新旧KSとの比較にも注目
では今回の検証環境を紹介しよう。Core i9-13900KSの比較対象として、Core i9-13900Kと1世代前のスペシャルエディションであるCore i9-12900KSを準備した。環境のセットアップやテスト時期は、先日掲載された「Core i9-13900」「Core i7-13700」レビューと同一である。
すべてWindows 11 22H2で環境を構築し、Resizable BARやコア分離(VBS)、Secure BootやHDRはすべて有効化している。CPUのパワーリミットはマザーボードのデフォルト(無制限)としている。
検証環境 | |
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CPU | インテル「Core i9-13900KS」 (24コア/32スレッド、最大6GHz) インテル「Core i9-13900K」 (24コア/32スレッド、最大5.8GHz)、 インテル「Core i9-12900KS」 (16コア/24スレッド、最大5.5GHz)、 |
CPUクーラー | ASUS「ROG RYUJIN II 360」 (簡易水冷、360mmラジエーター) |
マザーボード | ASUS「ROG MAXIMUS Z790 HERO」 (インテルZ790、BIOS 0703) |
メモリー | G.Skill「F5-6000J3636F16GX2-TZ5NR」 (16GB×2、DDR5-5600/4800動作) |
ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 3080 Founders Edition」 |
ストレージ | Corsair「CSSD-F1000GBMP600」 (1TB M.2 SSD、PCIe 4.0、システムドライブ)、 Silicon Power「SP002TBP34A80M28」 (2TB M.2 SSD、PCIe 3.0、ゲーム用ドライブ) |
電源ユニット | Super Flower「LEADEX PLATINUM SE 1000W-BK」(1000W、80PLUS Platinum) |
OS | Microsoft「Windows 11 Pro」(22H2) |
素の状態だと性能差は3%程度だが、逆に下がることも
まずは「CINEBENCH R23」から攻めていこう。テストはシングルスレッドとマルチスレッドの2つあるが、どちらも10分間運転してからスコアーを出す(デフォルト)設定で計測している。
先にも示した通り、Core i9-13900KSの6GHz動作というのは限られたコアにしか出現せず、マルチスレッドテストでは見ることはできない。Core i9-13900Kに対して13900KSのスコアーは高いが、マルチスレッドは誤差程度、シングルスレッドスコアーでようやく4%弱伸びたにすぎない。Core i9-12900KSから見ると相当な伸びだが、これはAlder Lake→Raptor Lakeの技術的進歩によるものが大きく、「KSだから」という要素を見いだすのは厳しい。
続いては「Blender Benchmark」だ。演算ユニットはCPUを指定している。
CINEBENCHはシングルスレッド性能も計測してくれるが、Blender BenchmarkはCPUを指定した場合はマルチスレッド性能しか計測しない。よってCore i9-13900Kと13900KSの差は非常に小さい。それどころかわずかにCore i9-13900KSのほうがスコアーが低いケースもある。6GHz動作の恩恵を得られるシチュエーションは限られているのだ。
では、総合性能をみる「CrossMark」だとどうなるだろうか? 写真や動画編集、文書やメール作成等、マルチタスク状況下での反応等をスコアー化するベンチマークだが、全般的にCPU負荷が低く、シングルスレッド性能頼みの側面がある。
負荷が軽めのProductivityやCreativityテストでは、Core i9-13900KSが13900Kよりも3〜5%程度高い評価を得ている。最大ブーストクロックの違い(6GHz対5.8GHz)も3%強であることから、ほぼクロックが伸びたぶんだけスコアーが出ているという感じになる。
しかし、マルチタスクな処理が含まれるResponsivenessでは、Core i9-13900KSの6GHz動作があまり発揮できずに終わり、結果としてスコアーの伸びは2%未満となる。単にクロックを伸ばしただけではこんなものだろう。
クリエイティブ系アプリでのパフォーマンス
次に試す「UL Procyon」の“Photo Editing Benchmark”は、実際に「Photoshop」「Lightroom Classic」を動かした際のパフォーマンスをスコアー化するものだ。これらの処理は並列度が低いものが多い(=CPU負荷が低い)ため、Core i9-13900KSの6GHz動作が輝く可能性が高い。
