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憧れのポルシェ 911 ターボを初体験! その素晴らしさにクルマ選びのゴールを見た

2021年01月09日 12時00分更新

京都でも走りやすい取り回しの良さ

初期型のGT-R NISMO

GT-R NISMO(MY17)

 自分にとってこの911 ターボS カブリオレが初のポルシェ体験であること、そして伝え聞く話によると日産はポルシェをライバル視してNISSAN GT-Rを開発されたらしいので、GT-R NISMOとの記憶を遡りながら911 ターボS カブリオレに触れていました。幸いなことに私はGT-R NISMOは過去に初期/MY17/MY20と3世代を試乗したことがあり、各モデルの記憶が鮮烈に残っています。

 今回試乗したのは京都市内。まずはNORMALモードにし、ルーフを開けて市内観光をしてみることに。まず最初に感じたのは独特なステアフィール。やや重ステ系で、遊び部分がほかのクルマと比べて少ない印象。GT-R NISMOも重ステ系なのですが、あちらは少しだけ遊びを感じます。さらにフロントにエンジンがないため、交差点を曲がるだけでも、鋭くノーズが切れ込み回頭するのは快感のひと言。まるで精密なクロノグラフをいじっているような感触に、思わず笑みがこぼれます。

フロントヘッドライトは常に内部4ヵ所のLEDがポジションライトとして点灯する

 次に感じたのは取り回しのよさ。この手のクルマにしては、車高が十分あり、車幅も狭く、さらに言えばフロントフェンダーが盛り上がっていることから車幅感覚がつかみやすく、左側がとても見やすいです。ですから白線からはみ出ていないかドキドキしたり、ガソリンスタンドの入り口でガリっとする心配はありません。セダンが運転できれば、ふつうにポルシェ911は扱えると言って差し支えないでしょう。

 セダンが乗れる人なら乗れるといっても、セダンと同じ乗り心地なわけがありません。スポーツカーらしく、乗り味は硬質で低速走行時は段差で盛大に突き上げがきます。初期型のGT-R NISMOに似ているように感じました。今のGT-R NISMOは、そこまで硬くはなく、普通に乗れるクルマと言えるでしょう。さらに言えば京都の市街地は都内と比べて路面が荒れている印象で、硬めの足とワイドな超扁平タイヤと相まって、場所によっては内蔵が口から飛び出るのでは? と思えるほどの衝撃に襲われました。

 フラット6の音色は、フェラーリやランボルギーニのそれを、カンツォーネを唄うテノール歌手とするならば、ポルシェはベートーベンの声楽曲を唄うバスやバリトン歌手といえるでしょう。低く力強い音は、重厚にして雄大。とはいえアイドリングや街中を航行する程度では排気音は静かな部類で、ご近所迷惑にはならなそう。その意味で街に溶け込みやすいクルマといえます。室内も街乗りではいたって静か。高級スポーツカーにありがちなアイドリング音が室内に響き、隣の人と会話できないということはありません。

ポルシェ911 ターボS カブリオレのブレーキ

 ブレーキは秀逸のひと言。ステアリング同様、遊びは少なく、剛性感を感じながら踏力に応じてスーッと減速するブレーキフィールは、今まで体験したことのない最高のタッチとコントロールのしやすさに、感動の2文字しか言葉が見つかりません。街乗りではアクセルペダルよりもブレーキペダルの方が多く使います。ゆえに、このタッチの素晴らしさは、一層感動するのです。気になりキャリパーを見たところポルシェの社名が。ですが製造メーカーはイタリアの名門、ブレンボとのこと。今まで幾度となくブレンボキャリパーに触れてきているハズなのですが、ここまで感動したことはありません。同じ素材を使っても料理人によって味が変わる、そんな当たり前のことを改めて感じました。

 このように、スーパースポーツにありがちな気難しさは皆無。GT-R NISMOシリーズで最も似ているのはMY17モデルでしょうか。GT-R NISMOのMY17モデルなら半値程度なので、911イラナイじゃん! と思われそうですが、クオリティーや緻密さ(?)という点で、ポルシェは圧倒的。「これがポルシェの世界なのか……」と感じながら西大津バイパスを淡々と走らせ、次なる走りの舞台へと向かいました。

