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F1で頂点を極めた山本雅史氏から学ぶ成功体験の作り方

2022年10月09日 12時00分更新

山本氏が大きな影響を受けた2人とは?

 このような山本さんのチャレンジングな考えはどのようにして生まれたのだろう?

山本 「まずは最初の上司の影響でしょうか。僕はもともとエンジンをやりたくてHondaに入ったのですが、デザイン部門に配属されたんですよ。当時の課長に配属早々、エンジンをやらせてくださいと言ったんです。

 その上司に、“社会人になったばかりで自分に合った仕事、適正というのは分からないだろう。それにHondaのことだってわかってない。まずは3年やれば何かが見えるハズだから、3年頑張りなさい”って言われたんです。そのときはその言葉が耳にスッと入ったんですよ。

 そこで3年、デザインの仕事をがむしゃらに頑張ったら、これが面白くて。ちょうど3年目にその課長から、“お前、3年経ったけれど、どうする?”と聞かれました。驚きましたよね。僕自身、すっかり忘れてたから(笑)。そのとき、エンジンやりたいですってすぐに言えませんでした。

 しばらく沈黙してから“いや、今の仕事が楽しいんで頑張ります”って返事をしました。課長からは“そうか、引き続き頑張れ”で終わり。そんな上司います? なかなかいないですよ。最初の3年、そういう課長の下で働けたのが僕のベースになっているかもしれません」

 そしてもう1人は既に他界された母だという。

山本 「僕は人の好き嫌いがないんです。小さい頃いじめられたこともあるけど、僕をいじめた子とも遊んでいましたからね。あと、あまりネガティブに考えない。だからネガなことがあっても、これは自分への教訓だとか、次への一歩なんだと考えちゃうんです。それは、母の教育なのかなと。だからすごく感謝しています」

成功する組織の作り方
失敗する組織の作り方

 山本さんのユニークな点は、組織論にも現われている。著書では成功する組織の作り方をゴルフボールにたとえて説いているが、ここではその組織論の根幹を聞いた。

山本 「自分とは考えが違うから合わないからこの人はイラナイ、というリーダーがいますよね。僕は違うんですよ。僕にないものを持っている、面白いから入れちゃおうなんです。これから色々なことをやらなきゃいけないという考えがベースにあるから、“お前の考えは面白いから、それをこういうところに活かせるんじゃないの?”と。

 それが30人いれば30人の色がうまく合わさって、みんながいい仕事をすればチームの成果であり、会社の成果にもなりますよ」

 人の長所を見つけて適宜に配置し、伸ばしていく。理想的な話だが、普通はなかなかできない話だ。だが、山本さんは続ける。

山本 「部長とか室長になれば人事もやりますよね。だけど僕は左遷みたいな意識はまったくなかったんです。言葉は悪いですけれど、使えないからほかへ行かせるなんて、この人自身が仕事を楽しくできないと、Hondaの財産が弱くなって、会社全体でマイナスになってしまうじゃないですか」

 人のことを嫌いにならない、それがこの組織論の根幹なのだろう。せっかくなので、失敗する組織についてもうかがった。

山本 「この人を偉くしなくちゃいけないという組織を作ったりとか、仕事の中身が分かっていない人が上に立ったりする組織は絶対ダメです。結局、提案したってわからないし、その人がプライドだけの塊だったら違うことを言いますから。

 それじゃうまくいくわけないし、何のためにも誰のためにもならない。だから僕はプライドなんかいらないと考えています。必要だったら土下座だってしますよ。そういう経験もしてうまくいったこともあるから、結果として成功が多いように見えるのではないでしょうか」

ワイガヤはブレインストーミングにあらず!
「会議をうまく回すこと」「否定しないこと」が大事

 Hondaには上司と部下が分け隔てなく意見を交換する「ワイガヤ」という文化がある。そして本著でもワイガヤの話は出てくる。だがワイガヤと「ブレインストーミング」(ブレスト)とは何が違うのだろうか? 「これは僕の考えですが」と前置きしたうえで山本さんは、こう説いた。

山本 「本来のワイガヤって、フラットにやらないとダメなんです。たとえば僕が部長時代や室長時代に最初から入っちゃったら、若い人から言いたいことの半分以上は出てこない。それって、リーダーとか上に立つ人が、その場をどういう風に持っていくかというのが結構キモで、ワイガヤといいながらワンウェイになってる会議が多いんです」

 つまり管理職が舌戦をくりかえすと、他の人は萎縮してしまって喋れないことがあるのだ。

山本 「だからキーになる人が、ワイガヤという文化を理解していないとワイガヤにならないんです。ワイガヤとは、管理職も一般社員も関係なく、フラットに目的やテーマに対して、しっかり議論する場。

 簡単に言えば人の否定もしない。否定をされたら、その人は次から喋らなくなってしまいますから。あとリーダーが水をさして止めるとかね。特に若い人とかは、否定されたと思って絶対に喋らなくなる。ワイガヤは若い人が意見を言える場じゃないとダメなんです。それで初めてワイワイガヤガヤ色々な意見が生まれるのです」

 つまり会議を主催しているリーダー格の推進力が問われるということだ。また、そういう前向きな会議なら日常的に開催してもよさそうだが、そう頻繁にするものでもないと山本さんは言う。

山本 「年に片手もないくらいがちょうどいい。それも1時間~1時間半ほど。そのために新しく資料を作ることもなく、全員から客観的な意見を出し合うんです」

 そしてワイガヤを始める前に、参加者に対して山本さんは全員に言うことがあるという。

山本 「ココは個人個人の考え方を言う場、今の課題に対しての考え方のヒントを出す場だから、正しい正しくないはないよと。そして僕は出ていっちゃうんです。そして最後に入ってきて、何か面白い話は出た? とかね。会議をすることがワイガヤじゃないんですよ」

 このフラットなコミュニケーションの場を作る能力が、これからのリーダーに必要な能力なのである。

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