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クリエイティブ系ソフトで「Ryzen Threadripper 3990X」の64コア/128スレッドをフルに使えるか検証

2020年03月18日 11時00分更新

 やや目先を変えてRAW現像の定番「Lightroom Classic」でも試してみよう。RAW画像(24メガピクセル、DNG形式)を100枚準備し、補正などの調整をかけた状態で最高画質のJPEGに書き出す時間を計測する。書き出し時にシャープネス(スクリーン用、適用量“標準”)を付与する。このシャープネス処理がかなり重いので、Ryzen Threadripper 3990Xのパワーがどの程度活きるか見ものだ。

「Lightroom Classic」でJPEG書き出し時(シャープネス含む)のCPU占有率の様子

「Lightroom Classic」によるDNG→JPEG書き出し時間

 タスクマネージャーのヒートマップからも分かる通り、Lightroom Classicはプロセッサーグループの壁を越えられない。一応64スレッドに処理が分割されているが、処理時間もRyzen Threadripper 3970Xと3990Xは定格時で8秒、PBO有効時で11秒しか速くなっていない。むしろSMTを無効化した方が断然高速なのだ。プロセッサーグループの壁を越えられない場合は、物理コア64基だけで回した方がパフォーマンスが追求できる場合もある、ということだ。

高負荷時の熱やクロックの推移を追いかける

 マルチスレッドのパフォーマンスの傾向が分かってきたところで、Ryzen Threadripper 3990Xのクロックや発熱はどの程度かも検証していきたい。今回のCPUクーラーは諸般の事情で汎用簡易水冷ユニットをRyzen Threadripperに同梱されているアタッチメントを利用して装着している。水枕はCPUの中心部しかカバーできないため、冷却的にはあまりよろしくない状況である(sTR4用のクーラーは選択肢が少なく、筆者の経験上破損事例が多いのが難点だ)。

 ここでの検証は、Blenderのレンダリングテストを実行させた時のCPUの「平均実効クロック(Average Effective Clock)」と「CPUダイ温度(tCtl/tDie)」、そして「PPT(Package Power Target)」をそれぞれ追跡する。各種情報の取得は「HWiNFO」を使用し、室温は約26℃で検証している。

Ryzen Threadripper 3990XでBlenderレンダリング時の平均実効クロックの推移

 まずは平均実効クロックから見ていこう。横軸(時間)で42秒あたりが実際のレンダリング開始、それ以前はレンダリングの前処理となる。Ryzen Threadripper 3990XでPBOを有効にした場合、平均実効クロックの最大値は3.7Ghzに到達するが、これが持続するのはわずか数秒で、その後徐々に3.3GHzあたりまで低下する。

 一方定格時はレンダリング開始時に3.2GHz弱まで上がり、3GHzよりやや上あたりで安定した。SMTをオフにした時はSMT有効時(=定格時)とほぼ同じ傾向を示すが、0.1GHz程度上のクロックで安定している。SMTオフにした結果、熱的/電力的な猶予が生まれ、それがクロックをわずかに押し上げたことが見て取れる。

Ryzen Threadripper 3990XでBlenderレンダリング時のtCtl/tDieの推移

 次はCPUのダイ温度の推移だ。HWiNFOではCCDごとに温度も計測できるが、ここでは全ダイの温度が高い/低いかを見るためにtCtl/tDieをピックアップした。まずRyzen Threadripper 3990X定格時の最高温度は72.8℃。処理に要した時間は2分半程度なので温度が上がりきらなかった感じではあるが、汎用簡易水冷ユニットでも長時間負荷をかけなければ十分冷やせることは示せた。面白いのはSMTをオフにすると3℃程度温度が下がる点だ。64コアCPUともなると、SMTをオフにするだけで休める回路の規模は相当大きくなる。温度も低くなって余裕が生まれたのでクロックもわずかに高くなる、という流れが見えてくる。

 一方PBOを有効にすると、温度はレンダリング処理開始から1分も経過せずに94.8℃まで上昇する。PBO、即ちメーカー公認の簡易OCなのだから温度も爆上げするのは明らかだが、今回検証に用いた汎用簡易水冷ユニットでは力不足である事も示している。PBOやOC運用をするなら、Ryzen Threadripperの表面をフルカバーできる水冷システムが必要だ。

Ryzen Threadripper 3990XでBlenderレンダリング時のPPTの推移

 最後にPPTの推移。これが高いほどRyzen Threadripperのパワーが絞りだせる状況にあるので、消費電力の大小を図る指標にもなる。まずRyzen Threadripper 3990X定格時のPPTは267W前後で安定しているが、SMTをオフにするとPPTは280Wジャストで頭打ちになった。Ryzen Threadripper 3990XのTDPは3970Xと同じ280Wに据え置かれているが、全コアをフル稼働させると280Wの枠をやや越えるため、少々パワーダウンして運用するように設計されていることが読み取れる。

 PBOを有効にすると、PPTの最大値は566W、レンダリング処理終了時でも425Wまで上昇している。Power Targetが定格時の1.6〜2倍に増えるのだから、消費電力や発熱が激増するのも当然といえる。ただPBOを有効にしても128基の論理コアを全て使い切れるアプリが少ない現状を考えると、PBOはあまり現実的でない選択肢といえるだろう。

浪漫溢れるCPUだが、輝けるシーンは限られる

 AMDはRyzen Threadripper 3990Xは“どんな処理でも速い”CPUとしては売り出していない。CPUの並列度が最も重要視される処理に対し、1ソケットで今考え得る限りの計算リソースを投下できるソリューションとして設計されたCPUである。今回試した範囲では、CGレンダリング処理程度しか真価を見いだす事はできなかった。

 エンコード処理は一部エンコーダーでプロセッサーグループの壁を越えた事例が観測できたものの、32C/64TのRyzen Threadripper 3970Xとほぼ同等程度のパフォーマンスしか発揮できず、ソフトウェアがRyzen Threadripperの進化に追いついていないといえる。ソフトウェアのコンパイルやビルド作業、学術計算でCPUコアを多用するようなものなら、性能を活かしきれるかもしれない。64C/128TのCPUは浪漫溢れる存在だが、それをフルに使いこなすにはユーザー側にも十分な運用知識が必要になる。

 今回はCGレンダリング系のみに効果を認めることができたが、プロセッサーグループの壁のないLinux等ではどの程度動くのだろうか? 次回はRyzen Threadripper 3990Xレビューの最終章として、Linux環境におけるパフォーマンス検証、そして今回意識的にスルーしたゲーム+ストリーミング配信におけるパフォーマンスも検証してみたい。

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