ここでCore i9-13900KSがほかに比べて一番伸びたのは、Photoshopをメインに使うImage Retouching。Core i9-13900Kに対して約4.5%上昇した。PhotoshopのCPU利用率の低さを考えると、Image Retouchingで差が大きく付いたのは計算通りといえる。Lightroom ClassicメインのBatch Processingのスコアーはほとんど伸びておらず、結果として総合スコアーはCore i9-13900Kに対して2%程度上回った。こちらもCrossMark同様の着地点となった。
Batch Processingテストがほとんど伸びなかったので、Lightroom Classicについて、筆者がいつも使っている手法でも検証してみよう。61メガピクセルのDNG画像100枚に対し、書き出し時にシャープネス(スクリーン用、標準)を付与しつつ最高画質のJPEGに書き出す時間を比較する。シャープネス処理のおかげでCPU負荷はUL Procyonのテストよりもずっと高い。
このテストでは3回試行後、平均を求めてグラフ化しているが、結果としてはCore i9-13900KSの速さを確認することができなかったばかりか、Core i9-13900Kにハナ差で敗北。発熱量が増えブーストがかかりにくくなった結果と考えられるが、ポン付けでCore i9-13900Kより高速な環境が必ず手に入るとは考えないほうが良いようだ。
続いては動画エンコーダー「Media Encoder 2023」での検証だ。再生時間約3分の4K動画を「Premiere Pro 2023」上で用意し、これをMedia Encoder 2023上で1本の4K動画に書き出す時間を測定した。ビットレートはVBR 50Mbps、1パスのソフトウェア(CPU)エンコードとし、コーデックはH.265とした。
ここでもLightroom Classicと同様にCore i9-13900Kのほうが短時間で処理を終えた。6秒差は誤差のようなものだが、今回の検証環境ではCore i9-13900KSの性能を引き出しきれなかった結果と言える。本格水冷+冷却水の冷却装置(チラー)を使えば逆転するかもしれない。
「Handbrake」では、再生時間約3分の4K@60fps動画をプリセットの“Super HQ 1080p Surround”でフルHDのMP4に書き出す時間を計測した。このテストは後述する消費電力やCPU温度の検証でも使用するため、同じソースを3回連続でエンコードさせている。
Media Encoder 2023のようにCore i9-13900Kに負けるとまでは行かなかったものの、Core i9-13900KSとCore i9-13900Kはまったく差がない。360mmラジエーターのAIO水冷程度(LGA1700の“反り防止Mod”は使用していない)ではCore i9-13900KSをそのまま運用しても意味がないことを示している。
AIを使って動画や写真を高画質化する「Topaz Video Enhance AI」「Topaz DeNoise AI」はGPUへの依存度が高いアプリだが、CPUの負荷がないわけではない。そのような状況ではCore i9-13900KSはどう働くのだろうか?
まずTopaz Video Enhance AIでは、480i(インターレース、720×480ドット)のAVI動画(約1分)を、インターレース解除しつつフルHD@60fpsの動画にアップスケール(Deinterlace footage and upscale to HD)する処理時間を計測。学習モデルはデフォルト設定のままとし、出力コーデックは「Pro Res422 HQ」とした。AIプロセッサーはGPU(GeForce RTX 3080)を指定した。
このアプリは処理時間にブレが出るほうだが、Core i9-13900KSは明確にCore i9-13900Kよりも短時間で処理を終えている。Core i7-13700検証記事を見るとCore i5-13600Kのほうがコストパフォーマンスの良い結果を出している(4分29秒)ので、Core i9-13900KSのメリットがあるとは言えないものの、高クロックモデルならではの結果が観測できた、といえる。
Topaz DeNoise AIでは、30枚のJPEG画像(24メガピクセル)を用意し、学習モデル“Severe Noise”を利用してノイズ除去処理をする時間を計測した。
ここではCore i9-13900KSと13900Kの間に差は出ず、さらにCore i9-12900KSとの差も6秒と短い。アーキテクチャーの差か、クロックの差かまでは判別できないが、このテストでは差はほぼ実感できないと言える。
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