週刊アスキー

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and SORACOM

第4回

あらゆるアウトドアスポーツをエンタメに そしてデータドリブンな競技を

水上スポーツのリアルタイムな位置表示を実現する「HAWKCAST」とSORACOM

退職後にすぐ起業 コロナ禍の大型スポーツイベントでも活躍

 こうして生まれた横井氏の位置トラッキングソリューションは、2回のウィンドサーフィンワールドカップで実績を上げたが、所属していた大手メーカーの事業仕分けに残れず、横井氏はなんとリストラ同然に退社となってしまう。そこでサービス自体を再設計すべく、2019年8月に自ら会社を興す。これがN-sports tracking Labだ。「なにも準備もないまま退社して、すぐ起業という流れが1ヶ月で起こった。会社として応援できないという判断でしたが、周りに応援してくれる人がいっぱいいたので、なんとかなるかなあと(笑)」と振り返るが、大きな決断だったことは間違いない。

鎌倉の海の近くにある自宅兼オフィスの周りはウィンドサーフィン仲間もいるという

 再設計を経て、「HAWKCAST」と名付けられた位置トラッキングソリューションが、最初に手がけたのはSUP(スタンドアップパドル)のワールドカップだった。しかし、夏の大型台風でその年は多くの水上スポーツ大会がキャンセル。その後コロナでイベントが軒並み中止となり、起業早々厳しい状態に陥った。そんな中、粛々と動いていたのが2020年に開催される予定だった大型スポーツイベントだった。「勤務していたメーカーのつてで内閣府とつながりができ、準天頂衛星みちびきを活用したサービスをイベントで利用できないかという打診が来たんです」(横井氏)。

 北米産のGPSに比べても精度の高いみちびきを国産の衛星測位システムとしてアピールしたい内閣府と、スポーツイベントで高い位置情報の精度を必要とする横井氏のベクトルが一致した瞬間だった。「みちびきってケータイの通信網を経由しないで緊急地震速報を送ることができるので、船上の通信とは相性がいいんです」と横井氏は説明する。

 予算も売上もないひとりスタートアップだった横井氏のN-sports tracking Labだが、いろいろな偶然と出会いで内閣府のプロジェクトに参画。2021年に延期された大型スポーツイベントのウィンドサーフィン大会では、横井氏プロデュースのトラッキングデバイスが採用されることになった。「選手の船250艇はグローバルの公式計測スポンサーが担当し、それ以外の450艇の支援船でうちのデバイスは使われました。両者の位置トラッキングの精度は変わらないという声をいただいています」と横井氏は振り返る。

 支援船450艇の内訳は、選手の船ごとに1艇ずつ付くコーチの船のほか、審判やレスキューの船、放送や撮影のためのメディアの船など。また、ウィンドサーフィンでは競技会場でも漁船などの通過が許されているため、こうした漁船を適切なコースに誘導したり、地元の定置網に接触しないようチェックするといった役割もあった。

 横井氏はこうした支援艇すべての位置情報をリアルタイムでレポートするとともに、次回の大会で船の燃料を把握するためのデータとして、全艇のスピードと移動距離も計測した。「現地でこの位置だけじゃなくて、移動距離もとれるかと言われて、3時間くらいで実装しました。組織委員会の方は喜んでいただいたみたいです」(横井氏)

ボートレースでは着順とタイムを計測 大会の無人化を実現

 HAWKCASTが提供してきたのは、観客に見えにくかった水上スポーツを可視化するという価値だ。すでに海外大会でも実績を持っており、北米の大会ではSORACOMのグローバルSIMが活躍している。これらの国際的な大会やワールドカップなどでは、比較的予算が融通でき、観客も多いため、エンターテインメント性を高める効果は大きかった。

 一方、横井氏が現在チャレンジしているのが、水上スポーツでの着順とタイムの計測というより高いレベルの実装だ。「位置情報の計測はもともとなかった作業なので、誰かの仕事が減るわけではない。でも、着順やタイム計測の計測はいままで人手とコストがかかっていたところなので、ローカルな地方大会でもぜひ使いたいという声が多いんです」と横井氏は語る。

位置トラッキングの次にチャレンジする着順の自動判定

 着順は時刻ごとの位置情報から算出するのだが、GPSの場合は送る間隔が長いため、補正するアルゴリズムによっては精度が落ちることもある。そのため、つねに日本の真上に来るように軌道が計算されているみちびきでリアルタイム性と正確な位置情報を補いつつ、センサーの取り付け位置を試行錯誤することで、正確な着順とタイムの計測を実現した。

 具体的に活用されているのは、河川で行なわれるボート競技だ。今までボート競技のタイム測定は人手で行なわれており、集計も時間がかかっていた。しかも、コロナ禍で運用スタッフを集めるのも困難になっており、スタッフがいないために開催自体をあきらめるという大会も相次いでいたという。しかし、ボートにトラッキングデバイスを装着し、途中のブイで通過した時刻を計測するHAWKCASTを導入することで、今まで人手をかけていたタイム計測をほぼ無人化した大会も増えてきているという。

昨年末に行なわれた河川のSUP競技

 実際に全日本選手権で計測してみると、手計測とHAWKCASTでの計測との誤差はおおむね1秒以内。「タイムの計測を実測したのは初めてだったので自信がつきました。さすがにゴールの着順と最終タイムは人手で計測しますが、中間のタイムはあくまで参考なので、これなら充分ということで、ボート協会と協議して今年の大会から一部無人化に踏み切っています」(横井氏)。

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