第24回
「体温解析・不妊治療をテックでアップデート~IoTやデータが後押しする女性の健康課題解決~」レポート
体温解析・不妊治療×データが女性の健康課題を解決する
データで女性の健康課題に貢献する方法
ここからは「データ」を中心に、お二人にお話を伺います。(以下、本文敬称略)
── 深部体温や不妊治療のデータは、どのような場面で役立つのでしょうか。
田中(MEDITA):MEDITAが扱うデータは深部体温の変動の連続データですが、これは今まで一般的に取得されてきたものではありません。そのため、「そもそもなぜこのデータを取得するのか、何に使えるのか、どんな有用性があるのか」を説明することから始めなければいけませんでした。
だからこそ、学会や病院との情報共有を大事にしていて、特に製薬会社や小児科医、感染症医等は昔から「熱型」(編注:発熱の時間的経過をグラフにした発熱曲線)を扱うことが多く、「この小さなデバイスで深部体温の変動が簡単にわかるんだ」と興味を示してもらうことが多いです。
ちなみに、ウェアラブルが自動で深部体温の変動の連続データを取得してくれるので患者がこの情報を入力する必要はありませんが、その日の行動や食事、体調の入力が必要なら、装着者に個別に対応してもらう必要があります。
角田(vivola):不妊治療のデータは医療機関の電子カルテには当然ありますが、その結果が患者に共有されることはあっても、病院をまたいで収集・共有されることは通常ありませんでした。しかしcocoromiを通してデータが集合することにより、どんな状況の患者がどんな治療をし、どういう結果を迎えたのかがわかるようになります。
── そもそも女性関連のデータが不足していたのでしょうか。
田中(MEDITA):ある調査によると、女性の85%は1年以内に体調不良を感じているそうです。ただその原因が、風邪なのか冷え性なのか、PMS、更年期、自律神経の乱れなのは簡単にはわかりません。この要因の一つが、女性に特化した研究とリアルなバイタルデータの不足です。
データが不足している理由はさまざまですが、たとえば不妊治療には基礎体温の計測が必要となります。現状では、朝決まった時間に起きて、体を動かさずに舌の下に体温計を入れて測るという方法が採られています。やってみるとわかるのですが、この方法は非常に面倒で大変なんです。なのでデータを取得するためには、基礎体温を簡単に測れるデバイスが必要になる、となるわけです。
── データを取得することで、どのような利害関係者に、どのように貢献しているのでしょうか。
田中(MEDITA):MEDITAは論文から仮説を立てて事業につなげることが多いです。論文は先人が一生懸命考えて実証した証拠なので、その知恵を使わせてもらって新たな発見に進めていこうとしています。先述したように、そもそも女性のバイタルデータは不足しているので、データの取得自体が医療・研究機関に役立つ側面はありますが、我々は必ずしも女性の健康領域の課題だけを取り扱っているわけではありません。
たとえば、以前から論文ベースでは、鬱や不眠、リズム障害と深部体温には相関があると言われていたのですが、今まで簡便で有効な計測方法はありませんでした。しかしMEDITAなら深部体温の変動の連続データの取得ができる。そこでNEDOに採択された共同研究等で深部体温と鬱等の関係を調べることになり、現在研究を続けています。
角田(vivola):cocoromiは患者に不妊治療のデータを入力していただくので、医療機関は治療の時系列データや必要な情報がすぐにわかるようになります。ある患者が新しい病院で不妊治療を始めるとき、他の病院での不妊治療履歴は報告した方がいいとわかるでしょうが、子宮内膜症歴があって手術を受けた事実を報告しなければいけない、ということはわからないかもしれません。でも必要事項が入力されているcocoromiを医療機関に見せれば、医療機関は必要なことがすぐに把握できます。
── cocoromiでは、自分の不妊治療データと、過去に不妊治療を受けた方のデータが比較できます。この比較対象データはどこから来ているんでしょうか。
角田(vivola):最初は不妊治療に成功した方の情報を、アンケートとして収集しました。それと同時に、医療機関からもデータを収集しています。これにより今、何万というデータが集まってきているので、少しずつ母集団の量と質が高まっているところです。
── データが集まることで、ビジネスも変容していくかと思います。今後の展望を教えて下さい。
角田(vivola):不妊治療ひとつとっても、患者向け、医療機関向け、製薬等、課題にアプローチする方法はたくさんあります。フェムテックという意味では、アメリカを中心に福利厚生サービスとして伸びているサービスも多いですね。しかしvivolaが行き着いた結論は、不妊治療の課題解決のためには、結局全部へのアプローチが必要だったということです。そのため、今はtoC向けのアプリが表に出ていますが、裏ではtoBや医療機関とのやりとりも増えています。来年からは研究開発事業として、女性ホルモンのライフログ化に挑戦していく予定です。
田中(MEDITA)データは嘘をつかないので、自分のことを知るのに最も有用なのは機械が取得したデータだと思っています。(今回のテーマである)女性の健康にフォーカスするなら、MEDITAのハードウェアで体温の変動の連続データを取得して子供を授かる、お子さんに装着して呼吸数や体温変動から健康を確認する、体温から更年期症状を予測したち、介護にも役立つような未来を作っていきたいと考えています。体温変動・ウェアラブルデバイスという観点から、色々な場面に貢献していきたいですね。
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