週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

三井不動産〝ライブコマース″好発進! そのカギは「リアル&ネット店舗の連動」 「人と人とのつながり」にあり

 ニューノーマル時代では、Eコマース(EC)のあり方にも変化が訪れている。最大の注目は中国で急成長中の“ライブコマース”だ。ライブ動画配信とECを連動して商品を販売する、この新ビジネスに「ららぽーと」「ラゾーナ」など大規模ショッピングモールを管理・運営する三井不動産が、昨年12月より「MEETS SHOP」で乗り出した。

 非接触が推奨されるコロナ禍でライブコマースに進出したきっかけ、三井不動産グループならではの強み。そしてデジタル化推進を支えた、とある〝思い入れ″について元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/三井不動産株式会社 商業施設本部 商業施設運営部
イノベーション推進グループ 主事 飯原隆弘

三井不動産がライブコマースに本格参入


 ライブコマースは、2014年に中国のファッションECサイト「蘑菇街(モグジェ)」が実験的に行なったことに始まり、世界最大のECサイト・アリババ「淘宝(タオバオ)」がこれに追随。2016年に「淘宝直播 (タオバオライブ)」がスタートすると急伸を遂げた。三井不動産は昨年12月14日から、このライブコマースに本格参入している。

――中国のライブコマースの商業規模は、2020年が約17兆円、2021年は約32兆円に上るとの予測ですが日本ではまだ発展途上。そんな中でここに乗り出した狙いは?

「さまざまなデジタル化が進み、お客様のお買い物の仕方も激変する中、お客様と店舗スタッフをつなぐ新しい接点を作りたいと感じたことが大きなきっかけです。そしてコロナ禍において我々も1回目の緊急事態宣言以降に、施設の休館や営業時間の短縮などいろいろな対応をしており、リアル店舗にも少なからず影響がありましたね。

 そんな状況もあって、施設の中で働いて下さっているスタッフさんとお客様をつなげるツールとして、ライブコマースを実施しようという社内の声も強まり、昨年12月に1回目の配信をスタートしました」

三井不動産のライブコマースは、ららぽーと3施設(TOKYO-BAY・横浜・富士見)、ラゾーナ川崎プラザ、ダイバーシティ東京 プラザ、COREDO室町テラスより配信される

リアルとネット店舗の連動、さらに付加価値も


――ライブコマースの形はいろいろあるけれど、三井不動産は実店舗との連動がポイント

「そうですね。我々がライブコマースを実施するにあたり、大切にしていることは2つあるんです。

 1つ目はリアル店舗からの配信。リアル店舗には気軽に行きにくい状況なので、動画の中で店舗のスタッフさんにご出演頂いています。インフルエンサーさんにお願いすることもありますが、必ずスタッフさんにも出て頂き、店舗からの発信というスタンスを大事にしています。

 2つ目はその店舗の魅力を伝えること。実店舗に行きたくなるような動画の構成にしているところが特徴です。 最近のスタッフさんは、WEB上でお客さんとの接点をしっかり持っていまして、東京のスタッフさんが地方のお客さんを抱えていたり、その逆もしかり。商圏に限定されないEコマースという世界で、弊社の『&mall』を活用してECサイトで便利に買い物して頂くことへつなげる。

 この2つをベースとして、ここにお客様とスタッフさんのリアルタイムなコミュニケーションが加わることで、お客様に楽しんでお買物をして頂けたら、と思っています」



 三井不動産は、2017年に三井ショッピングパーク公式通販サイト「Mitsui Shopping Park & mall(アンドモール)」をスタート。リアル施設と「&mall」とが連動したオムニチャネル化を加速させている。現在までに参加ショップ数は約350、会員数は320万人を突破した。

三井ショッピングパークの公式通販サイト「&mall」

「我々がライブコマースに参入する付加価値としては、いろいろなカテゴリー、またそこから派生するショップを、キュレーション的にまとめてお客様にご案内できることですね。今回の『MEETS SHOP』のような形で、さまざまな店舗さんにご協力頂きながら配信を行なっています」

ライブコマースの魅力とは?


