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2025年までに世界の失明を50%なくす

眼科医の診断ロジックをiPhoneで再現 スマホアタッチメント診療デバイス「Smart Eye Camera」

 OUI Inc.は、慶應義塾大学医学部の眼科医3名で起業した大学発ベンチャー。同社はiPhoneに装着して使うアタッチメント眼科診療機器「Smart Eye Camera」を開発。iPhoneのカメラと光源を眼科診断に必要な3つの光(スリット光、白色拡散光、青色拡散光)に変換する機構をもち、眼科医で使われている細隙灯顕微鏡と同等の精度で前眼部疾患の診断が可能になる。

 このSmart Eye Cameraを使って、2025年までに世界の失明を50%なくすのが目標だという。

 世界の失明人口は2015年時点で約3600万人。そのうちの約2000万人は、白内障など前眼部の病気であり、適切な診断ができれば治療や予防が可能だ。途上国の農村部など医療施設のない地域へ眼科医療を届けられれば、世界の失明人口は大きく減らせる。Smart Eye Cameraは、軽量で小型なので持ち運びが容易で、3Dプリンターを使って現地で製造することも可能だ。

スマホのカメラと光源を利用してスリット光、白色拡散光、青色拡散光を再現

 開発のきっかけとなったのは、創業者の清水 映輔氏、矢津 啓之氏、明田 直彦氏の3氏が毎年参加していたNPOファイトフォービジョンでのアイキャンプ活動だ。途上国の農村部の病院やクリニックには、患者の眼に光をあて拡大して観察するための細隙灯顕微鏡をはじめとする医療器材が整っていない。細隙灯顕微鏡は高価なうえ、重量があるのでキャンプ地へ持ち運ぶのは難しいため、現地のスタッフは、スマホでの光源を駆使して診察をしていたという。そこにヒントを得て、「眼科医の診断ロジックはスマホでの機能で再現可能なのでは」という仮説を立て、3Dプリンターを用いてSmart Eye Cameraのプロトタイプを制作した。

 同社の強みは、現役眼科医として臨床研究でのエビデンスを出しながらプロダクト開発ができることだ。完成したSmart Eye Cameraは、安全性、既存の細隙灯顕微鏡と同等の機能の証明、白内障、ドライアイ、アレルギー性結膜疾患診断の有用性などについて複数の論文誌で発表しており、AIでの画像解析によって前眼部の前房深度(角膜から水晶体までの距離)と急性緑内障発作とも関連性のある狭隅角の評価も可能だという。さらに、スマホで内に記録した診療データを用いて、ドライアイや白内障の自動診断AIの開発を進めており、すでに90%以上の精度が出ている。

電源がなくても、専門医がいない地域でも、スマホで遠隔診療できる

 Smart Eye Cameraは2019年6月にClass1医療機器としてPMDAに届出済みで、国内の眼科はもちろん、研究や高齢者向けの往診、医学教育などの現場に導入。2021年4月からは、慶應義塾大学病院の人間ドックの前眼部診断にも使われている。欧州連合地域(EU)の医療機器登録も完了し、CEマーキングも対応済である。また、伊豆七島、小笠原諸島離島など眼科医が常駐していない離島部にSmart Eye Cameraを送り、現地の医師がスマホで撮影した画像を本土の専門医に送信し、遠隔からコンサルテーションを行なう、といった実証取り組みも始めている。撮影・撮影動画の管理・共有・コンサルテーション機能を実装したアプリも開発済みだ。

Smart Eye Camera用アプリ。セキュリティ機能、撮影画像の管理、チャット機能を搭載し、遠隔診断が可能

 世界的には、開発のきっかけとなった海外各地の医療現場で実証を行なっており、ベトナム、モンゴル、ザンビア、マラウイ共和国、コンゴ、ケニア、マラウイ、ネパールなどの各国で住民の眼科検診や白内障スクリーニングなどに活用しており、今後、ブラジル、ギニア、インドなどでもパイロットに着手予定だ。発展途上国では停電が頻発する地域も多いが、Smart Eye Cameraは電源がない場所でも診療ができるのもメリット。

 発展途上国では、医師ではない検査スタッフによる患者の眼の撮影、撮影動画を使った患者家族への症状の説明、診察待ちの患者へのスクリーニングなどにも活用している。今後、アプリに眼科診断AIが実装されれば、眼科医がいない地域でもスクリーニングの精度が上がり、重症度の高い患者から優先的に診察・治療することができるようになる。診断データには撮影場所も記録されるので、データが蓄積されれば地域や人種による眼の特徴、疫学的な研究にも活かせる可能性がある。

 現在のSmart Eye Cameraは、iPhone 7、8とSEのみに対応しているが、今後はアンドロイド端末や他機種にも対応していく予定だ。

 2025年に失明を50%なくす、という目標を実現するには、まずは広く使ってもらうことが肝心。「Smart Eye Cameraは既存の細隙灯顕微鏡を代替するものではなく、小型で携帯しやすい検査の補助ツールとして、眼科の患者さんを増やす目的で、国内外の医療関係者や支援団体に手軽に使ってほしい」と清水氏は話す。

 2020年4月にはIAPB(失明予防のための国際機関)に日本企業としては初めてSmart Eye CameraのValued Supplier Listに加入。2021年2月から世界銀行グループIFCのプロジェクトに採択され、ケニアの現地医療機関と連携したパイロット事業を進めている。ベトナムとケニアでの本格的な実証を経て、世界へと一気に市場を拡大していく計画だ。

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