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キッザニアの挑戦〜「エデュテインメント」でこども達に人間力を~

 こども達が、楽しみながらさまざまな職業を体験し、社会の仕組みを学ぶことができる人気の施設「キッザニア」。新型コロナ感染拡大により打撃を受けた施設型エンターテインメントの現状と対策は?

 施設のスマート化、オンラインイベントの開催、会員サービスのデジタル化、そしてコンセプトである「エデュテインメント」の強化。代表取締役社長・圓谷道成氏に、ニューノーマル時代における「キッザニア」の進化と可能性を、元ウォーカー総編集長の玉置泰紀が聞いた。

今回のチャレンジャー/KCJ GROUP(株)代表取締役社長 圓谷道成

徹底的な感染対策でこども達と従業員を守る

 コロナ禍の影響は、この業界もあまねく直撃。キッザニアは3月から5月までの3か月間、自主的に臨時休館していた。お客様と従業員の健康と安全・安心を確保することを最優先に、休館前からサーモグラフィーや検温器の設置、消毒などは行っていた。

 さらに6月の営業再開時からは、営業時間の短縮や入場制限、マスク着用を義務化するなど、「3密回避」「衛生管理」という部分でより徹底的な感染対策を講じた。

ユニフォームは着用ごとに消毒

サーモグラフィでの検知により、体温37.5 度以上の来場者の入場を禁止

 こども達が外してしまいがちなマスクの着用義務が来場者に守られているのも、もともとキッザニアが教育的な施設と認識されているからだろう。しかし食事などの時にはマスクを外す状況もある。マスクの置き場所に困りがちな食事のシーンに対しても圓谷氏は対策を練っていた。

――こども達にマスクを忘れないようにしてもらうアイデアを?

「マスクストラップというグッズを考えました。マスクを外しても首からぶら下げておけるようなロゴ入りのオリジナルグッズで、キッザニア館内で販売しています」

マスクストラップは650円(税込)で販売中

コロナ前から準備していた施設のスマート化

 感染対策を万全にしても、守りの姿勢だけではwithコロナは乗り切れない。3か月もの閉館中に何もしないのももったいない。とはいえ人を集められない、という状況の中、キッザニアは施設のスマート化やオンライン事業に取り組み始めた。

――キッザニアで推進しているスマート化、具体的には?

「キッザニアの第2ステージとして、DX(デジタルトランスフォーメーション)で、お客様の利便性やサービス性、満足度をより高めるようなことができないか?ということはコロナ問題が起こる前からずっと考えていたんです」

 営業再開後の7月、キッザニアがまず実現したのはコロナ以前から計画していた施設のスマート化。これまでは、こども達が各パビリオンにチェックインする際に紙の「ジョブスケジュールカード」に記入する形だったが、このカードにQRコードを付けてスタッフが専用端末で読み込むと自動的にチェックインできるというスタイルに変更した。

 その情報を元に、混み具合や受付状況などの情報を館内のデジタルサイネージで表示できる。

スタッフによる受付時のイメージ

アクティビティの空き状況が一覧可能に

――非接触化が求められている今、まさにニューノーマルの先取り

「デジタル化にはRFID(電子タグ)などのツールもありますが、あえてQRコードにしたのには理由があります。世の中ではQRコード決済が日常に近い。技術的に新しいものではないけれども、こども達には身近なものです。親がスマホなどでピッ!とやっているのを、自分でもピッ!としてみるのは、一つの社会体験として、またアナログチックな面白さもあっていいかな、と。そこであえて一足飛びにRFIDに行かずにQRコードを採用したんです」

――こども達も大人と同じ体験ができるのはいい試みですね

 スマート化についても使う側の利便性より、こども達の社会体験に結びつける。常にユーザーであるこども達の視点に立つキッザニアらしい選択ではないだろうか。

オンラインで顧客との接点確保に活路

 また、新たな挑戦として行われたプログラムに、オンライン上でスタッフと一緒に踊る企画と無観客ライブがある。

 休館中に行われたキッザニアのスタッフと一緒に踊る企画はZoomを使った参加型のプログラムで、1回15名ほどの予約制にて開催された。キッザニアのスーパーバイザー(こども達の体験をサポートするスタッフ)のリードで練習してから、みんなで踊る。自宅がキッザニアの一部になるというわけだ。

 7月には営業短縮による空き時間を活用し、初の無観客のオンライン有料ライブ配信「プレミアムズコンサート」も敢行。2日間の開催で料金は1日1100円。人気アニメやディズニー映画の主題歌など、こども達の大好きな曲をオーケストラが演奏するだけでなく、有名ミュージシャンのソロも入る本格的なコンサートは好評だった。

――オンラインでの新しい企画、実際に行われてどうでしたか?

