコンテンツ開発などを支援することで、国境を越えて多くのファンに愛される日本発のアーティストを育成するとともに、ファンに対して新しい体験価値を提供するという。

109の前にいる

マイルームの編集

 また、αUの世界では、街とは別に用意された自分の部屋 (マイルーム) を利用でき、家具などによる模様替えを通じて自分らしさを表現。マイルームに招待した仲間と会話を楽しめるほか、トークライブの開催、アバターやマイルームの家具の制作や販売も可能になる。誰もが自由にクリエイターになる環境も構築することができるという。

 すでに、現実と仮想を軽やかに行き来した生活をはじめている新しい世代に寄り添って、誰もがクリエイターになることができる世界がαUだという。

 リアルの世界とバーチャルの世界の線引きがない「ひとつの世界」は、果たして、どんな生活様式をもたらすのだろうか。その一歩が始まっている。

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