――リアル店舗のスタッフがイキイキと商品を紹介しています。その手応えは?

「店舗さんからは多くの反響を頂いております。ブランド単体での動画配信よりも非常にPV数が増えたと。また、商品の取引先からも、こういった取り組みを店舗で行なうのは魅力的、との評価を頂き、もっと商品を卸そうかという話まで波及しました。うれしい誤算です。

 店舗のスタッフさんからも、常連のお客様でも来店して頂かないと直接聞けないような声が、動画配信の中ではリアルタイムで聞けて、コミュニケーションを取れるのがありがたいと言われています」

――ライブコマースはスタッフとお客さんのコミュニケーションの場なのですね

「『&mall』にとってライブコマースは、リアルのお客様がより便利にリアル店舗を使って頂くための1つのツール、という側面が強いです。ライブコマース自体についても、1本配信したことによってECサイトの売り上げがどれだけ伸びたかも、もちろん重要ですが、やはりそれ以上にその後リアル店舗に来て頂けたり、実際に行きたいという気持ちになってもらえたりすることが、とても大きいですね。

 動画の中では、今その動画を見た方だけが使えるクーポンも発行しています。『&mall』上だけでなく、クーポンコードを店頭でお伝え頂ければ2000円オフといったもので、こういった取り組みも店舗さんのご理解の下で始めています」

配信は「Livekit」「TIG LIVE」のプラットフォームを利用

――ダイレクトにECサイトでの販売へつなげるだけではないと

「動画の構成は、ECサイトでの購入につなげることだけにこだわっていません。スタッフさんもお客様のコメントを拾いながら『会いに来て下さいね』と、お声掛けしています。動画配信中の店舗にいた時に、『あと20分ぐらいで行けるんですけど、まだ営業してますか?』みたいなコメントをいくつか頂いて、ちょっと驚いたことがありました。

 こういうコミュニケーションが実店舗を持つ我々ならでは、また我々が目指していくべきところのひとつだろう、と感じながらやっています」

――実店舗を持つ企業のEC的な取り組みは百貨店等でもありますが、御社の取り組みはオムニチャネルとしてもかなり大規模ですよね。そんな三井不動産グループならではの強みとは?

「他社に比べてアウトレットパーク、ららぽーと、都心型施設などさまざまなタイプの商業施設を運営しており、多様なカテゴリーや企業の方々と契約させて頂いていることだと思います。リアル施設でも行ってみると何でも揃っていて、集中的に買い物できることが、やはり非常に大きな強みですね。

 ライブコマースでも、そのバリエーションをしっかりと出していきたいな、と社内で意識を高め合っているところです」

――半年間で50~80本配信予定だそうですが、今後はどう続けていきますか?

「今年2月までに28店舗ご参加頂いて、すでに27回配信を終えています。今回はトライアルという位置付けで行なっているのですが、将来的にはスタッフさんがもっと気軽に配信できる、極端に言えば、スタッフさん自身がアップしたい時にアップできるようなプラットフォームを目指していきたいですね。

 現段階では、期間の延長など具体的に決まっていないのですが、継続へ前向きに進めています」

――ライブコマースによる売り上げへの影響も気になります

「動画の中からECサイトに飛んで下さるお客様が予想以上に多いですね。動画を見るだけでなく、訴求された商品に対してお客様が興味を持たれているのを実感しています。

 今後は、もっと売り上げにつながるように動画の構成を変えるなどいろいろ考えていますが、あまりに商品の購買を促すような動画ばかり作ってもお客様は楽しめない。そこはまず、お客様が楽しめることを第一に、毎週訪れて頂けるようなサイト作りを徹底して頑張っていきます」

――弊社(KADOKAWA)でも先日、トライアル的にライブコマースを実施したところ、売り上げそのものよりコンバージョン率の高さに驚いたのですが、その面での反響は?