「無観客とはいえ、オーケストラを入れたこともあり、多くのスタッフが必要で、感染症対策も含め現場は大変でしたが、お客様との接点をオンラインでも確保できるという大きな手応えを感じました」

“お金の大切さをきちんと伝える“

 “お仕事体験できるテーマパーク”とのイメージが強いキッザニアだが、その基本理念は「エデュテインメント」(エデュケーション(学び)とエンターテインメント(楽しさ)を組み合わせた造語)だ。

――キッザニアの根幹となる“エデュテインメント”について

「楽しいだけではなくて、学びがあり人間力を高められる施設を目指しています。キッザニアでの『エデュテインメント』は、大学の先生らからも体験効果について学術的な効果検証として評価を頂いています。仕事や社会体験をすることで生まれる、こども達の新しい気づきや壁を乗り越える力など、いわゆる人間力を高めることにもっと力を入れ、可視化していきたいと考えています」

 ただの学習でもなく、ただの遊びでもない。社会体験から、仕事の楽しさや学び、さまざまな気づきを得られる。キッザニアの基本となる“エデュテインメント”というテーマは興味深い。

「キッザニアは3歳から15歳までのこども達が対象なので、例えば3歳の幼児と15歳の中学生が同じアクティビティに一緒に参加することも有り得る環境です。年齢の低い子たちがお兄さんやお姉さんたちと一緒に体験する、逆に中学生が未就学児と一緒に体験する、つまり世代を超えて協調するというのは、家族以外ではなかなかできないことですよね」

――通常のエンターテインメント施設からは出てこない、面白い話です

「キッザニアでは、パビリオンの中に大人は入ることができません。初めて訪れた場所で、未経験の仕事体験にチャレンジするわけですから当然緊張もするでしょう。その中で『成功』、そして『失敗』も含めた体験こそがキッザニアの何よりの特徴です。そして、こども達は大人が思っているよりもずっとたくましいものなのです」

 キッザニアの仕事体験は、いわゆる「ごっこ遊び」ではない。仕事をすればお給料がもらえる。お金を稼ぐ大切さ、そのお金を何に使うのかを学ぶのもキッザニアの基本。

――そこにリアリティを与えるのが施設内通貨の「キッゾ」ですね。銀行やカード会社、資産運用が学べる証券会社まであるというのも実践的

こちらが施設内通貨の「キッゾ」

銀行で窓口業務などの体験も

「お金を稼ぐということは悪じゃない、お金は大切なものということをきちんと伝えたいんです。こども達は一所懸命働いて、もらったキッゾを施設内の銀行に預けます。次に来場し、貯まったキッゾをATMで一度に引き出しているところに出くわしたのですが、お札の束を見てこども達は大喜びしていました(笑)。やはり実物を見ると、お金の価値が実感できるんですよね」

 中には施設内のデパートで販売されている天体望遠鏡を買うことを目標に、何年もキッザニアに通いつめ、キッゾを貯めてついに手に入れたという子もいたという。親からしてみれば、それだけキッザニアに通うお金をかければ簡単に買えると思われるかもしれないが「働いて買った」「努力して目標を達成した」という体験が、こども達にとって何よりの宝物なのだ。

エデュテインメントから広がる可能性

――キッザニアの「エデュテインメント」には、こども達の将来の選択肢を広げる可能性を大いに感じます

 例えばコロナ禍の医療従事者だが、ワイドショーやニュースでは、彼らが大変な思いをしているという報道が今も続く。それだけを見ていると、こども達が「辛い仕事なんだ」「やりたくない」と思ってしまいかねない。しかし医療従事者の仕事は、本来コロナ対応だけではない。

「もともと医療には何が大切か、どんなところにやりがいがあるのかという本質を感じ取ってもらいたいんです。それが将来の医療従事者の確保のためのベースになるかもしれない」

 キッザニアの病院での新生児のお世話体験では、看護師として働くこども達が人形の赤ちゃんを抱っこする。

「赤ちゃんって、意外と重い、意外と小さい」という感触や、入浴方法などを体験すると「自分も父親、母親ら周囲の大人たちにこうしてもらってきたんだ」という感謝の気持ちが芽生えたり、弟や妹、自分より小さい子に対する接し方が変わる。きょうだいゲンカをしなくなったという例もあるという。

病院では外科手術用の本格的な機器も使用できる

「この夏、キッザニア甲子園では、これから需要が増す介護福祉士の仕事も加わりました。介護介助の仕事を学ぶのですが、車椅子や人を持ち上げるリフトがどれだけ重いのかどうかを体感する。また自分が患者になった場合に、車椅子に座っている人の目線はどうなのか。なかなか普段は感じられないことを体験するだけでも見方が変わる」