西大津バイパスを走らせている様子

比叡山を力強く駆け上がる911

比叡山ドライブウェイを911 ターボS カブリオレで走らせる

 向かった先は、比叡山ドライブウェイ。ここで、世界遺産ではなく650馬力の片鱗だけでも拝むことにしましょう。料金所を通過してから、走行モードはSPORTにセット。さらにスポーツエキゾーストをONに。アクセルを踏んだ瞬間から、後方から独特のバリトンサウンドが鳴り響きます。それはまるでベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調『合唱付』作品125の第4楽章、「歓喜の歌」冒頭のバリトン歌手独唱による最初の三節のようです。

 比叡の山々を目にしたフラット6は、もっと踏め! というではありませんか。声量豊かなバリトンを山々に響かせながら力強く登坂する911 ターボS カブリオレ。私はただ求められるがままアクセルペダルを踏み、コーナーが近づけばブレーキペダルを踏んで減速しステアリングホイールを回す。コーナー出口が見えたらアクセルを踏み加速するを繰り返していきます。その度に911 ターボS カブリオレの部品たちは、本来の力をみせはじめ、歓喜の歌声をあげていきます。

ワインディングで圧倒的なパフォーマンスを魅せる911 ターボS カブリオレ

 比叡山ドライブウェイの道幅に対して911 ターボS カブリオレはボディーサイズが大きく、扱い辛いところがないわけではありません。ですが次々とやってくるコーナーを、最高のブレーキで減速し、最高のステアフィールで鋭く切れ込む。フロントにエンジンを持たないゆえのシャープでクイックなハンドリングは、あたかも自分を中心に、クルマが地球が高速で回転しているかのよう。その後、再びアクセルを踏み、次のコーナーへ向けて火の玉のごとく加速。これが楽しくないハズがありません。

加速する911 ターボS カブリオレ

 体がシートに張り付くのはGT-R NISMOと同様ですが、GT-R NISMOが引っ張られる印象とするならば、911 ターボS カブリオレは蹴り飛ばされたかのよう。これはリアにエンジンを置いたことによるトラクションのかかり方なのでしょう。クルマが嘘偽りなく意のままに動き、まさに天上楽園の乗り物という形容がピッタリ。頭が空っぽになりながら、それでいて必死にクルマを前へ前へと走らせます。それがどんなに幸せな時間なのか!

 SPORT PLUSへとモード変更すると、足が一層引き締まると車高も下がり過激さがアップ。もはや自分の手には負えない領域になります。ですが、911 ターボS カブリオレの部品ひとつひとつが歌う官能の大合唱に、私の心は完全にわしづかみ。GTカーかよ、と疑って申し訳ございません。まごうことなきスポーツカーであり、しかも極上のスポーツカーです。もう、最高!

ワインディングを走る911 ターボS カブリオレ

 ドライバーに運転とは何かを教えてくれるのも911の凄いところ。クイックであるがゆえに、ゆったりとした操作が求められます。さらに、無理はできないという領域前に、クルマが色々とサポートするので安全なのですが、その際「これをやったらダメだからね」というのを、クルマがキチンと教えてくれるのです。その体験からドライバーは「次はこうやって曲がろう」と考え挑戦する上手くできれば、ご褒美として速く走らせてくれて、運転がより楽しくなる。このクルマによる学習効果を、短時間の試乗で感じたのは初めてのこと。ポルシェはドライバーに寄り添い、刺激を与える心の友なのです。

 このようなドライバーを楽しませながら育成する美質は、50年以上に渡りスポーツカーを作り磨き上げてきたがゆえに到達した世界なのでしょう。普段はジェントルで扱いやすく所有欲を満たしながらも、本来あるべき場所では途方もないパフォーマンスを発揮する。私は今から「大きな成功を勝ち取った、心優しき妻を得た者」にはなれそうにありませんし、そもそもアラフォーにして独身。妻も得ておりません。ですが、もし成功者になれたら、生まれ変わったらポルシェが欲しい! そして歓喜の声をポルシェと共にワインディングロードで歌いたい! そんな夢抱きながら、無我夢中でステアリングを握り、山をいったり来たり。

