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B Dash Camp 2022 Summer in Sapporo「PITCH ARENA FINAL ROUND」

AI作曲からイスラエル国防軍級のセキュリティ対策、衛星データ解析 B Dash Camp登壇スタートアップ詳報

2022年06月27日 11時00分更新

株式会社Solafune
世界のハッカーが集う衛星データ解析アルゴリズム開発プラットフォームを運営する

 6番目の登壇者は株式会社Solafuneの代表取締役 上地練氏。Solafuneは人工衛星が取得する地球の観測データを利用するためのアルゴリズム開発とその開発プラットフォームの提供を行っている。

株式会社Solafune 代表取締役 上地練氏

 衛星データを使うと、例えば駐車場にある車の数を検出してスーパーマーケットの売り上げ分析に活用すると言ったことが可能になる。あるいはウクライナ侵攻の被害状況を見るために、衛星データから3D画像を生成することもできる。このような地球で起きているあらゆる出来事を分析と検索をできるようにするのがSolafuneが提供している衛星データ解析技術だ。

 現在、地球の周りには大量の人工衛星が打ち上げられており、搭載されているセンサーを介してあらゆる場所のあらゆるデータを取得している。そしてそのようなデータの産業利用が進んできている。その例としては石油タンクをモニタリングして備蓄状況を把握し、先物取引に活用するケースや、農作物の育成状況のモニタリングなどが挙げられる。

 衛星データの活用にはアイデア次第で無限の可能性があるが、普及にはまだまだ課題もある。技術的な難易度の高さはもちろん、活用にかかる金銭的にも時間的コストにも非常に高いことがその理由のひとつとなっている。高解像度のデータは価格が高く、また解析には必要な優秀なエンジニアが必要で、結果を得るまでには時間もかかるので、そこにもコストがかかってくる。そのためこれまでは政府や一部の大企業だけが衛星データを利用できていた。そのコスト構造を劇的に変えて衛星データの利活用を普及させるというのがSolafuneの衛星データ解析プラットフォームSolafuneだ。

 Solafuneは世界中のエンジニアに対して、どのようなAIアルゴリズムを開発したいかその課題を公開しており、それにオンライン競技形式で応募してもらう。学習に用いる衛星データはオープン化して参加者に提供し、高い解析制度を持つ優秀なアルゴリズムには賞金を提供して権利を譲渡してもらう。譲渡を受けたアルゴリズムは社内でブラシュアップし、APIとして提供している。これをトランザクションに応じた課金体系でマネタイズしている。

 現在600名以上のエンジニアがコンテストに参加しており、5800件以上のアルゴリズムの開発を行ってきた。最大手の損害保険会社が災害時の被害査定のデジタル化に同社のAPIを活用するなど導入も進んでいる。

「これはKaggleのようにコミュニティを作って開発する様なモデルなのか」(青柳氏)

「開発の仕組み自体はKaggleと同じだが、ビジネスモデルとオペレーションは違う。我々は衛星データに特化しており、どういうユースケースに使うアルゴリズムを開発するのか、どういう衛星データを取得するのか、データの標準化はどうするのかなどのオペレーションを自社で全部やって、開発だけやってもらうモデル。そして得たアルゴリズムを分解してAPI化して提供している」(上地氏)

「衛星データの利活用はまだ企業内の潜在ニーズにとどまっているのか、顕在化してきているのか」(吉田氏)

「業界にもよるが、災害分析の分野は顕在ニーズになってきている。例えば水災水害の査定は、今は水が引いてから現地に調査員が行って一軒一軒調べていくといったやり方をしている。水が引いているので、本当にそこに水があったかは分からないが、跡が付いているからおそらく何十センチだろうみたいな感じで査定をしている。特に東北の大震災のようなケースでは保険会社のリソースはそこに大量に持って行かれる。人を派遣していると実際の支払いまでに半年かかったりするが、それならデジタルですぐにできる方が保険加入者への支払いも早くなるというメリットがある」(上地氏)

「衛星データはオープンだから、御社だけがアクセスできるものではない。どうやって他社と差別化していくのか」(武田氏)