 こども達の将来の可能性を広げる職業としては、2019年に東京と甲子園にオープンした任天堂のパビリオンにて人気のゲームクリエイターも加わった。

――人気職業のゲームクリエイターも仲間入りしましたね

「身の回りのツールをゲームコントローラーにするというアクティビティです。単純にプログラムを組んでゲームを作るだけではなく、身近なものを素材としてクリエイティブに活用する。ゲームクリエイターは、発想力やチャレンジすることの大切さを重視していますが、我々は、それらに加えて『考える力』であったり本質的な部分をアクティビティに取り入れたいと考えています」

 学校の授業ではなかなか手が届かない、職業観や勤労観を育んでいるのがキッザニアの魅力だ。

 さらに、11月19日には東京・甲子園に5Gのエリア設計が体験できる「通信会社」のパビリオンのオープンも控えている。新しい時代の5G通信が、便利で安心できる未来の社会を創造するために重要な存在であることが学べるというもの。キッザニアで体験できる職業は、まさに社会や時代の変遷とともにある。

新設パビリオンで5G通信の重要さを学べる

――ニューノーマルの時代、リモートワークも視野に入れていますか?

「オンラインでリモートワークするのが当たり前の時代になっています。親が家で仕事している姿をこどもが見ている現状なわけですが、リモートワークが将来の仕事のスタイルの一つになるはず。今後はそういう仕事にも目を向けて、増やしていこうと考えています」

 キッザニアがこれから増やそうと考えるホームミッションを広げる足掛かりとなるのが、今後、新しくスタートする「キッザニア プロフェッショナル」だ。

新アプリ&会員制度「キッザニア プロフェッショナル」

――キッザニアが今後展開する予定の新規ロイヤリティプログラム「キッザニア プロフェッショナル」。既存の会員サイトから、どう変わるのですか?

「アプリを完全にリニューアルしてインタラクティブな機能を追加します。館内マップの表示、館内アクセス、アクティビティの混雑状況などをスマートフォンで表示。保護者とお子さんのIDを紐づけて、お子さんのアクティビティ体験履歴を振り返られるようになります」

 既存のアプリ同様にネット予約ができるだけではなく、体験履歴を基にこども達の個性に応じたおすすめ情報を発信。また体験回数やミッションクリアに応じて「称号」を与える企画も予定している。こども達のモチベーションは間違いなく上がるだろう。

非接触で館内アクティビティの受付もできるQRブレスレット

 「キッザニア プロフェッショナル」の特典(予定)も魅力的だ。

<入会時特典>
・QRコード付帯の専用ブレスレット
・オリジナルネックストラップ
・オリジナルワークブック「キッザニア コンパス」、ほか

<会員限定サービス>
・ アクティビティ事前予約サービス(年2回)
・デジタル招待券の発行(最大6人まで無料、年1回)
・お給料のキッゾ増額
・館内飲食&物販10%割引
・体験履歴に基づく“ホームミッション”の配信、ほか

 特に注目したいのは「キッザニア コンパス」。こども達自身の自己理解や将来に向けた発想を広げるワークブックで、大学の研究者の監修なども得て行うというから画期的な試みだろう。大きく言えば、こども達の人生の羅針盤になるかもしれない。

「将来的には、こども達のキャリア教育につながるようなことまで進化させたいですね。真剣に考えています」

キャリア教育の専門家が監修している

――学校とは違うアプローチに意味がありますよね。コロナ禍をネガティブに捉えるのか、変化のための一つのトリガーと考えるかで全然違ってくる。これからのキッザニアの進化についてはどうお考えですか。

「キッザニアは施設事業がメインなので、お客さんに来てもらえないのは大変ですが、オンラインでの仕事が当たり前の世の中を前提にすると、こども達にもオンラインでキッザニアを楽しんでもらいたい。また、これまでは商圏に住む人の来場が多い傾向にあったけれども、オンラインなら誰でも遠方からでもキッザニアに触れる機会を増やしていける。それをプラスに考えるべき機会と捉えています」

 キッザニアでは、もともと「アウト オブ キッザニア」という地方自治体や企業とコラボした出張イベントも開催してきたが、オンラインでの“ホームミッション”でこども達がいろいろな職業を知る可能性はさらに広がるだろう。

「バーチャル渋谷」でハロウィーンパレード!

バーチャル渋谷のハロウィーンフェスは10月26日より開催(参加無料、要事前登録)

 2020年秋、キッザニアが新たに挑戦するものに「バーチャル渋谷 au 5Gハロウィーンフェス」とのコラボレーション企画がある。新型コロナの影響もあり、現実世界の渋谷の「ハロウィーン」にこども達が参加しやすいとは言えない。10月1日には渋谷区長の長谷部健氏がハロウィーンの来街を控えてほしいという要望とともに、オンラインイベント「バーチャル渋谷 au 5Gハロウィーンフェス」の開催を発表した。

 キッザニアの「バーチャルハロウィーンパレード」とは、どのようなものなのか。

――キッザニアの新しい挑戦が視覚化できるイベントですね。素晴らしい!

