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東京オートサロン2020で感じた豊田章男社長の本音

2020年01月23日 10時00分更新

ラスベガスから幕張へ
クルマ好き社長が見る未来のクルマ社会

 「東京オートサロン2020」で最も印象的だったのは、トヨタの社長・豊田章男氏であった。オートサロンはカスタムカーの祭典であり、今年も個性的なカスタムカーや新型車が数多く出展されており、それらも非常に興味がそそられた。しかし、圧倒的なまでの存在感を放ったのが豊田章男社長であったのだ。

 まず、驚いたのが、初日となる1月10日の朝一番9時半に行なわれたトヨタ・ガズー・レーシングのプレスカンファレンスに章男社長が登場したことだ。トヨタの発表なんだから登場してもおかしくない、と思うかもしれない。しかしほんの数日前、章男社長は、アメリカのラスベガスで開催されたエレクトロニクスショーのCES(1月7~10日まで開催)で、東富士に作る「Toyota Woven City」(トヨタ・ウーブン・シティ)を発表していたのだ。筆者の仲間のライターは、まだラスベガスでCESの取材をしているというのに。

 ラスベガスでプレスカンファレンスをしてすぐに帰国したのだろう。日本とラスベガスの時差は17時間もある。個人的には、欧州よりもアメリカからの帰国の方が時差ボケはつらい。そんな厳しい日程の中でありながら、章男社長は「I'm back!」と元気いっぱいにプレスカンファレンスに登場し、新型「ヤリス」のハイパフォーマンス版である「GRヤリス」を紹介したのだ。これには驚かされた。

 しかも、それだけではない。最初のプレスカンファレンスの1時間半後に行われたWRC参戦の体制発表にも章男社長は登場し、伝説のラリードライバー、トミ・マキネン氏などと共に、WRCに対する抱負を語ったのだ。さらに、その後「ルーキー・レーシング」の体制発表にも参加。これは章男社長が国内のスーパー耐久シリーズに参戦するチームで、自身もドライバーとしてステアリングを握る。チームメイトの一人は、章男社長の息子である豊田大輔氏がいるように、トヨタではなく個人的なチームというのが特徴だ。

 朝イチのプレスカンファレンスから、WRC体制発表、ルーキー・レーシングと3連続の登壇に驚いていたが、さらに1時間後に章男氏はトークショーにも登場した。なんと、都合4回ものステージをこなしたことになる。その様子には、どこにもラスベガスからの強行日程を感じさせるものはなく、精力的であり、イキイキと非常に楽しそうであったのだ。

 そして最終日には、屋外イベント会場において章男社長はWRCの参戦マシン「ヤリスWRC」のハンドルを握って、自らデモランを行なった。まさに八面六臂の大活躍。昨年の東京モーターショーで豊田章男氏による「ガソリン臭い、燃費の悪い、音のうるさい車が大好き」という発言は、ポーズでもなんでもなく、本音であったのだろう。

写真:栗原祥光

写真:栗原祥光

 とはいえ、社会の流れはそんな章男社長の嗜好とは、まったく逆だ。章男社長が口癖のように「100年に一度の大変革期」と発言しているように、燃費規制はどんどん厳しくなるし、自動運転化の流れも止められない。クルマは所有するものではなく、利用するものに変化する可能性すらある。東京モーターショーで章男社長が語った「未来のクルマの運転は、今の乗馬のような趣味になる」というビジョンは、“クルマ離れの現実”と“クルマ好きの願い”のギリギリの妥協点だったに違いない。

 「東京オートサロン2020」は、章男社長のクルマに対する熱量の大きさを感じさせ、その大きさゆえの葛藤も感じさせるものであったのだ。

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
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