週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

YOXO Study Series 〜woth Resor Tech Okinawa報告会編〜 いまがチャンス!各地で進む観光産業へのテクノロジー導入

”観光 × テック”で地域資源を魅力的なコンテンツへ

2021年02月22日 06時00分更新

コロナ時代のリゾートテックをテーマにセミナーイベントがYOXO BOXで開催

 2020年11月6日、横浜市関内のベンチャー企業成長支援拠点YOXO BOXで、セミナーイベント「YOXO Study Series オープンイノベーション編 ~with ResorTech Okinawa報告会~」が開催された。

 10月末に沖縄で開催された展示会「ResorTech Okinawaおきなわ国際IT見本市2020」をもとに今後導入が期待される観光産業×テクノロジーのサービスをテーマにしたイベント。

 講師を務めたのは、モバイル業界などで活躍するテクニカルライター中山智氏だ。本稿では、中山智氏による講演の内容をレポートする。モデレーターはASCII STARTUPのガチ鈴木が務めた。

テクニカルライター 中山智 氏

コロナ時代のリゾートテックを投影したResorTech Okinawaで注目のサービスとは

中山智氏(以下、敬称略):ResorTech Okinawaの開催は今年で2回目。世界で最も発展するといわれている観光産業とIT産業を掛け合わせた新ビジネスを沖縄から世界へ発信することがイベントのコンセプトです。様々な企業の出展がありましたが今年注目のキーワードは大きく3つ。最も多く出展があったのが、非接触・非対面で行えるようなソリューションやサービス。もう一つは感染拡大防止に関するもの。そして沖縄自身の魅力をアピールするためのIT系のサービスです。

 非接触・非対面のサービスではホテルのフロントやレンタカーの受付で、極力人を介さずにスマートフォンやタブレット、タッチパネルなどを使って予約をするというソリューションがかなり多くありました。オムロンの新しく出たばかりサービスではスマートフォンでチェックインを先に済ましておき、その際に表示されるQRコードを機械にかざすと、部屋のルームキーとレシートが出てきて手続き完了というものも。また、対人型ロボットにより複数の場所の受付作業を遠隔で一人が担当できることで、人の手間を省くソリューションも実際に導入事例があります。

 これは旅行産業の大きな課題の一つ、人手不足に対しても有効です。ホテル側としては元々コロナウィルスが感染拡大する前からチェックインなどの作業を極力人を介さずにシステム化、簡素化しようという取り組みを進めていました。現地の期待としてはやはり、少しでもシステム的なものはITに任せたうえで、もうちょっと柔軟に人が対応しなきゃいけないものにもっと手厚くサービスができるような仕組みを作ることで、ここにきて更に需要が増してきているようです。

ガチ鈴木:一石なん鳥にもなっている感じで素晴らしいですね。「分身ロボットOriHime」なども現地で実用されているなど、スタートアップのサービスがこういうところで展開されてるっていうのは嬉しいですね。

中山:そうですね。あとは、感染拡大防止では体温の自動測定やバイタルデータをデジタルで管理するサービスなども多かったですね。ひとつ挙げると、サーモカメラで体温を測って記録しておくというもの。計測した全ての人のデータを残しておけるので、例えばその人がコロナを発症した場合、この体温測定したときのデータを元にそのときに周辺にいた人とか、その前後に入館した人など一緒にデータとしてピックアップできるんです。それにより、この人はコロナにかかってしまった人のそばにいましたよ、とか同じ時間帯にここにいましたよ、ということが検索できます。早期に接触者が確定できると感染拡大防止にも効果的ですよね。いわゆる不特定多数の方がくるような場所で感染が発覚した場合に、事実確認から対応までを迅速に行えるサービスは旅行だけではなく、会社やイベントなどいろんなところで使われていきそうです。

 最後に沖縄自身の魅力をアピールするサービスでは、V tuberをつかった観光案内、VRやARでの観光体験、それからテレワークとかコーワーキングスペースを検索できるサービスなどがありました。結構沖縄ってあちこちにいろんなスペースがあるし、ワーケーション利用に借りられるような物件もあります。実際僕も滞在中はAirbnbで物件を借りてましたが、日中は取材や原稿を書いて、夜はそのまま現地の居酒屋いって一杯飲んで、なんて過ごし方を楽しめました。今後は仕事に必要な機材周りを一式レンタルできるサービスなんかが欲しいと思っていますが、ワーケーション関連サービス自体は今後非常に広がっていくサービスだと思っています。

ガチ鈴木

コロナにより観光産業は立て直しのタイミング
スタートアップにとっては今がチャンス

中山:今の観光産業を考えるとコロナ渦でインバウンドが期待できない状況だからこそ、改善できなかったシステムを作り直すチャンスなんじゃないかなと思ってます。というのも、コロナになる前はインバウンドで盛り上がっていた分、結構いろんな問題が出ていたんです。例えばオーバーツーリズムなど、観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せることでの問題もありました。他にはAirbnbのようなシェアハウス型のサービスと旅館業との差別化やそこで生じるトラブルなど。ただ、これらの問題はコロナの影響で今のところ全部棚上げとなっているのでその問題を解決する前に、古くなって使いにくくなっている旅行系のソリューションを一旦入れ替えるチャンスなんじゃないかなって思っています。そこにスタートアップ系のサービスが入り込む大きなチャンスも出てきます。

