週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

カメラでの物体認識はAI活用が広がる! ストラドビジョンのAI認識ソフト公道デモ

2022年12月11日 15時00分更新

自動運転にまた一歩近づく
ストラドビジョンの物体認識ソフトウェア

 残暑からの一気の変化で、晩秋のような冷え込みに震えた10月下旬、メディア向けに開催された、ストラドビジョンのAI認識ソフト公道デモに参加してきました。

 ストラドビジョンとは、2014年に設立した韓国のソフトウェアの専門会社です。歴史は浅いのですが、同社の物体認識AIソフトウェア「SVNet」は、ドイツや中国などの量産車にも採用されており、2022年6月の時点で約56万台もの街を走るクルマに利用されています。

ストラドビジョンのゼネラルマネージャー佐藤寿洋氏(右)とビジネスデベロップメントマネージャーのデレク・ユン氏(左)

 物体を認識するソフトウェアは、自動運転はもちろん、普及著しい衝突被害軽減自動ブレーキなどの先進運転支援システム(ADAS)にも必須となるものです。現状では、カメラや半導体チップなどのハードウェアとソフトウェアをセットで開発するのが主流となっています。イスラエルで生まれ、今はインテルの子会社となっているモービルアイも、そうした物体認識ソフトウェアや先進運転システム(ADAS)を手掛ける企業のひとつとなります。

 そんな先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術は、今、急激に世界中で普及が進んでおり、それにあわせてストラドビジョンのようなソフトウェア専門会社も世界各地で少しずつ誕生しています。

 ストラドビジョンの物体認識AIソフト「SVNet」は、“AI”とあるようにディープラーニングを活用していることが特徴です。ストラドビジョンは、社員300名強のうち44%がAI開発に携わるという、AIを強みとする企業です。一方、現在普及している先進運転支援(ADAS)が使う物体認識ソフトウェアは、開発者がデータを用意して学ばせる機械学習であり、ストラドビジョンのAIを使った認識ソフトは、その先をいく性能を備えているというのです。

ストラドビジョンの物体認識AIソフト「SVNet」は、基本的に単眼カメラによって物体を識別している

 「ソフトウェアの専業メーカーとして、弊社のソフトウェアは独自のアルゴリズムを使うことで、非常に軽量でコンパクトなものを開発してきました。また、設計の自由度が増すというのもメリットになります」とストラドビジョンの日本法人 ゼネラルマネージャー 佐藤寿洋氏は説明します。軽いとは、演算量が少ないため、ハードウェアへの負担が小さいことを意味します。また、設計の自由度が高くなれば、自動車メーカーやサプライヤーなどのユーザーが、独自の機能を追加することも可能とか。さらに、半導体チップなどのハードウェアもユーザーが自由に選択できるというのです。

 そうしたメリットがあるからこそ、設立から10年も経たずに世界で約56万台もの量産車に採用されたという、ストラドビジョンの快進撃が実現したと言えるでしょう。そんな、ストラドビジョンは、10年後の2032年には自動車の先進運転支援システム(ADAS)市場において、50%のシェアを獲得することを目標にしています。

デモカーのCR-Vでその実力を体験!
単眼カメラであらゆるものを瞬時に認識

 では、実際の公道デモで、ストラドビジョンの物体認識AIソフトウェアの様子は、どのようなものだったのでしょうか。デモカーは、ホンダのSUVである「CR-V」。クルマを見ると、ライダーやレーダーなども搭載されていましたが、実際に物体認識を行なうのは、フロントガラスに設置された単眼カメラだけ。ライダーやレーダーは、主に確認用に使っているそうです。

ストラドビジョンのADAS向けソフト、物体認識AIソフト「SVNet」を搭載したデモカー

 デモカーの後席には、記者用にモニターが設置されており、カメラで撮影した映像をリアルタイムで物体認識している様子が映し出されていました。歩行者、他の車両、ガードレールに壁、道路わきの生垣、走行車線、そして空などが瞬時に識別されてゆきます。画像の奥行の表示もありました。それらの認識の表示は、非常に早く、そして正確です。これが、機械学習の次になるディープラーニングを使った成果なのでしょう。

デモ走行は、東京のお台場エリアの公道にて実施された。後席に乗る記者向けに、2つのモニターが用意されていた

 「従来の機械学習と、我々のDNN(ディープニューラルネットワーク)ベースのものでは、その差は大きいと思います。どんどん学習させれば、どんどん利口になりますからね。ディープラーニングに関しては、みんな開発していますから、これから2~3年もするとたくさん出てくるはずです。今後、レベル2+や、レベル3と自動運転技術が進んでゆくと、ディープラーニングを使わないと難しいと思います」とはストラドビジョンの佐藤氏。

 また、センサー類が進化すれば、それにあわせて、より正確で詳細な物体認識も可能になるそうです。さらに、将来的には、アジアなどで目にする複数人乗車の二輪車や、道路に飛びでてくる大型動物の認識など、地域ごとのカスタマイズも求められるはず。これもAIを活用することで、迅速な対応が可能となります。

デモカーの荷室には、ADASのハードウェアやソフトウェアのための器材が満載

デモ走行中に、カメラからの映像をリアルタイムで解析し、物体の認識や疑似LiDARの点群マップ描写などが実施された

 ちなみに、ストラドビジョンの物体認識AIソフトウェアは、クルマの先進運転支援だけでなく、他への流用も可能だと言います。「長期プランとして、クルマだけでなく、そこで培った技術をほかの分野に活かすことも考えています。たとえば工場や倉庫で自動搬入するシステムに使ったり、農業や警備にも使うことができます」と佐藤氏。

 何年か前に、AIが大変な話題となりました。そうした技術が、あと数年もすればクルマのADASに採用されるようになるというわけです。また、ストラドビジョンの現在のビジネス相手は自動車メーカーやサプライヤーですが、長期的には他分野に進出して街中で使われる可能性もあります。10年後はストラドビジョンという名前が、もっと身近な存在になっているかもしれません。ぜひとも名前を憶えておきましょう。

■関連サイト

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事