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スタートアップスタジオ協会が設立 DeNA南場智子氏、入山章栄氏が顧問対談

2022年05月09日 11時00分更新

南場 智子氏×入山 章栄氏 顧問対談「スタートアップエコシステムにおけるスタートアップスタジオの意義?起業家 × 経営学者の両視点からみた現状とこれから~」

 続いてのセッションでは、スタートアップスタジオ顧問の南場 智子氏と入山 章栄氏による顧問対談を実施。「スタートアップエコシステムにおけるスタートアップスタジオの意義~起業家 × 経営学者の両視点からみた現状とこれから~」をテーマにトークを展開した。以下、ダイジェストでお送りする。

南場 智子氏(株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長 デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー)

入山 章栄氏(早稲田大学大学院経営管理研究科 ビジネススクール教授)

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入山氏(以下、敬称略):なぜ顧問をお引き受けになったんですか?

南場氏(以下、敬称略):起業が好きなので、起業を促すイベントに関わりたかったからです。

入山:僕は約10年前に米国から帰ってきて、日本にもようやくスタートアップの機運が盛り上がってきて面白い時代になってきたと感じています。南場さんは経団連でも改革をされていて、その中でスタートアップに関するレポートをつくられていますよね。

南場:海外の調査によると、日本の起業意欲や起業への関心は軒並み世界最下位。周りに起業家が少ないせいか、起業が特別なこととして捉えられているけれど、そんなに気負わずに、普通の人にとって面白そうな職業の選択肢のひとつになるべきなんです。

入山:昔ほどではないにせよ、まだ日本では「起業は命がけ」みたいなところがありますよね。南場さんがDeNAを始めた1999年頃はどうでしたか。

南場:インターネットが商用化されて米国でスタートアップが盛り上がり、それを追いかける形で日本でもうねりが起き、渋谷ビットバレーがものすごい熱気でした。とはいえ、数はずっと少なくて、みんなネット系。今のほうがずっと裾野が広がっているし、VCの環境も整い、スタートアップ投資も増えています。ただ、欧米・中国・インドなど他国と比べると投資額はずっと小さく、成長率も負けている。この調子だとどんどん水を空けられる危機感を持ってほしいですね。

入山:一企業の問題じゃなく、スタートアップエコシステム自体が国際競争になっているという。

南場:これから国内市場は縮小していくでしょう。まだ世界で大勝ちするスタートアップが出ていない。今のままだと非常に国内に閉じた小さなエコシステムに終わってしまうと危惧しています。

入山:僕もそれを危惧していています。日本の企業は時価総額が小さいのはマーケットの差。グローバルで勝負すると、どうしても人口の多い米国や中国、インドのほうが強い。日本のスタートアップは国内に閉じがちなのでグローバルで勝負しにくい。

南場:世界を目指すスタートアップの数が増えないと、グローバルで大勝ちする企業は生まれてこない。そのためには、エコシステムを完全にグローバルに開かないと。日本のスタートアップが国内に閉じているのは、チーム全員が日本人であることも一因です。シリコンバレーのスタートアップは、完全に多国籍なチームになっています。国内には起業家もエンジニアも足りないのだから、国外から人を呼べるように、規制や税制を含め、起業にフレンドリーな環境をつくっていく必要があります。リスクマネーをとれる海外のVCやテック系の大学をどんどん入れて、世界の中で最も起業しやすいグローバルなエコシステムをつくってほしいですね。

入山:一方で、日本のスタートアップ機運が高まっているのも事実。徐々に失敗のハードルが下がっているように思います。

南場:昔のように個人補償が求められるようなことはなくなりましたよね。「2年以内に上場しないと起業家が投資家から株を買い取る」なんていう条項が書いてありましたから。起業なんて十中八九失敗しますから、それが許されないと難しい。循環は経済のダイナミズム。時間は有限ですから、ダメなときはパッとやめて次に行けるようにしたい。アクハイヤー(acqui-hire)はいい仕組み。うまくいかなければ、優秀なチームを買い取り、さっと債権処理をやってトラウマにしないであげてほしい。

入山:経営学の視点からいうと、起業が盛んな国は撤退コストが少ない。倒産法がゆるいと、チャレンジしやすい、という研究結果がすでにあるんです。実は日本も倒産法はそれほど厳しくなく、問題はキャリアの倒産だと考えています。昔は起業に1度でも失敗すると、人生の落伍者という扱いだった。今はスタートアップで失敗しても、DeNAなどのメガベンチャーは雇ってくれる。そういう時代がちょっと出てきていますよね。

南場:最近は経団連企業でも出戻り歓迎のムードに変わってきています。この変化を10倍速でやらないと。

入山:スタートアップスタジオには、どんなことを期待していますか?

南場:アイデアがある人が環境に身を置くことでガッと進むことがあります。トライできる環境があることは素晴らしいですね。

入山:起業しない理由のひとつに「身近に起業家がいない」というのがありますが、それならスタートアップスタジオに連れてきちゃえばいい。

南場:ノウハウやVCの評判なども共有したらいい。ネット検索では見つからない、調達のテクニック、キャピタリストの名前まで、ここだけの情報が共有できる場にしてほしい。その第一歩は集まることですね。

入山:起業したい方は、いろいろな起業家と会うといい。起業にはパッションが一番大事。思いに触れることが大事なので、スタートアップスタジオ協会はパッションを感じる場になってほしい。日本のスタートアップエコシステムそのものにイノベーションを起こしてほしいですね。

南場:失敗を気にせず、どんどん起業してほしい。大企業も起業家マインドのある人を積極的に採用する時代になってきますから、何の心配もいりません。元プロ野球選手の平松 政次さんと横浜DeNAベイスターズの前GMの高田茂さんとの対談で、大成する人としない人の差として、高田氏は「工夫」、平松氏は「想い」を挙げています。うまくいかないときこそ、工夫の道のりを楽しむことが大事。想いはまさにパッションのこと。目標でもチームに対してでもいいので、想いを強く持ってほしい。スタートアップスタジオには、目線を高く持って、それぞれに特徴のあるスタジオ運営に期待しています。協会では、そこで得られた知見を共有できる場として機能するといいと思います。

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