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and SORACOM

第10回

「飼料の残量がわかるんだったら、食べている量もわかるよね」

宮崎のブランド豚「観音池ポーク」を支えるIoT すべては豚の健康のために

2023年01月19日 09時00分更新

「作らずに創る」をモットーにIoTを組み上げてきたシステムフォレスト

 今回、システムを構築した熊本のシステムフォレストは、地元九州でIoT関連の案件をいくつもこなしてきた。顧客の課題解決を中心に、2016年にIoT事業をスタートさせ、2017年に最初に手がけた製造業での案件で初採用して以来、長らく自社ソリューションにSORACOMを使ってきた。

 システムフォレストのIoTソリューションの特徴は「作らずして創ること」だ。同社の松永圭史氏は、「SORACOMはもちろん、センサーや可視化ツールなど、ビジネスパートナーのツールをレゴブロックのように組み合わせることで、少ない人数で安心してご利用いただけるシステムを提供してきました」と語る。

システムフォレスト クラウドインテグレーションユニット IoTイノベーションチーム マネージャー 松永圭史氏

 そんなシステムフォレストが養豚IoTソリューションを手がけるきっかけになったのが同じ宮崎県のブランドポーク「まるみ豚」を手がける協同ファームの事例だ。システムフォレストは、新豚舎の建設を機に設備のセンサー化を2年間かけて行なった(SORACOM記事:養豚場の設備データを遠隔管理し、故障検知や事象とデータの相関を分析して改善へ)。ここから生まれたのが萩原養豚も導入した飼料残量可視化サービス 「SiloMANAGER」になる。

 前述した通り、よい豚を育てるには、飼料、水、環境の3要素が鍵になる。協同ファームでの実績をもとにシステムフォレストが他の農家にヒアリングをかけたところ、飼料の管理が共通の悩みであることに気がついたという。システムフォレストでIoT事業を統括する Chief IoT Officerの西村誠氏は、「水や温度管理の重要度合いは農場によって異なるようですが、飼料の残量管理だけはみなさん悩んでいたんです」と振り返る。

システムフォレスト Chief IoT Officer 西村誠氏

 ただ、当時課題になったのは飼料の残量管理を実現するためのセンサーが高価だったことだ。たとえば、他の導入事例ではパルスを用いた米国製のロードセル方式も飼料残量可視化に用いているが、高価で通常の農家では導入しにくかった。そんな悩みを抱えていたとき、都内の養豚関連のイベントで出会ったのがイノセントという総合商社だった。

 宮崎県都城のイノセントは商社ながら養豚の支援事業を手がけており、担当部門の部長も養豚について豊富な経験と知識を持っていた。飼料の残量管理のニーズも理解しており、スペインから給餌器用の安価なセンサーを養豚業者に展開していた。ただ、ローカライズされていなかったことから、なかなか普及しなかったという課題を抱えていた。

 ITに詳しく、養豚事業に不案内なシステムフォレストと、養豚事業に詳しいが、IT面で弱点を抱えていたイノセントはお互いの弱点を補うべく、2021年5月に業務提携を締結。システムフォレストがイノセントのセンサーのローカライズを手がけることになった。そしてこのセンサーを初めて農場全体に本格導入したのが、イノセントから紹介された萩原養豚というわけだ。

養豚業者がIoTを使って本当に知りたかったこととは?

 センサーは安価で使いやすくなったものの、システムフォレストとイノセントが悩んでいたのは、養豚業者とのニーズにミスマッチが生じていたことだ。「飼料の残量可視化だけを訴求しても、お客さまからは『そんなのサイロまで見にいけばいい』と言われてしまいます。飼料をコスト換算しても、正直微々たるもの。『投資対効果から考えれば、アルバイトを雇って、飼料をチェックした方がいいよね』とお客さまから言われたこともあります」と西村氏は振り返る。

 目先の課題ではなく、本当に養豚業者が欲しがっている価値とはなにか? 悩んでいた西村氏は萩原養豚との最初の打ち合わせで、養豚業者の本音を聞くことになる。「馬場さんから、『飼料の残量がわかるんだったら、豚が食べている飼料の量もわかるんですよね』と言われたんです。衝撃を受けました。萩原養豚様では、棒で叩いてサイロ内の飼料を調べていたときから、単に残量を調べていたのではなく、豚が食べている量を調べていたんです」と振り返る。同じくシステムフォレストの松永氏は、「馬場さんは農家として必要なものを僕らに訴えてくれたんです。IT業界にいる立場として、とてもありがたかった」とコメントする。

 2021年7月に打ち合わせを行ない、8月にはSiloManagerを受注。9月にはサービスを稼働させた。わずか1ヶ月半でのシステム構築は、「作らずに創る」というシステムフォレストならではのこだわり。現地で導入を担当した松永氏は、「短期間に仕上げると、お客さまの熱量も下がらないし、周りからのノイズも入ってきません」とコメントする。

 具体的には、15棟のサイロにセンサーを取り付け、レーザーで飼料の量を測定する。同時に設備の動作監視を行なうセンサーも設置し、920MHz帯の通信でゲートウェイにデータを集められるようにした。あとはゲートウェイに搭載されたSORACOMからクラウドに送信し、スマホから確認できるように可視化している。

養豚場にある15棟のサイロ

サイロの上に取り付けられているのがセンサー

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