ガチ鈴木:まさに、Airbnbが日本市場に参入してきたときに対応しきれず対応が後手に回ってしまったところが結構たくさんあったと思うのですが、国内のサービスもどんどん新しくブラッシュアップされている今、ちょっとここで落ち着いてものごとをみるいい機会なのかなという感じはありますね。

中山:まだまだリゾートや旅行業界にはITが参入できる余地があるので、いろんなスタートアップでサービスを作っている方は狙っていった方がいいと思いますね。逆に今がチャンスだと思います。

横浜の街をコンテンツ化して人を呼ぶ「観光×テック」3つのポイント

中山:横浜における「観光×テクノロジー」に期待するポイントは3つあります。1つは観光型MaaSの導入、そして横浜ならではの魅力の発信、最後にモバイルネットワークの強化です。

 次に観光型MaaSなんですが「MaaS(マース) = Mobility as a servis」ですね。一般的なMaaSっていわゆる、いろんな交通手段を横断的につなげていくものなのですが、それを観光に取り入れたものが観光型MaaS。現在いろんなところで実証実験がされています。

 僕が取材したなかでは沖縄と愛媛の事例があります。愛媛の観光型MaaSでは、乗り放題チケットのようなものをスマホで購入して、それによりJRの決まった路線で列車とバスが乗り放題になります。実は愛媛ではSuicaなどの交通系ICカードがまだ使えず、観光客には不便なんです。だからそれならどこでもまとめて乗り放題のチケットにしようということで実用化されたわけですが、良かった点としてはアプリを使わない点ですね。現地でポスターに掲載されているQRコードを読み込むかNFCタグをかざすとすぐに専用サイトにアクセスができ、Apple PayかGooglePayがそのまま支払いに使えます。

 一方、沖縄の取り組みではゆいレールが乗り放題なのですが、使用するには専用のアプリをダウンロードし、クレジットカードを登録するという二段階のハードルがあります。この取り組みでは観光客がツールをうまく使いこなせず、実際に使用した人は全体の3割にも満たなかったそうです。僕も旅行するのは好きなんですけど、旅行先ごとでアプリを入れていたら管理が大変なので、こういったサービスをアプリを使わずに利用できる方が導入の心的ハードルは下がると思います。

 横浜ってバスや電車だけでなく三輪自転車タクシーや船、最近ではヘリコプターなど多様な乗り物があります。ただ、それぞれが独自の料金体系になっており観光客には分かりづらい点もあると思います。観光型MaaSは、それこそシェアサイクルなども含めてワンストップで交通機関が使えるようにしようという考えなので、ユーザーとしても使いやすいし便利なのかなと思いました。

ガチ鈴木:このあたりはキャッシュレスの頃から言われていた問題ですよね。だいぶモバイル決済に対するハードルも下がってきているし、登録している人も増えてきているのでわざわざ自分たちでクレジットカード決済するよりも、既存の支払いツールを使ってしまった方が楽だし便利かもしれませんね。

中山:横浜ならではの魅力の発信方法では、やっぱりARで観光案内が見えるのがいいなと思ってます。中華街を歩いていると店名やオススメとかがそのまま画面上に出てきたら面白いし、それこそ近くを歩いているとプル型ではなくプッシュ型でその人に合った通信が届くというのは面白いかなと思ってて。ビーコンなどを利用したらうまくできるかなと思います。

 ただ、大量の通知が届くとスパムに成りかねないというのが加減が難しいところではありますが、やっぱり旅行先では情報がほしいですからね。このお店が美味しいのかどうか、星がいくつなのかリアルタイムで知りたいところなので、わざわざ検索フォームに店名をいれて検索して……ではなくて、カメラを立ち上げてかざすとすっとそのお店の情報が出てくるくらいの面白さがあるといいかなって。

ガチ鈴木:やっぱり旅先で失敗したくないですよね。特に海外での失敗とかほんと命取りですからね。

中山:そうそう。人間って死ぬまでに食べれる食事の回数が決まっているから、一食でも失敗したくないよね。なので、横浜ならではの魅力をそういった形で発信できれば意外と観光客の方に、もっと来てもらえるんじゃないかなと思ってます。

 最後に、モバイルネットワークの強化についてですが、まさにワーケーションの文脈で必要だと思っています。ワーケーションと聞くと遠くをイメージしがちですが、東京に住居を残しながら近県の千葉や神奈川に短期間いくだけでも気分が変わると思います。例えば都内からの手軽なワーケーション先として1週間くらいのワーケーションで横浜にきて、横浜を楽しみながら仕事っていうのはありなんじゃないかなって。横浜で5Gエリアの拡大ができればデータの保存場所は完全にクラウドになります。また、5Gのひとつの特徴でレイテンシが低いっていうのもあるので、ネット環境が整っていないと実現できない高品質なツールを導入できるようになることで、横浜の街をよりコンテンツ化する基盤整備になると思います。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この特集の記事