厚生労働省では電話やビデオ通話などの情報通信機器を利用した「遠隔診療」に対する見直しを段階的に進めており、2015年8月の事務連絡以降、さまざまなサービスが登場している。2018年4月の診療報酬改訂にあわせて導入を検討する医療機関も増えたが、初診は対面が原則で、対象となる疾病も限定されていた。だが、新型コロナウィルスの感染拡大にオンライン診療のニーズが高まり、初診から疾病に関わらず服薬指導も含めて実施できるよう期限付きで規制が緩和されることが発表された。(前編記事参照)
オンライン診療は、スマホに搭載されたビデオ通話ソフトやSkype、Zoomといったビデオカンファレンスを使用することも可能だが、診療までの準備や支払いなどの対応が別途必要になり、セキュリティー面での安全性やプライバシー問題も疑われるなどから、オンライン診療専用のアプリやシステムを利用する医療機関が増えている。
オンライン診療サービスで提供される基本的な機能とは?
オンライン診療サービスでは、病院の検索や予約、問診から診療、薬の処方から支払い、さらに診療記録を保存できるといった機能が提供される。アプリのダウンロードと利用料はいずれも無料の場合が多いが、医療機関によっては診察費以外に予約料や医薬品の送料で利用料が必要になる場合もある。また、保険証を登録して医療機関が確認できるようになるなどの機能もある。
オンライン診療サービスのメリット
●診察予約:ネット上で都合のいい日時を指定できる
●問診:受診に必要な情報をあらかじめ準備できる
●オンライン診療:リアルタイムでの問診と視診ができ診療時間も通知される
●かかりつけ医との相談:電話もしくはビデオ通話を使用して話ができる
●会計:クレジットカード等で決済可能
●薬・処方せんの受け取り:服薬指導や場合によっては郵送もできる
必要となる使用環境については、スマホやタブレットでのアプリや、パソコンのブラウザーなどを介して受診できる。パソコンにカメラが内蔵されていない場合は外付けカメラでも構わない。なお、診療時の通信回線速度や容量は利用者側で確保する必要がある。基本的な部分は通常のビデオ電話と同じで、通話テスト機能も用意されている。視診がメインとなるので表情がはっきりわかるぐらい明るく、プライバシーが保てる静かな場所での利用が望ましい。
なお、今回の特例措置は、あくまで新型コロナへの対応が発端となっている。下記のような点にも注意が求められるだろう。
利用にあたっての注意点
●新型コロナの対応で診療に時間がかかる場合がある
●医師がオンライン診療は難しいと判断した場合は、対面診療への切り替えが必要となる
●検温や服用している薬の確認など、事前の準備をできるだけ行っておくとよい
おもなオンライン診療サービスの紹介
ここからは、現在稼働している主要なオンライン診療サービスの中身や特色を紹介する。今回の新型コロナにあたっての各社からのコメントとともに確認してほしい。
「CLINICS(クリニクス)」株式会社メドレー
株式会社メドレーによって2016年2月にサービスが開始された。全国で約1200の医療機関に導入されている。これまでに6万回以上の診察が行われており、予約から事前の問診、ビデオ通話での受診、決済、薬/処方箋の受け取りまでをアプリもしくはブラウザー(Google Chrome)を介して一気通貫で行なうことができる。
使用できる環境:
・Google Chrome 最新版が作動するWindows、Mac、Linux 搭載のパソコン
・Android OS 4.4以上の端末
・iOS10.0以降のiPhone、iPad、iPod touch
・ネットワークは実効速度2Mbps以上 10Mbpsを推奨
サービスの特徴:
・アプリのダウンロードや利用は無料
・アプリから医療機関が「現在地」「都道府県/診療科」「QRコード」で探せて、オンライン初診外来に対応しているかが判断できる。
・「薬を調べる」「病気を調べる」といった機能も用意されている。
・ISMSクラウドセキュリティ認証を取得。二要素認証など強固なセキュリティ機能を備えている。
・調剤薬局での服薬指導にも使用されており、薬局によっては配達にも対応している。
現在の状況と今後の見解:
特例措置により初診が可能になったことからオンライン診療の認知が高まり、アプリ登録数も伸びて1月から2月の増加率は通常の約8倍となった。問い合わせ件数は3月は2月の約2倍、CLINICSでの診察回数は3月は2月の倍近くあった。医療機関や患者のオンライン診療利用は増えているが、引き続き「CLINICS」活用による新型コロナウイルスの感染拡大防止を進めていきたい。
「クロン」株式会社MICIN
株式会社MICIN(マイシン)が開発するサービスで全国2500以上の施設で導入されている。クロンを利用している患者とフリートークができる機能があり、自身の健康データを入力して医療機関と共有することも可能。CATVを利用したオンライン診療の実証実験なども行なっており、今回の規制緩和で処方せん送付システムを短期で開発している。
使用できる環境:
・Android OS 4.4 以上
・iOS 9.0 以上
