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落合陽一サマースクールのキーパーソン3人に聞く「なぜアナログのサイアノタイプをテーマに選んだのか?」

2022年09月30日 12時00分更新

 クールジャパントラベルは8⽉13〜15⽇の3⽇間、⼭⼝県⼭⼝市のKDDI維新ホールにて、⼩学⽣から⾼校⽣までを対象とした、メディアアーティストの落合陽⼀⽒による特別カリキュラムを受講できる「Table Unstable 落合陽⼀サマースクール2022 IN ⼭⼝」を開催しました。

山口市のKDDI維新ホールにて「Table Unstable - 落合陽一サマースクール2022 IN 山口」が開催された

 全国から集まった⼩学⽣から⾼校⽣までの⼦どもたちが、今回のサマースクールでチャレンジしたのは「サイアノタイプ(⻘写真)」。カメラでの撮影から、フェアトレードで作られた「バナナペーパー」へ写真を刷る作業を体験しました。

今回のカリキュラムは「サイアノタイプ」の体験

 前回のレポート(落合陽一サマースクールで子供たちは「吾唯足知」の精神を学ぶ)ではイベントそのものを紹介しましたが、今回はカリキュラムを考えて授業を⾏なった、落合陽⼀⽒とTable Unstableのプロデューサー鈴⽊淳⼀⽒(電通グループ)、そしてバナナペーパーの使⽤を提案して、今回のカリキュラムでも講師をつとめた森 優希⽒(EMIELD)に、今回のサマースクールについてお話をうかがいました。

メディアアーティスト 落合陽一氏

EMIELD 代表取締役 森 優希氏

Table Unstableプロデューサー 鈴⽊淳⼀⽒(株式会社電通グループ)

なぜ「サイアノタイプ」を選んだのか?

──今回のカリキュラムで「サイアノタイプ」を選んだ理由は?

落合氏 写真はみんな撮るじゃないですか。1⽇20枚や30枚平気で撮るんですよ。だけど作品として撮ってないんですよね。空気のように写真を撮っていたら、それはただの記録であって作品でない。⾃分の撮っているものと作品の区別をつけるという気持ちはすごく⼤切なことです。

 さらにアナログの紙の上に印刷すると、紙というのがいかに有機的な存在かわかります。しかし、あの紙を1 枚頑張って作ってせいぜい10円ぐらい。そんな努⼒をして作って10円なものを、我々は無限に消費して⽣きているのです。

落合氏は、写真の撮影で止まっている人が多いと話す

落合氏 コンピューターを使ってチョチョイとデータを作るのは誰でもできるようになりました。でも、コンピューターを持ってない⼈にはチョチョイとデータを作ることはできません。そういったことが⼀番わかるのは、デジタルの⾔うことがきかない「アナログ」なことを試してみるのが⼀番良い。そうするとなにかを撮りに⾏くというアクティブな活動と、それを現像するプロセスにおいて、美的感覚を学ぶことよって磨かれ、それをどうやって処理していくか。もちろん⼩⼿先の技を使えばそこそこ綺麗にはできますけれど、「サイアノタイプ」の場合、⼤⼈も⼦供もあんまりクオリティーに⼤差はないんですよね。

アナログなことを試すのに、サイアノタイプは最適

落合氏 それは「やったことがあるかないか」の問題です。世の中に注意深く⽬を向けて、物事を⾒ていてほしいなというところから、アナログのプリントとフィジカルのアクティビティーに加えてデジタルの処理をしたり。この3つを組み合わせてやろうというのがポイントでした。

普通じゃないものを撮った子が
印刷は綺麗だった

──今回参加者達がチャレンジしているのをみて、なにか気づかれたことは?