「自宅などからネット環境に入り、バーチャル空間で自分をアバターに見立て、バーチャル渋谷をパレードするという企画で10月29日に開催する予定です。これもリアルな渋谷がバーチャル化されたことによって実現できるプログラムです。リアルがよくなければバーチャルも成り立たないので」

4つの「C」とオンラインが広げるキッザニアの進化

――リアルとバーチャルが交差するニューノーマル時代、コミュニケーション、コラボレーション、クリエイティビティ、クリティカルシンキングという4つの「C」が本当にリアルになってきました。

「4つのCはすごく難しい。でも4つのCから考えていくと新しいものが生まれにくいけれども逆説的に肉付けしていくことはできる。リアルだけでできないものをバーチャルと交換するとかバーチャルだけでできないものをリアルと交換するとか。

 またコミュニケーションをオンラインでやるのは難しいけれど、オンラインにもメリットはある。オフラインで全然知らない誰かと一緒に何かを体験するのはいい経験になりますが、実際そばにいることでかえって壁ができてハードルが高いこともある。でもオンラインだと、その壁が低くなり、やってみようという勇気が出るケースが増えるかもしれない。双方のメリットを組み合わせることも重要ですね」

――オンラインのコミュニケーションをSNSとはまた違う形でキッザニアで体験できるというのは価値がある。試練が与えられ、それを乗り越えることで、こども達には見たことがない景色が見えてくるのでしょうね。

「大切なのは、こども達の生きる力を育むこと。また企業を知るのも重要なことですね。キッザニアには東京・甲子園で合計約80社のスポンサーがパビリオンに出展しています。名だたる優良な企業に名を連ねて頂いていますが、意外と何をやっている企業なのか、何を大事にしているかは知られていないんですよね。

 でも実は、それぞれの企業の社風や理念は、キッザニアのアクティビティの中に入っているんですよ。例えばヤマト運輸さんであれば、挨拶やマナーといった人とのコミュニケーションや、真心を込めたサービスの大切さをこども達に伝えたいと。それを知った上で仕事をしてみると、いつもそうやって宅配してくれているんだなと分かる。いろいろな企業の理念を知ることは、社会を知るという意味でも重要だと思います」

キッザニア東京・館内の街並み

――コロナ禍における試練を自らの力に変えて、新たな挑戦に取り組むキッザニアの姿勢は、こども達にも伝わるのではないでしょうか

「いわゆるレジリエンス、つまり困難な状況でも何とかする力、何があっても負けない、前に進んでいく力を、日本の将来を背負って立つこども達に身につけて欲しい。アクティビティを通して伝えられれば、それが理想です」

――キッザニアは2020年で東京が開業14周年、甲子園は11周年です

 オープン当初から来ていたこども達の中には成人を迎えた人もいる。さらにこどものころキッザニアを体験した人が、今やスーパーバイザーとなって働いている例も少なくない。

「大人になってキッザニアで働いてくれているのは、当時のスーパーバイザーの対応が嬉しかったから、自分もこんな仕事をやってみようという思いもあるはず。そういうスタッフがこども達に接してくれてきたのはすごくありがたいことだし、やってきたことは間違っていなかったと思います」

――最後に、今後のキッザニアが目指す姿とは?

「こども達にはよりグローバルなセンスを持ってもらいたい。それは例えば英語力ということではありません。英語は単なるツールですから。施設はデジタル化・スマート化していくけれど、キッザニアは決して未来都市ではない。キッザニア=こどもが主役の街で、何が起こるか分からない、どんな未来でも乗り越えていける人間力が得られる。そして将来、世界に羽ばたいて活躍して欲しい。そんなエデュテインメント施設にキッザニアをより進化させていきたいですね」

圓谷道成(つむらや・みちなり)●1963年生まれ、東京都出身。1988年、現在のKDDIに入社、2018年10月に KCJ GROUP(株)代表取締役副社長に就任、2020年4月には同社代表取締役社長に。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。大の日本酒好き。
キッザニア公式サイト●http://www.kidzania.jp/

聞き手=玉置泰紀(たまき・やすのり)●1961年生まれ、大阪府出身。元ウォーカー総編集長、現KADOKAWA・2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長。日本型IRビジネスリポート編集委員ほか。座右の銘は「さよならだけが人生だ」。最近は自炊に励むあまり、熱心に書き込んでいる自身のSNSがお粗末な料理だらけに

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