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“箱から出したら6GHz動作”の特別モデル

第13世代Core最強!? 数量限定の「Core i9-13900KS」の実力を試す

2023年01月12日 23時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集● ジサトラユージ/ASCII

ピークは減ったが平均値では激しく上昇

 一番気になる消費電力や熱も検証しておこう。最初にラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を利用してシステム全体の消費電力を比較する。システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、Handbrakeエンコード(設定については前述のベンチと共通)処理開始序盤に出現するピーク値「高負荷時(最大)」と、処理中盤以降に出現する安定値「高負荷時(安定)」の値をそれぞれチェックした。

システム全体の消費電力

 Core i9-13900KSの最大値は13900Kよりも小さい値が出たが、逆に安定値は上がっている点に注目。クロックが引き上げられたCore i9-13900KSの消費電力が大きくなるはずなのにそうなっていない理由として考えられるのは、消費電力計の表示間隔の狭間で表示を取りこぼしている可能性もある。だが消費電力が高い時間は永続性がなく、じきに安定値へ終息するので、Core i9-13900KSの消費電力は13900Kよりも大きくなっていると言えるだろう。

 だがこれだけでは具体性に欠けるので、Handbrakeによるエンコード処理中に2系統のEPS12Vケーブルからマザーボードへ供給された電力(CPU Power)を追跡してみよう。この電力の追跡にはElmorlabs「PMD」を使用している。

CPU Powerの推移:EPS12Vケーブルからの実測値。X軸方向の長さが違うのは処理時間が異なるため

 これを見るとCore i9-13900KSのCPU Powerが一瞬だけ450Wを突き抜けているが、全体としてはCore i9-13900Kと大差無い範囲(380〜420Wあたり)に集まり、個々の局面においてはCore i9-13900K>Core i9-13900KSとなる瞬間もあることがわかる。また、Core i9-13900Kのほうが安定値(ここでは330W前後)に落ち込むタイミングが早いが、Core i9-13900KSは3分過ぎまで高い値を維持し続けている。

 ただ、MTP無制限条件下でCore i9-13900KSを動かしても最後まで最大電力で動くというわけではない。いずれは“Power Limit Exceeded”フラグが立って強制的に330W前後の値に収束する。Core i9-12900KSも最終的にはこのラインに収束するのも興味深い。

 ついでにこのエンコード処理におけるCPUクロックとCPUパッケージ温度をHWiNFO Proで追跡しておこう。

CPUクロックの推移:平均値と8基のPコアの最大値(Max)をそれぞれプロットした

 このグラフでもCore i9-13900KSの最大クロックが6GHzに到達しているが、一瞬で下がっていることがわかる。恐らくエンコード処理の繋ぎ目で、アクティブなコアがほとんどない状態でブーストできる余裕ができたからと考えられる。Core i9-13900Kと比べて最大クロックは100MHz(つまり1bin)高い値を示していることが非常に多い一方で、全コアの平均的なクロックはCore i9-13900KSと13900Kでほぼ同じという点にも注目だ。

 Core i9-12900KSは最高クロックではCore i9-13900KSや13900Kに大きく劣るものの、クロックの平均値で見ると大きな差が無い(4.5GHz近辺)ことがわかる。

CPUパッケージ温度の推移

 気になるCPUパッケージ温度だが、どのCPUも例外なくパッケージ温度は100℃に到達した。Core i9-12900KSは終始100℃に張り付いたまま処理を終えるのにCore i9-13900KSや13900Kは途中で温度が低下する理由は、Power Limit Exceededフラグが立つためである(12900KSにはこのフラグは立たない)。

 第12世代Core以降のKS型番のCPUはシングルスレッド動作時のクロックを重視したものであり、エンコードのようなマルチスレッドではPower Limit制限のおかげでパワーを出し切れない。もっとも、細かい設定をBIOS上で詰めていないためもっと引き出せる余地はあるが、Core i9-13900KSをポン付けで動かすのであれば、Core i9-13900Kと大差無い性能であるといえる。

ざっくりとしたV/Fカーブの調整でも効果はある

 ここまでのデータを見ると、Core i9-13900KSをただ装着しただけでは旨みをほとんど引き出せないことがわかる。金をかけて本格水冷で立ち向かうのが王道だが、筆者の仕事場にはそれを展開する余裕はない。

 そこでCore i9-13900KSのV/Fカーブを調整し、少し電圧を下げることで発熱を抑制し性能を引きあげることを試みる。工場出荷設定のCPUは、個体差由来のブレをなくして一定の性能を確保するために、電圧を盛る傾向がある。少し電圧設定を緩めてやると温度が下がり、結果として性能が上がる場合があるのだ。無論、個体差による差が大きいし、最初から選別品であるCore i9-13900KSではほとんどマージンがないことも考えられる。

 今回テストに使用したマザーボードでは、V/Fカーブ(調整)ポイントは動作クロックの低いほうから高いほうの順に1〜11まで存在する。Core i9-13900KSの全コア動作時の最大クロックは5.5〜5.6GHzと判明しているので、ざっくり4GHz台から上のV/Fポイントにおいて「-0.1V」設定にした。検証に大した時間をかけられなかったので雑な決め方だが、CINEBENCH R23の10分間テストがエラー無しで完走するような設定にしている。

クロックの低い方から高いへ合計11個のV/F調整ポイントがある。数字の大きい調整ポイントほど電圧が盛られているが、これを少し減らすだけでも発熱抑制にはかなり効果がある(こともある)

テストに使ったV/Fカーブ設定。雑すぎる設定だが、V/Fポイント5から11までをすべて-0.1Vとした。CINEBENCH R23が10分完走することは確認済み

CINEBENCH R23:V/Fカーブ調整前と調整後(-0.1V)のスコアー

 V/Fカーブを弄って電圧を緩めることでCINEBENCH R23のスコアー上昇が得られたが、時間が足りずHandbrakeのエンコード完走までには至らなかった。この辺の検証は後進に委ねたい。

まとめ:究極を求める選ばれし者のためのCPUか

 以上で非常に表面的ではあるが、Core i9-13900KSレビューを終了としたい。CrossMarkやUL Procyon(実はPhotoshop+Lightroom)などではクロック上昇の恩恵はスコアーとなって感じられたものの、CPUパワーをガッツリと使うエンコードや今風のPCゲームでは力を感じられなかった。

 「箱から出してすぐ6GHz」という謳い文句に関してはCore i9-12900KSの時よりもたやすく確認できた気がする。ただ、それがコストに見合うかはその人次第だ。もっとCore i9-13900Kでも到達できる可能性も十分にある。十分なOC耐性を持ったCore i9-13900Kを持っているなら、Core i9-13900KSを無理に入手する必要はない。

 とはいえ、1〜2コアとはいえ6GHzで“動く”とインテルから太鼓判を押されたCPUが欲しいならば、Core i9-13900KSは十分価値のある製品となるだろう。

 しかし、このCPUのポテンシャルを引き出すには本格水冷はもとより、発熱量に負けないチラー環境、そして細かい設定を煮詰める時間と根気(どちらも今の筆者には望めないものだ)が必要だ。選ばれし者のための選ばれしCPUと言うべきか。

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