「コンバージョン率(実際に購入に至った割合)については通常のECサイトでは1~2%前後のところ、今回の『MEETS SHOP』に関しては高い数字が出ています。目立つものでは、10%ぐらいのコンバージョン率となった配信もありました。もしかしたら実店舗よりも高いかも知れません。これは想定外ではありましたが、とても手応えを感じたところです」

ライブコマース、その後のデジタル展開


――これから新たなデジタル事業に取り組む予定は?

「今回の『MEETS SHOP』でひとつ実績もできましたし、このライブコマース以外にも新しいサービスは、今後いろいろな企業と一緒にやっていきたいと考えています。

 例えばちょっとインナー向けですが、ららぽーとで働くスタッフさんの接客コンテスト的なものを毎年実施しています。これまでは大きな会場に集まってみんなの前で採点、表彰する形で行なっていたイベントですが、これをデジタル化していくことを考える動きがあります」

――「接客コンテスト」は面白い。ウェブ中継などで一般公開すれば、より親近感が湧きますね

「いろいろと検討中です(笑)。デジタルの活用というと、お客様に対してどういうソリューションが提供できるかに意識が行きがちですけれども、サービスを展開する時に何が大事かと考えると、結局は店舗で働くスタッフさんがいてこそ商品を売ることができます。だからスタッフさんのモチベーションを上げることも非常に重要なんです。

 『&mall』についても商品は倉庫からだけでなく、実店舗からも出荷します。店舗のスタッフさんに在庫引当やパッキング、配送の作業をして頂くことが必須になるので、『&mall』の売り上げを店舗の売り上げに計上できるような仕組みをデジタル化しました。

 そして店舗からの出荷が大幅に増えた結果、倉庫に欠品している商品でも店舗にあれば『&mall』で買えるよ、という認識が広がりました。こんなふうに実店舗にデジタルを活用していくというのも、我々の大きな役割だと思っています」

――ECサイトと実店舗がしっかりリンクしていて温もりを感じます。ネットとリアル両方あるからできること

「これまで我々デベロッパーと店舗様とは、場所を貸す側と借りる側という関係でしかなかったんです。けれども『&mall』を通して、店舗スペースの賃貸借だけでなく商品を共に売っていくという関係構築が非常に深まったと思います。ライブコマースや動画についてもさまざまな場面で使い、各店舗さんからご協力を仰いで、一緒の企画作りにも取り組んでいきたいですね」

 できるだけ密を避けることが常識化してきたご時世。ECサイトで買い物は手軽にできるけれど、画面を見てポチるだけでは、やはり物足りないはず。店のスタッフとの会話を楽しみつつ、お気に入りの一着を手に入れる。そんなショッピング本来の魅力を再現できるライブコマースに乗り出した三井不動産は、“非接触型の動画配信時代”の波を確実に捉えている。

 デジタルの裏にも必ず人がいる。人と人との関係がある。商圏を越えた店舗スタッフと顧客のつながり、テナント企業やそこで働く人々と、デベロッパーの関係性を大切にしたデジタル活用でも、新たなビジネスチャンスをつかんでいくだろう。

飯原隆弘(いいはら・たかひろ)●1990年生まれ、東京都出身。2013年、三井不動産株式会社に入社。商業施設のテナントリーシングや都心商業の用地取得を経て、2018年から&mall事業室で新規サービスの開発を担当。座右の銘は「決しておごらず、決して腐らず」。趣味は「フットサルやスノーボードで体を動かすこと!」

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現KADOKAWA・2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長。日本型IRビジネスリポート編集委員ほか。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。最近は公開翌日に有給を取って観た「シン・エヴァ感無量。1994年12月、少年エースで始まった連載の紆余曲折、さまざま枝分かれした全てのエヴァンゲリオンにさようなら。ほぼ30年。ありがとう、庵野さん」

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事