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15年前、YouTubeは日本のコンテンツ業界の「敵」だった

2022年06月21日 09時00分更新

 YouTube日本版が6月19日に15周年を迎え、YouTube日本版公式ブログが「YouTubeが日本で歩んだ15年間」と題した投稿では(https://youtube-jp.googleblog.com/2022/06/YouTubeJP15th.html)、その間に話題となった動画の紹介とともに、チャンネル収益化プログラムなどを通じて、クリエイターへの支援を続けてきた歴史を紹介している(「YouTube日本版が15周年、公式ブログで「YouTubeが日本で歩んだ15年間」を公開」)。

YouTubeの15年の歴史の振り返りも。今や当たり前のライブ配信も実は2011年4月開始。Ustreamなどからは随分遅れた形だ

YouTube日本版の正式開始以前、2006年の段階で
国内の著作権権利者団体はYouTubeに削除と対策を要請

 もちろんその歴史は確かなことなのだが、一方で15年前のYouTubeは、日本のコンテンツ業界にとって自分たちの著作物が不当にアップロードされる場であり、「敵」と見なす存在だったのだ(「著作権関連23団体/事業者、YouTubeに著作権侵害行為の事前防止策を要請」)。

 YouTubeとグーグルは著作物を自動で検出し、権利者がコントロールするための「Content ID」を開発し、徐々にその関係を正常化していくのだが(「角川とYouTubeの協業は、何を生み出すか」)、日本上陸直前、2007年当時の雰囲気を伝えるニュース記事が「月刊ascii 2007年4月号」にあったので、少し長くなるが今回そのまま転載した。

ピザ屋の2階(YouTube)をめぐる日米企業経営の壁

 2月6日、動画共有サイト「YouTube」を運営するユーチューブ社のCEO、Chad Hurley氏とCTOのSteve Chen氏が来日、日本の権利者団体と協議を行い、アップロード時に日本語での警告文を表示すること、著作権侵害への対策を行うことを約束した。

 昨年から日本音楽著作権協会やテレビ局をはじめとする国内23の著作権権利者団体はユーチューブ社に対し、違法にアップロードされた約3万件の動画削除を要請するとともに、著作権侵害に対する 抜本的対策の提示を求めていた。

 ユーチューブ社側は動画の削除には応じたものの、著作権侵害防止に関する事項に関しては、国内権利者団体は納得するような回答を得られていなかった。今回の協議は、双方の現状を再確認し「次に何をすべきか」を明確にするための機会として設けられたものといえる。両者の意見には未だ隔たりがあるとはいえ、その試みはおおむね成功したとみるべきだろう。

※ユーチューブ社はカリフォルニア州サンマテオのピザ屋の2階に本社を構えている。

YouTube隆盛をニーズと受け取った米国企業

 さて、このYouTubeそしてインターネットでのコンテンツ配信全般に対して、日米の権利者間には明確な温度差が存在する。

 NBC、CBS、UMG、Warner Music、SONY BMGと米国の名だたる企業が次々と提携を発表しているのに対して日本企業の反応は冷ややかだ。だが上記の大量削除要請をみればわかるとおり、決して反応が鈍いわけではない。では、なぜ削除要請一辺倒なのか。逆に米国企業の動きの早さは何を意味するのか。

 米国で著作権を保持、または管理する側は、Napsterをめぐる一連の問題の際にふたつの教訓を得た。「いったんネットにアップされてしまったものは手の施しようがない」「だからといってネット配信行為を叩くと、今度は自分たちが民衆に叩かれて損をする」。不合理な内容かもしれないが、米国の関係者は身に染みている。

 そこで、もはや企業レベルでは抗えない世界的トレンドになってしまった「著作物をシェアする」という大きなうねりに、今度は自分たちがその潮流に乗ることによって新たなマーケットを形成しようじゃないか、という方向に動き始めた。米国企業はいま、この潮流をビジネスに取り入れる模索の真っ最中だ。その結果がYouTubeとの提携であり、グーグル社の場合は買収につながった。

 一方、日本側に上記のような意思(危機感と言い換えてもいい)はみられない。ニーズを需要の高まりとみて、供給のアクションを起こせば(ビジネスモデルが確立するまでには試行錯誤が必要だが)必ず「カネになる」。需要があるところにマーケットを育てていくことは、あらゆる企業がこれまで行ってきたことではないのか。

 他方、著作権法の差だとする声も多い。日本は各権利が細かく枝分かれしているために、動こうとしても動けないのだと。では、日本の著作権法は遅れているのか。現在スタンフォード・ロースクールで客員研究員を務める、成蹊大学法学部助教授の塩澤一洋氏は、「日本の著作権法はコンテンツの制作や流通のインフラとしてまったく遅れていません。正規のネット配信が進まないのは、著作権法ではなく“契約”の問題です。コンテンツを作る時点で再利用ができるよう契約してこなかったのが原因。きちんと最初に契約していれば、問題なくネット配信できるはず。権利の強さを進歩だとすれば、日本の著作権法は世界で最も進歩している部類に入ります。しかし、それが社会と合致しているかというと……」と語る。

 著作物は土地に例えることができる。無許可のキャンパー集団を発見したときに、それをキャンプ場ニーズの高まりとみるか、それとも無法者として追いかけ回すのか、広大な土地を持つ者の選択が問われている。

なお、記事後半には角川グループホールディングス会長(当時)の角川歴彦氏による、YouTube評も掲載されている。「なるほど、YouTubeというものは、日本のコミケみたいなものだなあと思ったんですね。コミケを否定する出版社もありましたが、角川は実は後発でしたから、コミケを活用してまいりました。(~中略~) 新しいリテラシー(表現能力)を持った映像の投稿作家を育成する視点と姿勢が実は必要ではないのか」

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