落合氏 もっと⼦供⼼に変なものを撮ってくるかなと思ったら、みんな普通でした。秋吉台にあるものでいいものを撮ろうと思ったら、それが制限になって、それを乗り越えてくるような気が僕はしたんですけど。作品の評価も普通か普通ではないかで分けていったらそれで終わってしまった。

瑠璃光寺での撮影の様⼦

落合氏 おもしろいなと思ったのは、普通なものを撮ってない⼦は印刷もきれいでした。年齢もあまり関係がなく、今回優秀作品に選んだのは⼩さい⼦が多かった。⼤きい⼦のほうがうまいかといわれたら、⼩⼿先はうまくなるんだけど、全体の作品としてはそうではない。

小さい子のほうが、全体としては優秀な作品が多かった

──今回SDGsについての学びというのもテーマでした。バナナペーパーを使うというのは森さんからの提案とお聞きしました。

森氏 私が代表を務めるEMIELD(エミールド)株式会社では、SDGsパートナーシップ事業を通じて、企業・学校のSDGs推進を支援しています。NPO・産学連携し、社会課題解決を起点にした事業創造・SDGs戦略構築や教育などを行っています。私は元々、タンザニアで路上に住む子供の教育支援団体を運営しており、MDGsや人権問題について研究をしてきました。これからも、社会課題の本質を知り、体感頂く、プログラムを創り続けたいと思います。今回はSDGsを複合的に学んでいただく資材として、バナナペーパーを提案しました。貧困問題・廃棄物問題、そして教育、こういった社会課題の繋がりを理解できる資材です。

バナナペーパーは、フェアトレード認定紙となっている

森氏 具体的には、バナナペーパーを使って頂くことで、途上国のザンビアの農家の⼈たちの暮らしに貢献でき、貧困問題の解決に寄与できます。また、本来廃棄されていたバナナの皮を使うことで、廃棄物の削減に貢献できるだけでなく、新たな価値を付与できます。そして、子供たちは、実際にバナナペーパーを使う中で、ザンビアで起こっていることや農家の人たちに思いをはせることに繋がります。

 日々選ぶものの背景を考えることで、新しい⾏動の変化につながっていくような、連鎖が起こっていけばいいなと思っています。

SDGsの本質は再分配である

──サマースクールを通して、子どもたちはSDGsを理解できていたでしょうか?

森氏 SDGsの必要性が伝わっていない状態は、「自分事」まで落としきれていないんです。遠い国で起こった問題があって、何かしたいけど、どこか傍観的な立場でみている。例えば、地球温暖化による影響で、欧州では6割の地域が干ばつの危機にあり、山火事、農作物の収穫量減少などの被害が出ている。このような情報は自分事にならないかもしれません。でも、今年、岐阜県で最高気温が40度を超えた。このまま温度が上がり続けると、日中の生活は厳しくなるなど、より身近な出来事に置き換えて捉ることで、やっと⾃分事に置き換わっていくと思います。

 社会課題は、どこかで必ずあなたの生活に繋がっている。そして、身近なところからあなたにも取り組めることがある。まずは、あなたとあなたの周りの人を思いやることから始めてもらえたらいいなと思います。

森氏は子どもたちに、アフリカでの体験を話すことで、身近に感じてもらえるよう伝えていた

森氏 今回のスクールのなかで、⼩学⽣の参加者からは、純粋な質問が多かったです。例えば、バナナペーパーってどんな紙になるのとか。タンザニアではシャワーってどうなっているのとか、どのような⽣活をしていたのか。などの質問がありました。

 中学生・⾼校⽣からは、自身の夢やキャリアと重ね合わせた相談が多かったです。具体的には、森さんの話を聞いて開発途上国に⾏ってみたいと思ったので、何から始めたらいいか。中学校を卒業したら、また相談したい。と熱く語ってくれた子もいました。各々の感性から、⾃分事に置き換えて、SDGsと向き合う時間になったのかなと思います。

落合氏 SDGsの本質は再分配だと思います。ほとんどの問題において、持続可能性と⾔ったときに、再分配以外の要素はテクノロジーの進化によってなんとか成り⽴つので。けれども再分配だけはテクノロジーが進化しても成り⽴たないのです。

落合⽒は、資源の問題を例に、テクノロジーの進化などで解決できる問題はあると説明

落合氏 これは⼤きな問題で、つまりテクノロジーを進歩させた⼈がより富むだけという結果になります。だからそこをちゃんと考えないといけない。それ以外の持続可能性の問題は、個々⼈やテクノロジーの進歩やそういった努⼒で何とかできる。つまり、法の問題ではなく、技術の問題であり、技術の問題だけではなく、教育の問題であるといった感じなんです。

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