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西川善司が分析!『アンチャーテッド』のグラフィックスのスゴさとは【PR】

2015年10月09日 08時00分更新

アンチャーテッドシリーズのその他に注目すべきグラフィック要素は?

 アンチャーテッドシリーズのグラフィックスの魅力、見どころは他にもある。

 アンチャーテッドシリーズは冒険活劇ということもあってプレイヤーが操作する主人公ネイサンは常に跳んだり跳ねたりしている。第2作『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』あたりから、スニーキングアクション(隠密行動)要素も強まるため、物陰に隠れることも重要度が増すようになる。

 こうした表現をリアルに見せると同時に、操作対象のネイサンが背景物と“どう接しているか(コンタクトしているか)”を描き出すために“環境遮蔽(Ambient Occlusion、以下AO)”という映像効果が作中、そこかしこで適用されている。

 現実世界でも、太陽から日差しを避けて建物の“日陰”に入ったのに、自身がはいている靴と地面の周囲にその日陰の暗さよりも“一段濃い影”が出ていることに気がついた事はないだろうか。これがAO(アンビエント・オクルージョン)効果である。

アンチャーテッド コレクション
↑開発中の画面でのSSAOオフ。
アンチャーテッド コレクション
↑開発中の画面でのSSAOオン。

 AO効果は本来は間接照明や空などから降り注ぐ天球照明に配慮した計算を行わなければならないのだが、これをゲームグラフィックスで実践するのは難しい。そこで、アンチャーテッドシリーズでは、GPUが描画した映像に対して、リアルタイムにフォトレタッチをするかのような、リアルタイムポストエフェクト処理でAO効果を実践しているのだ。この技術を特に“Screen Space Ambient Occlusion(SSAO)”と呼ぶ。

 現在のゲームグラフィックスでは一度シーンを描画すると、できあがった映像の1ピクセル1ピクセルに対応した奥行き情報(深度情報)が、画面には表示されない不可視メモリ領域(深度バッファ)に毎フレーム残る。これは描画の過程で勝手に出来るものなので普通は破棄してしまうのだが、アンチャーテッドシリーズでは、描画したばかりの映像を表示する前に、この深度バッファを調査して、凹んでいたり、面と面とが交叉していると思われる箇所に“陰色”を付ける処理を実践しているのだ。当然、物理的には正しくないのだが“もっともらしいAO効果”が達成されるので、とても重宝するというわけなのだ。

アンチャーテッド コレクション
↑普通にシーンを描画した直画の映像(このままは表示しない)。
アンチャーテッド コレクション
↑このシーンを描画した過程で生成された深度バッファの内容。
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↑上の深度バッファを調査してSSAO処理を実践。黒っぽい部分がSSAO処理の結果として生成された追加陰影。解像度が半分になっているのはわざと。SSAOはボヤっとした陰影表現となるので意図的に低解像度で生成しているのだ。その分、GPU負荷を低減させる副次効果も期待できる。
アンチャーテッド コレクション
↑水面やその他の半透明素材などを合成した最終映像。
アンチャーテッド コレクション
↑別のシーンで描画直後の映像。
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↑SSAO適用後の映像。奥まった凹部や面と面の交差箇所などに陰影が出ているのが分かるだろうか。
アンチャーテッド コレクション
↑別のシーンで描画直後の映像。
アンチャーテッド コレクション
↑SSAO適用後の映像。

 アンチャーテッドシリーズに適用されたグラフィックス技術はひとつひとつ挙げていくとキリがないのだが、見どころを最後にいくつかあげるとすれば、作を重ねていくごとに進化を遂げていく“足跡”表現と“パーティクル”表現だろうか。

 足跡表現というと地味に思われてしまうが第2作『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』では“雪山での足跡”、第3作『アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス』の“砂漠での足跡”は、その局面でのいわばキーイメージになるので重要な表現テーマなのであった。

 こうした足跡は、基本方針としては足跡テクスチャを地面に描くだけで、実際、第2作まではそのままだった。第3作では、元々存在している砂丘の微細な波のような凹凸に、実際のめり込んだような表現になっていて、さらにその砂丘の斜面、方向に足跡が崩れる表現までが適用されるのだ。これは、水面のさざ波表現や微細な凹凸表現に使われる、法線マップテクスチャによるバンプマッピングの応用テクニックで実践されている。

アンチャーテッド コレクション
↑第2作目の雪原の足跡はテクスチャスタンプのような方式で実践していた。
アンチャーテッド コレクション
↑第3作の砂漠の砂の凹凸は実際に凹凸があるわけではなく、法線マップテクスチャを用いたバンプマッピング(疑似凹凸表現)によるもの。
アンチャーテッド コレクション
↑砂漠上の足跡もテクスチャスタンプの一種だが、足跡画像をスタンプするのではなく、足跡形状の凹みの法線マップテクスチャをスタンプする。
アンチャーテッド コレクション
↑砂漠上の足跡は、時間経過と共に面下方向に流れていく。
アンチャーテッド コレクション
↑実際のゲーム画面での砂の上の足跡の様子。

