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TSMCと日本のスピード感、政府は変わってきているか?

2022年10月31日 11時00分更新

スピード感と賃上げの問題

 振り返ってみると、2021年10月に、TSMCによる熊本での工場建設が正式に発表され、2022年4月からはすでに工場建設がスタートしているが、政府はそれにしっかりと足並みをあわせて投資を決定した。

 西村大臣は、「日本は意思決定が遅いと言われるが、いまは政府も変わってきている。官民とともにスピード感を高めていきたい」とする。

 確かに、TSMCの熊本での半導体工場建設への投資では政府の決断は早かった。もちろん数年前から検討を進めてきていたが、半導体で遅れを取る日本にとっては、まさに崖っぷちでの一手だったともいえる。これを外すわけにはいかなかったという危機感が、早期の決断につながっている。1980年代後半には、世界で約50%のシェアを持っていた日本の半導体産業の復活に向けた一歩として期待が高まる。

 もうひとつ、西村大臣が触れたのが賃上げの話題である。

 物価上昇が家計に大きく響くなか、政府では、賃上げ促進税制や所得拡大促進税制などの施策を打ち出しながら、企業の賃上げを支援している。

 「中小企業の経営者のなかには、給料があがることが大変だという声がある。ここは苦しくても賃金を上げていき、その人たちが、イノベーションを起こしていくという好循環をつくっていかなくてはならない。投資やイノベーションが、経済成長につながり、人材育成と所得向上を生み出し、それがまた投資やイノベーションにつながる、このトライアングルによる好循環を生み出してほしい」と語る。

元安倍総理とイノベーション

 西村大臣は、2016年のCEATECのオープニングセレモニーに、故・安倍晋三元首相が出席し、その際に、「日本は少子高齢化、人口減少というピンチに直面している。だが、優れた技術と果敢なチャレンジ精神があれば、強い日本経済をかならず実現できると確信している」と述べたことに触れながら、「いまは、新型コロナウイルス、ウクライナ侵略、気候変動という3つの大きな危機に直面している。これを乗り越えるのはイノベーションしかない。イノベーションの中核がデジタル技術である。コロナ禍においては日本のデジタル技術の遅れも指摘されたが、リモートワークが広がり、様々なことができることもわかってきた。果敢なチャレンジ精神は、アニマルスピリッツそのものである。日本人が忘れていたアニマルスピリッツをもう一度掻き立てて、新たなイノベーションを生み出してほしい」と述べた。

 アニマルスピリッツは、経済学者のジョン・メイナード・ケインズが使っていた言葉で、「野心的な意欲」と訳される。不確実な状況下を切り抜ける楽観的な衝動を示し、企業の経済活動を活性化し、新たな経済現象を引き起こす原動力とも言われている。

 ここにきて、経済産業省や地方自治体でも、この言葉を再び使い始めている。

 西村大臣も、イノベーションの中心的役割を果たすIT・エレクトロニクス産業のトップが集うCEATEC 2022のオープニングセレモニーにおいて、あえて、この言葉を持ち出してきたといえる。

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