緩やかなS字コーナーを抜けていく911 ターボS カブリオレ

 フラット6が奏でるポルシェの世界は、想像を裏切らないばかりか、それを遥かに超える素晴らしいもの。様々な方がポルシェを称賛するのもうなづけます。誰もが称賛するフラット6の歌声を奏でる新車で手に入るのも、あと10年で終わり。その理由が、各国がカーボンニュートラルや脱炭素化社会に向けて純ガソリンエンジン搭載車の販売禁止を表明しているからというのはご存じのことでしょう。近年、地球環境を守ろうという国際的な環によって、名エンジンが幾つも消えています。

駐車場に停まる911 ターボS カブリオレ

 比叡山を降りてNORMALモードに戻して琵琶湖のほとりをぐるりと半周。その後京都市内を走行。途中の高速道路では、左側車線をゆっくりと走行。追い越し車線で何台もミニバンに抜かれましたが、気にすることは何一つありません。本気を出せば追い抜ける実力がありますし、なによりポルシェでしか得られない充足感を1分でも長く楽しみたいのです。信号待ちで上を見上げれば美しい星空やネオンの光。911 ターボS カブリオレでしか味わえない至福の時間も終わりを迎えようとしていました。

ポルシェ911 ターボS カブリオレ

 いつまでも乗っていたいというコロロの声が、無意識にダダ洩れしていたようで、後部座席にいるスピーディー末岡は「ずーっとイイと欲しいしか言ってないんだけど!」と失笑。でも、乗せてくれてありがとうと、素直に感謝しました。

【まとめ】ポルシェはクルマ選びの終着駅であり賢者の証である

ポルシェ911 ターボS カブリオレ

 当初は「これが3000万円もするの?」と懐疑的でしたが、触れてみて走ってみて金額に納得するどころか、いかなる面において、これより素晴らしいクルマはないと実感した次第。同価格帯のクルマは、それぞれ素晴らしい世界観をもっていますし、惚れるものがあります。ですがポルシェ911には、伝統の重さというライバル車種にはない世界観があるほか、そこに先進性が加わります。なによりクルマとしての完成度が恐ろしく高く、他の追従を許さない。速さだけに目がいきがちなクルマとは、見ている世界、考えているレベルが根本的に違うことに気づかされました。最初、疑いの眼差しで見て本当に申し訳ございません。

 触れてみて「ポルシェ911は、クルマ選びの終着駅」であると結論づけた次第。繰り返しになりますが、今世でポルシェを手に入れるのは諦めましたが、生まれ変わったら絶対ポルシェ911に乗る人生を送りたい! 

 元クルマ雑誌編集のスピーディー末岡によると「ポルシェを選ぶ方は医者が多い」のだとか。確かに某ミッドナイトな漫画でも、医師が黒いポルシェに乗っていました。それは冗談としても、ポルシェを選ぶことは、審美眼のある賢者といえるでしょう。生まれ変わったら医者を目指したいと思います。

ポルシェ初の電動スポーツカー「タイカン」

 最後に。途中で内燃機関が消える話をしましたが、先日ポルシェ・ジャパンは純EVスポーツカー「タイカン」の販売を開始しました。こちらもEVながらポルシェの血を強く引くもので、魅力的な1台であったことをご報告します。たとえ世の中の流れでフラット6が消えてしまっても、ポルシェはポルシェであり続ける。そんな確信をタイカンから得たことをご報告申し上げます。

シュトゥットガルト市で使われている紋章を由来とするポルシェのエンブレム

ポルシェ「911 ターボS カブリオレ」の主なスペック
サイズ 全長4353×全幅1900×全高1301mm
ホイールベース 2450mm
車重 1785kg(EU準拠)
エンジン 3.7L水平対向6気筒ツインターボ
最高出力 650馬力(478kW)/6750rpm
最大トルク 800Nm/2500~4000rpm
最高速度 330km/hm
0-100km/h加速 2.8秒
トランスミッション 8速PDK
価格(税込) 3180万円

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