「衛星データは画像で地形がわかるだけではなく、海面のクロロフィルがわかるとか、大気中の二酸化炭素濃度が分かるとか、様々なものがある。なのでどのデータを使えばそのユースケースを実現できるのかを検討する必要がある。今世の中にどのようなデータがあるか、それを提供している衛星は何社あるか、データフォーマットは何か、そういったデータベースを整備してあり、ユースケースにマッチしたデータをすぐ出せるような体制になっている。ユースケースやアルゴリズムもすでに蓄積があり、そこも競合優位性になっている」(上地氏)

SOUNDRAW株式会社
動画の長さやムードにマッチした楽曲をAIで自動生成する動画クリエイター向けソリューション

 B Dash Camp 2022 Summer in Sapporo「PITCH ARENA FINAL ROUND」のトリは、SOUNDRAW株式会社の代表取締役社長 CEO 楠太吾氏が務めることとなった。同社は動画クリエイター向けに誰でも簡単に音楽が作れるAI作曲サービスSOUNDRAWを展開している。

SOUNDRAW株式会社 代表取締役社長 CEO 楠太吾氏

 動画クリエイター最大の悩みは動画の長さや雰囲気、盛り上がりに合った曲を探すのが大変ということ。SOUNDRAWは曲のムードや曲の長さ、テンポなどを指定して、AIに著作権フリーの楽曲を複数自動生成させるサービスになっている。

 さらに生成された曲に対して演奏する楽器を足したり、長さや構成を変更したりすることも可能となっており、クリエイターが制作する動画にマッチした楽曲を短時間で用意することができる。また、ダウンロードした楽曲はYouTubeでもSNSでもライブ配信でも自由に使用することができるライセンス体系となっている。

 ビジネスモデルはサブスクリプションモデルで、年間プランと月間プランが用意されている。ローンチから1年半で既に1260名を超える国内外のクリエイターが有料課金ユーザーとなっており、その30%が海外ユーザーであるなどグローバルでも注目を集めている。

 今後は有料課金ユーザー50万人を目指していくとのことだが、動画クリエイターは2000万人いるとも言われ、さらにその数は増加の一途をたどっている。AIでの自動作曲であるため原価率も低く、非常に高い利益率を実現できるとしている。

「動画クリエイターのペインは確実に解消していると思うが、50万人を取れるという根拠は何か」(吉田氏)

「既にグローバルでは著作権フリーの(人間が作った)楽曲をダウンロードできるサービスが多数ある。そのトップ3あたりはユニコーンになっており、有料会員も100万人を超えている。というところからも50万人は確実に取れる数字と考えている」(楠氏)

「作った曲の著作権はSOUNDRAWとユーザーのどちらに帰属するのか。また、AさんとBさんが同じ設定で曲を作ったとしたら、同じ曲が生成されるのか」(里見氏)

「著作権は利用規約上、弊社に帰属することにしている。そのライセンスをユーザーに提供して、なんにでも使っていいですよ、としている。これは、著作権を放棄すると誰かが著作物の権利を主張したときに、トラブルが発生する可能性があり、それを避けるため。SOUNDRAWは同じ設定にしても毎回異なる曲が生成されるようになっている。同じ曲ができる可能性はゼロではないが極めてまれ。どこかが違ってくる」(楠氏)

「年間プランで月額1650円というのは安すぎるのではないか」(武田氏)

「この料金体系は競合にぶつける価格として設定している。もう一つの収益源として、動画クリエイターではなくシンガーとかラッパーなどのアーティスト向けのものも考えている。歌うことや楽器はできるが、作曲はできないという人向けのサービスになる。実験的に生成した曲に歌を付けてもらったが、非常に良いものができた」(楠氏)

 PITCH ARENA FINAL ROUNDに進出した7社のスタートアップによるピッチコンテストの結果、優勝および野村賞に輝いたのはSOUNDRAW株式会社、準優勝はAironWorks株式会社、ノバセル賞は株式会社Solafuneが受賞した。B Dash CampのPITCH ARENA FINAL ROUNDは業界各方面から注目されており、その受賞者にはすぐにも大きな関心が寄せられる。これらのスタートアップが世界のフィールドで活躍するユニコーン企業へと成長されることを願っている。

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