 そして“パーティクル表現”も作を重ねるごとにその進化ぶりが激しい。

 映画向けのCGでは、煙や炎といった気体表現は流体シミュレーションを実践して描画している。現在のゲームグラフィックスでは、もちろんこれは不可能なので、パーティクルとよばれるポリゴン板(3Dスプライト)に煙や炎のテクスチャを貼り付けて立体的に飛び回らせて表現している。こうした表現をビルボード表現(ビルボード=看板)というが、うまくやらないと本当に看板が飛んでいるように見えてしまうのだ。そこでアンチャーテッドシリーズでは、炎や煙のテクスチャをそのままビルボードに貼り付けるだけでなく、複数の法線マップテクスチャを掛け合わせたり、テクスチャ座標をノイズテクスチャでチラしたり、力場テクスチャで流したりして、本物の流体っぽく見せている。

アンチャーテッド コレクション
↑テクスチャ座標を乱流で歪まさせる力場テクスチャを使用して、リアルなパーティクル表現を実践。
アンチャーテッド コレクション

 描画の際にはビルボード単位(ポリゴン粒度)の簡易ライティングが行なわれるのはもちろん、光源位置までの遠近に応じた濃淡を付けることで他の煙が別の煙に影を落とすような“煙の疑似セルフシャドウ表現”までをやってのけている。

アンチャーテッド コレクション
↑第3作で印象的な飛行機墜落シーンの大黒煙は、パーティクルベースの描画とは思えないほど立体的な煙になっていた。
アンチャーテッド コレクション
↑基本原理としては普通のパーティクルシステムによる描画なのだが、そのテクスチャは法線マップとなっているため、ライティングを行う事でリアルタイムな微細凹凸陰影が出せる。しかも、複数の法線マップテクスチャを掛け合わせて、流体の形状のバリエーションを作り出すことにも対応していた。
アンチャーテッド コレクション
アンチャーテッド コレクション
アンチャーテッド コレクション
↑太陽に対しての遠近に応じてパーティクルの陰影を調整して、セルフシャドウが出ているような表現も盛り込んでいる。

 こうした先進のパーティクル表現は煙だけでなく、炎の表現にも応用されている。第3作中盤での燃えさかる古城内での激闘シーンでは、床から柱から無数の炎が上がるが、これらも前述したようなパーティクル技術が適用されている。

アンチャーテッド コレクション
アンチャーテッド コレクション
↑燃えさかる古城内での激闘シーンより。炎の表現がリアルだ。

“PLAYする映画”のキャッチコピーはダテじゃなかった!

 ソニー・コンピュータエンタテインメントはアンチャーテッドシリーズに対し、「PLAYする映画」というキャッチコピーを与えていたが、“マーケティングキーワード”として見くびることなかれ。実はこれ、技術的視点から見ても「嘘をついていない」のである。

 というのもアンチャーテッドシリーズでは映像を描画したあと、これをそのまま表示せずに、実際にハリウッド映画の撮影でも使われているコダック製の映画撮影用のフィルム『KODAK VISION Premier Color Print Film 2393』の色特性と階調特性に近くなるようにリアルタイムに色調補正を掛けているのである。紛れもないデジタルCG映像に対し、あえてアナログ映画フィルムの見た目になるようにしていたとは……。アンチャーテッドファンは覚えておいて損はない豆知識である(笑)。

アンチャーテッド コレクション
↑コダック製の映画撮影用のフィルム「KODAK VISION Premier Color Print Film 2393」の色調カーブ。アンチャーテッドシリーズはこの特性に近くなるよう、描画結果をリアルタイム色調補正している。
アンチャーテッド コレクション
↑描画結果を映像の平均輝度で線形補正した映像。
アンチャーテッド コレクション
↑映画撮影用フィルムの非線形な色補正を行った映像。明暗の階調バランスだけでなく、色味にも違いがある。分かりやすいのは肌色部分。

 さてさて、PS3版のアンチャーテッドシリーズは、基本的には1280×720ピクセル前後の解像度でレンダリングされたグラフィックスを1920×1080ピクセルにアップスケールして出力する方式を採用していた。また、フレームレートは30fpsを基本とした可変フレームレートであった。

 筆者の性能試算でもPS3に対して約8倍にグラフィックス性能が向上しているPS4向けの『アンチャーテッド・コレクション』では、レンダリング解像度がアップスケール無しのリアル1920×1080ピクセル、フレームレートは60fps対応が公言されている。PS4への移植版開発は、『ICO』や『ワンダと巨像』のPS3版移植も手掛けた実績と信頼のBluepoint Games社が担当しているので、その品質には期待ができそうだ。

 解像度とフレームレートが向上しているぶん、ここで述べたような様々な先進のグラフィックス表現は、一層、見やすくなっているはずなので、PS3時代にプレイしたことがある人はぜひとも本稿で紹介してきた各種グラフィックス技術に意識を傾けて本作をプレイしてみてほしい。卓越した映像美の裏側に込められた、エンジニア達の熱い情熱が感じられるはずだ。

トライゼット西川善司

■製品情報
タイトル : アンチャーテッド コレクション
対応フォーマット : PlayStation 4
 ジャンル : アクションアドベンチャー
 発売日 : 2015年10月8日(木)予定
希望小売価格 : Blu-ray Disc版 6900円(税別)
販売価格 : ダウンロード版 5,900円(税別)
CERO : C(15才以上対象)
開発/監修 : Bluepoint Games / ノーティードッグ

※本作はシングルプレイモード(ストーリー)のみを収録しております。PS3『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』および『アンチャーテッド -砂漠に眠るアトランティス-』に収録されていたマルチプレイモードは含まれておりません。

■関連サイト
アンチャーテッド コレクション

(c)2007-2015 Sony Computer Entertainment America LLC

 

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