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ソニーの存在意義を定義し、企業文化に定着させた吉田会長兼社長兼CEO

2021年06月03日 09時00分更新

感動は経営における上位概念である

 ここでの重要なキーワードのひとつが「感動」である。

 吉田会長兼社長兼CEOは、「経営における上位概念は『感動』である」と語るとともに、「経営の軸は『感動』であり、感動の主体となる『人』である」とする。

 そして、「『感動を創り、届ける』という点で、ソニーのPurposeと密接につながるのがIP/DTC(Direct-to -Consumer)」とも位置づける。

 この数年、ソニーは積極的な投資を行ってきたが、戦略投資の優先順位は、「IP/DTC」、「テクノロジー」、「自己株式取得」という順番だった。ここでも、IP/DTCが最重要であることを示す。

 グループにとって最大のDTCサービスは、「PlayStation Network」である。

 ここでは、「PlayStation Networkのコミュニティのユーザーエンゲージメントの維持、向上と、コミュニティそのものの拡大がソニーグループのチャレンジになる。アニメやゲームのサービスへの取り組みに加えて、今後、『感動』を届ける世界を広げていく上で、モバイルとソーシャルの取り組みも欠かせない。次の大きなチャレンジのひとつと考えているのが、プレイステーションにおけるソーシャルに向けた取り組み」とする。

 その上で、「現在、ソニーは、世界で約1億6,000万人の人々と、エンタテインメントの動機で直接つながっている。私はこれを10億人に広げたいと考えている。この10億人の動機に近づき、つながることで、『世界を感動で満たす』というPurposeを実現し、ソニーグループの今後の成長につなげていきたい」と宣言する。

 10億人の目標達成時期については明言しなかったが、「世界を感動で満たすための投資領域のひとつがDTC。10億人はDTCにおけるビジョンである」として、長期的な目標であることを示している。そして、10億人達成への道筋については、「ゲームでは、すでに約1億人とつながっており、いまあるものを大きくしていくことに加えて、新たなコミュニティ・オブ・インタレストを作っていくことや、M&Aによって広げたり、作ったりすることで増やしていく」とする。

 コミュニティ・オブ・インタレストとは、感動体験や関心を共有する人々のコミュニティを増やしたり、広げていったりすることを指している。今後、ソニーが重視するキーワードのひとつだ。

 そして、アニメやゲーム、地域ではインド、領域ではモバイル、ソーシャル、サービスといったところから、つながりを伸ばしていくことも示す。

 さらに、「ソニーIDによる利用者など、ソニーのプラットフォームだけで10億人をイメージしているわけではない。モバイルゲームはソニーがダイレクトにつながるものになるが、パートナーと一緒に届けた方がいいものもある。鬼滅の刃は、全世界で約4000万人が劇場で鑑賞した。これはソニーが直接つながったユーザーではないが、劇場というパートナーと一緒に世界に広げたものである。さらに、このコンテンツを他のDTCプラットフォームで展開することもあるだろう。こうした取り組みが、10億人の実現につながる」と述べた。

 10億人という高い目標は、「感動」を創り、届ける企業としての役割を揺るぎないものにする基盤になるといえるだろう。

 ソニーのミッションは、『人と技術を通じて事業の進化をリードし、支える』ことである。

 吉田会長兼社長兼CEOは、「感動を創り、届ける『感動バリューチェーン』において、テクノロジーは不可欠である」とする。IP/DTCによる成長戦略に加えて、テクノロジーによる進化も忘れてはいない。

 たとえば、吉田会長兼社長兼CEOは、2020年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2020のプレスカンフアレンスで、「モバイルの次のメガトレンドは、モビリティである」と宣言し、その具体的な取り組みとして、VISION-SというEVの開発を進め、プロトタイプの製作、公道走行テスト、高速走行下での5Gを用いた通信の実証実験などを行っている。ここでは、ソニーがモビリティの進化に貢献できる領域として車載センシング技術の追求を進めている。車外センシングや車内センシング、レーザーで高精度の測距を行うLiDARなどの研究開発でも成果があがっている。

 また、映像領域でコアとなる技術のひとつとなるCMOSイメージセンサーは、スマートフォンのキーデバイスとして、「世界中のユーザーがクリエイターとなることに貢献している」とする一方、クリエイターのためのドローンと位置づけるAirpeakは、ソニーのイメージング、センシング、ロボティクスなどの技術を集約したものと位置づける。映画撮影などで普及してきたVirtual Productionでは、シネマ向けのメラやLEDディスプレイを進化させているという。

 また、「体験テクノロジー」において、最大のチャレンジとしたプレイステーション5では、音や映像、コントローラーの触覚フィードバックによって、リアリティ、リアルタイムとともに、没入感のあるゲーム体験をユーザーに届ける技術が結集できたとし、今後は、次世代VRシステムにおいて、最新のセンシング技術を盛り込んでいくという。

 今後の取り組みとして示したのが、CMOSイメージセンサーを用いたエッジソリューションの提供だ。これは、2020年5月に発表したインテリジェントビジョンセンサーと呼ばれるもので、AI機能を実装したカメラの開発を促進したり、高速なエッジAI処理によって小売業界や産業機器業界における多様なアプリケーションの実現に貢献したり、クラウドとの協調システムの構築にもつながる次世代センサーとなる。

 吉田会長兼社長兼CEOは、「モノがネットワークにつながるIoTは、モビリティとともに、もうひとつのメガトレンドになる」と前置きし、「このトレンドにおいて、現実世界を捉えるセンサーは、IoTのキーデバイスとなる。2030年には1250億台のIoTデバイスが普及すると言われているが、これは、データ量の爆発や、膨大なデータを処理、送信、蓄積するための消費電力の大幅な増加を伴うことになる。その結果、現在の技術のまま、まったく省エネルギー対策が取られなければ、2030年にはデバイスやデータセンター、ネットワークに関わる電力量だけで、現在の世界の消費電力量を大きく上回るという試算がある。IoTというメガトレンドを持続可能なものにするためには、データセンターでの集中処理に加えて、AIを用いた分散データ処理にも取り組む必要がある。このソリューションは、IoTにおける情報量と消費電力量を大幅に削減することで環境負荷低減に貢献すると同時に、セキュリティやプライバシーにも配慮できる」と自信をみせる。

 「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」が、ソニーが目指す姿だ。2020年度の最終利益が初めて1兆円の大台を突破し、過去最高を記録したソニーグループ。新たな体制で、次の進化を目指すことになる。

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