※Android OS4.4以上であっても、以下機種はご利用いただけません。
・MONO(MO-01J、MO-01K)
※弊社検証環境での確認結果となり、すべての端末での動作を保証するものではありません。
サービスの特徴:
・アプリから医療機関をQRコードや4桁の医療機関コードなどで追加して登録できる。
・ウェブサイト上から初診対応可能な医療機関の検索ができる。
・厚生労働省・経済産業省・総務省のガイドラインに準拠。
・処方せんや医薬品の発送が簡単にでき、伝票番号で配送状況も調べられる。
・疾病部位の画像共有が可能。
現在の状況と今後の見解:
特例措置が始まって以降、医療機関の導入数が大幅に増え、2019年12月には1700件程度だったのが2020年4月時点で2500件を突破し、診察実施回数も2019年12月と比較し10倍ほど増えている。オンライン診療ができる疾病が増えたことで、医療体験をより幅広い方に提供できるようになったのではないか。利用者の声なども反映しながら、さらによりよいサービスを提供したいと考えている。
「YaDoc(ヤードック)」株式会社インテグリティ・ヘルスケア
株式会社インテグリティ・ヘルスケアが開発するオンラインの疾患管理システム。メディカルデータを活用し、医師や医療スタッフとのコミュニケーションをスマートに行える。血圧や脈拍などの生活データを記録して医師と共有したり、症状の変化を伝えやすくしている。各種ガイドラインに準拠するセキュアなシステムを構築している。
使用できる環境:
・iOS 11.0以上、Android 5.0以上(6.0以上推奨)を搭載したスマホおよびタブレット
・ネットワーク実効速度 2Mbps以上(10Mbpsを推奨)
・動作保証対象外の一例 らくらくスマートフォン、シンプルスマホ / iPod Touch / iPad mini / Microsoft Surface / Android Tablet全般 / (HUAWEI) Android Smartphone
サービスの特徴:
・健康医療機器との連携が可能
・食事記録や水分摂取量など細かい生活データを共有できる
・SSLクライアント証明書による認証とID・パスワードによる「2要素認証」を実装
現在の状況と今後の見解:
現在の制度はコロナ特例措置として大変柔軟な運用が可能だが、現時点では収束後には解除されるとされている。だが、医療現場が以前に戻る事は考えにくい。今回を機に多くの医療機関や患者がオンライン診療を経験し、そこで生まれた事例や明らかになった課題を元に、有用性や利便性を評価することで今後のオンライン診療の運用ルールを再構築する動きが生まれるのではないか。そこで生まれた新たな制度に沿ったITシステムや配送・物流サービスなどが急速に生まれることで、今後広く一般的に普及していくだろう。
「ポケットドクター」MRT株式会社・株式会社オプティム
医療向け人材紹介会社のMRT株式会社とAIやIoT関連システムの開発を手掛ける株式会社オプティムによるサービスで、遠隔診療で日本初のスマホ対応を開始した。アプリだけを使う診療の場合、初めての場合は不慣れで不安や違和感を持たれることもあるが、利用者も医師も2?3回ほどで慣れてくるという声が多くユーザーインターフェイスに定評がある。
使用できる環境:
・iOS:iOS 10.0以上、ブラウザー:Safari (最新版)
・Android:Android 4.4以上、ブラウザー:標準ブラウザー(最新版)かGoogle Chrome(最新版)
サービスの特徴:
・高精細なビデオ通話が可能。赤ペンや指さし機能なども搭載。
・健康相談用のアプリもある。
・ウェブサイトから医療機関を検索してアプリから予約できる。
・血圧計などのヘルスケア機器のバイタルデータの連携が可能。
現在の状況と今後の見解:
全国から問い合わせが急増しており、資料請求以外にも即時導入するケースもある。緊急措置でオンライン診療に関してニュースでも取り上げられる機会が増え認知度が高まっている。SNSでも利用者から「必要」「拡がってほしい」といった意見がよく見られることから、ガイドラインも緩和されていくのではないだろうか。
なお、新型コロナへの対応から規制緩和が進められているのはオンライン診療だけではない。たとえば診療後に処方を行なう場合、処方せんを薬局に直接送ることはできるが服薬指導が必要になるため、薬局まで出かけて対面で受け取る必要がある。だが、ここでも特別措置が行なわれており、ビデオチャットで服薬指導を受けてクレジットカードなどで代金を支払えば薬を配達してもらえるようになった。こちらもまだまだ対応しているところは少ないが、要望にあわせて導入を検討するところは増えるかもしれない。
オンライン診療サービスはほかにもいろいろあり、今回の規制緩和の影響で導入が進めば、日本より導入が進む海外も含めた新規参入が増える可能性もがる。競争が進めばサービスの機能も高まりそうで、こうした状況はそのまま通常の診療のITC化を進めることになるかもしれない。オンライン診療については今後も引き続き動向に注目していきたい。
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