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中国独自の命令セットのCPUとパーツを用いた「完全中国製PC」でWindowsアプリが動いたと話題に

2022年04月07日 12時00分更新

 ロシアのウクライナ侵攻に伴い、米国をはじめとした各国がロシアにさまざまな経済制裁を科している。米国企業ではアップルやマイクロソフト、インテル、AMDがロシアでの製品販売を取りやめ、日本企業もソニーや任天堂、韓国企業はサムスンやLGも同じく販売やサービス提供を停止した。一方で、ロシアでスマートフォンのシェアトップであるシャオミや、パソコンメーカーのレノボなどは傍観の姿勢を示している。

 そんな中、ロシアのBQというスマートフォンメーカーが、制裁によってグーグルのGMSが利用できなくなったことを機に、ファーウェイのHarmonyOSとHMSを導入しようとする動きがある。

 ロシアの状況を見ているためか、中国のネット言論では、明日は我が身の可能性について語られるようになり、「中国はいざというときに海外のライセンスなしに情報機器は作れるのか!?」という話題が出ている。それは今後、ロシアやあるいは別の国が中国のIT製品だけを前提に、制裁下で実際どこまでのところをカバーできるのかという意味も持つ。そうした製品はどの程度の実力なのか、今回はこれを紹介したい。

話題になったビリビリ上の動画。中国製のCPUやパーツを組み合わせてPCを組み立て、Windowsアプリを動かしている

スマホでは西側の半導体やパーツ、ソフトウェアなしに
端末を作ることは難しい

 ファーウェイが米国の制裁により、5G対応チップの供給が止まり、グーグルのGMSが使えなくなったのはよく知られた話だろう。ファーウェイはAndroidのオープンソース部分(AOSP)をベースに、独自のプラットフォーム「HMS」を採用したHarmonyOSベースの4Gスマホを出し続けている。

 同社が昨年発売した「HUAWEI P50」を分解したレポートによると、ディスプレーからRF関連部品、充電用IC、光学レンズ、指紋認証チップ、基板など構成する部品の多くを中国製パーツで構成されていることが明らかになっている。それまでにリリースされた「HUAWEI Mate30」「HUAWEI Mate40」よりも中国産パーツが占める割合は大きいとのこと。

 またスマートフォン用のハードウェアといえば、CPUではアリババ系の半導体企業「平頭哥」の「玄鉄」をはじめ、いくつかの企業がRISC-Vコアでチップを開発し、Android側もRISC-Vをサポートしようとする動きがみられる。RISC-Vはアーキテクチャが公開されており、ライセンス料無しに開発できることから、昨今リスク回避として注目が集まり、ファーウェイやZTEも力を入れている。

 もっともスマートフォンでは、完全に中国産のパーツだけで揃えて動くという状態ではなく、中国産の比率がかなり高まってきたという状況だ。一方パソコンはどうかというと、なんと、とりあえず中国製だけでも“動く”という段階になっている。

独自命令セットのCPU上でLinuxを動作
x86のエミュレーションで20年ほど前のゲームがプレイ可に

 今年3月、動画サイトのビリビリに「deepin震度操作系統」というアカウントによる、「中国産のハードウェアとソフトウェアだけで自作PCを組んでカウンターストライクは遊べるか?」という動画がアップされて話題となり、中国のテック系メディアもこのネタに飛びついた。結果を先に書けば、「オール中国産でも遅いなりにはWindowsアプリが動いた」のだ(なお、カウンターストライクは最初のバージョンは20年以上前にリリースされたFPSだ)。

 スペックはこうだ。CPUには2021年7月に発表された12nmプロセスで2.5GHz動作のRISCプロセッサ「龍芯3A5000」、マザーボードは専用のものを利用する。ストレージには「聯芸(Maxio)」製コントローラと「長江存儲(YMTC)」製NANDフラッシュを搭載した「GLOWAY(光威奕)」の256GB SSDを採用。メモリーには「紫光」製のDDR4 8GB、ビデオカードには「景嘉微」製で28nmプロセスのGPU「JM7201」搭載でメモリー1GBの製品、電源には「長城(Greatwall)」製の400Wタイプとなっている。もちろんケースも中国製だ。

龍芯自体の歴史は結構長いが、「龍芯3A5000」はその最近のモデルで独自の命令セットを採用している

中国各地の役所でも龍芯3A5000搭載システムの導入が進んでいるとのことだ

 中国メーカーの製品だが、中身は外国製の半導体やパーツといったものではなく、中国企業が開発したチップやパーツで揃えているわけだ。なお、CPUの龍芯3A5000は独自アーキテクチャでWindowsを動かすことはできないので、中国製のLinuxディストリビューションである「UOS(Unity Operating System、統信UOS)」をインストールしている。その上でWindowsアプリケーションを動かす「Wine」を導入。これでなんとか中国産ハードウェアだけでWindowsアプリケーションを動かせるところまでたどり着いている。さらにはWindows用のデバイスドライバーでLinux上でデバイスを認識して動かすことまでできている。

中国独自のLinuxディストリビューション「統信UOS」

 なお、中国産CPUは大きく分けると、「(AMDやVIAから)x86のライセンスを得た合弁企業が生産する『海光』や『兆芯』など」「Armからライセンスを得たARMベースのHiSilicon『Kirin』など」「オープンソースの命令セットであるRISC-Vベースの『玄鉄』など」「命令セットも含め自前で開発する『申威』や『龍芯』など」に分けられる。このうち後者2つについては外国が規制をかけても開発・生産が可能と言える。

 「龍芯3A5000」とLinuxである「UOS」でなぜWindows用ソフトが動かせるかは、前述したように「Wine」を使ったからだが、命令の変換部分については、オープンソースの「QEMU」などとは少々異なるアプローチをしているという。龍芯3A5000の独自命令セットである「LoongArch」では、ソフトウェア+バイナリ変換処理に特化したハードウェアという構成になっている。そのためソフトウェア側の対応でx86だけでなくMIPSやArmにも対応し、将来的にx86の命令セットが拡張されてもソフトウェアのアップデートで可能になるとしている。

LoongArchの説明資料

 ビリビリにアップされた動画では、カウンターストライクをプレイした結果として、「Pentium 4と無名の128MBのビデオカードでプレイしてるかのようだ」と言いつつも、「とはいえ、日本のノベルゲーとは相性がいい」と評価(?)する。中国製のソフトウェアは高頻度で更新される傾向があるが、最近LoongArch命令セットへの変換ソフトが更新されたというニュースがしばしば報じられている。現役のアプリケーションを使うには厳しいがとりあえず動くのは確かだし、今後さらにソフト面が中心の改良により進化していくことだろう。

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