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DMM.makeの仕掛け人がさくらインターネットに「出戻った」理由:インタビュー

2015年08月03日 12時30分更新

 秋葉原のモノづくり拠点『DMM.make』の仕掛け人として知られる、DMM.makeの小笠原 治プロデューサーが、このほど創業期に関わった古巣のITインフラ大手『さくらインターネット』に戻ってくるとの情報を得た。

 小笠原プロデューサーといえば、さくらインターネット創業にかかわったあとは起業家としてシェアオフィスから飲食業(awabar経営)、ケータリング業など他方面で活躍。孫泰蔵氏とともに共同で立ち上げたABBALabの活動などを通じて、いまや日本のハードウェア・スタートアップ界隈では名前を知らない人がいない投資家でもある。

「まさか、さくらに出戻るとは思わなかった」(小笠原氏)と言いつつも、次に手がけるのはDMM.makeとも繋がりがありそうなIoT分野。ただし、インフラ側からIoTを支援しようという構想だ。その意図を小笠原プロデューサー本人に直撃した。

さくらインターネットでIoTをインフラ側から支援したい

さくらインターネットがIoT事業を検討中

——小笠原さんがさくらインターネットに在籍されていたのって、結構古い話ですよね?

小笠原 だいたい2001年ごろまでですね。初期の資金調達が終わった頃までです。

——とすると、14年ぶりの復帰ですか。当然、単にさくらインターネットに戻るわけじゃありませんよね?

小笠原 今の所、さくらで何か新しいチームを作ろうとか、部署をつくろうという話になってるわけじゃないんですけど、まず8月3日から経営企画室に籍を置きます。それで、僕がこの3年間、DMM.makeに関わる中で感じた「IoT向けのクラウドはこうあってほしい」というものを、今後数ヶ月くらいでまとめようかなと考えてます。

——さまざまな事業におけるご自身のポジションはどう変わるのでしょう?

小笠原 DMM.makeに関しては、プロデューサーからエバンジェリストという立場になります。イベントなどには相変わらず顔を出すかもしれませんが、内部的な意思決定に関わることはなくなります。awabarは会社分割して現店長が代表に、ケータリングの会社もパートナーが見つかりました。一方で、Cerevoの取締役は変わりませんし、ABBALabのDMM.make AKIBAでの活動も続けていきます。

——なるほど。インフラ屋さん、ハードウェアスタートアップの支援、DMM.makeの仕掛け人ときて、次はIoT向けのクラウドを考えようという流れはとても自然に聞こえました。

小笠原 実はここしばらくの間、何件かお誘いの声もいただいてました。インフラやって、ハードウェアやってという経歴だと、みなさん「次はIoTやりませんか」となるじゃないですか。
 そこで冷静に考えると、さくらインターネットってこの規模のインフラ屋さんとしては特殊なんですね。
 最終決裁者(田中社長)が技術畑出身で、インフラの低レイヤーの知識が豊富で、さくらって日本のインターネットのトラフィックのかなりのパーセンテージを持っているので、巨大なトラフィックをさばいた経験も、制御の仕方もわかっている。
 電力供給から、データセンター、B向けもC向けもエンドユーザーへの提供まで多くを垂直統合でやっていて、ファシリティ(施設・設備)まで含めて自分たちで自由に考えていける。
 そう考えると、IoTクラウドをやるならさくらインターネット以外選択肢がないじゃないかって。

——田中社長と話をし始めたのはいつごろなんでしょう?

小笠原 3ヶ月程前に、awabarに田中さんが来てくれて。その時に「さくらのIoTって……」みたいな話をしました。そのとき考えていることが似てるなとわかって。
 その1ヶ月後くらいですかね。「こういうことをやりたいんですけどね」って再就職面談をして。さすがに履歴書は要求されませんでした(笑)。

——IoT向けのクラウドって、どんなものなんでしょう?

小笠原 この3年、DMM.makeというブランドの立ち上げにかかわってきて、総勢1万人近いモノ作り系の人たちに会ってきました。そのなかで感じたのは、「いかにネットとハードの人が断絶しているか」ということでした。

——肌感的にはわかりますが、そこまでサービスの作り手と、ハードの作り手がパキっと分かれてます?

小笠原 はい。だからきっと、大手家電メーカーさんから魅力的なハードが出てこないんだろうな、とか。
 大手家電メーカーが最近しんどくなってきたのって、結局セットアップメーカーとしてダサくなってきたからだと思うんですよ。チップやパーツを作る”デバイスメーカー"としてはしっかりしていて、販売を担う”ディストリビューター”としても凄いのに。

 その要因のひとつに、セットアップの過程で取捨選択するモジュールのなかに、そもそも”インターネット"っていうモジュールがないんだろうなって。それがダサい原因じゃないかって。

 これって、大手家電メーカーだけではなくて、今からハードウェアをつくりたいインディーズメーカーの人たちも抱える課題なんです。
(ハードウェアをつくるのはいいとして)クラウドまでイチから自分たちでつくるのか?となったとき、作りたい想いはあるけれど、時間やコストの問題で難しかったりします。
 そこに僕らは答えを用意してあげたいなと。

——IoT向けのクラウドについて少し深堀りしたいんですが、自前でクラウド上にサービスを構築するよりもっと実装しやすくなるということなんでしょうか

小笠原 モジュールの定義って、単体では製造が難しいパーツを組み合わせることで、汎用的で使いやすい形にしているものですよね。インターネット機能のモジュール化も、同じ定義です。

 IoTって、"Internet of Things”なんで、データをインターネットに丸投げしているようなイメージですが、ちゃんとクラウドとしてサービス化したほうが本当は使いやすいはずなんです。
 例えば課金の料金体系にしても、(一例ですが)AWSで言う”インスタンス”(仮想サーバー)というような単位ではなくて、トラフィック単位とかトランザクション単位といった形で使ってもらっても良いんじゃないか、とか。

 具現化すると、"わかりやすいAPI”みたいな話に落ち着くのかもしれませんが、このモジュール化していくということを、数ヶ月かけてさくらインターネットで練っていきたいと思ってます。

 さくらインターネットっていうのは、サービスの垂直統合でできてる会社なんです。
 太陽光発電による電力供給から、石狩のデータセンターをはじめとするサーバーまわりから、エンドユーザーさんへの提供まで。
 IoTクラウドの海外事例では、『Xively』とか『EVRYTHNG』とか、いわゆるセンサークラウド的なものはいくつかありますが、垂直統合的にサービス構築しているIoTクラウドっていうのは世界的にもあまり見ません。
 そこを、さくらの強みを生かして、垂直統合だからできる使いやすいクラウドを作り出せたら良いなと。

——さくらでつくるとしたら、海外のセンサークラウドとはどう違うサービスになるんでしょう

小笠原 まだ未確定の部分ばかりですが、「簡単に使える」という方向よりは、ハードウェアの作り手たちに「あ、こういう使い方もあるんだ」みたいな気づきを与えられるところまで、サービス化できたら理想的ですね。

 たぶん、これから先「モノを売っていただけで儲かってたなんて、凄い時代だったね」という時代がくるんですよ。そうすると、インターネットにデバイスが繋がってることが、商売に繋がってくるようになる。その辺をカバーできるといいですね。

——IoTというと、Yahoo!JAPANの『myThings』なんかも注目されてます。

小笠原 myThingsって、「Yahoo!版のIFTTT※だ」なんていう人もいますけど、(myThingsの意味は)コンテンツサイドがハードウェアサイドに扉を開いたというところにあります。
 これがYahoo!のIoTへの取り組みだとすれば、さくらは、サーバーサイドやインフラサイドの低レイヤーの部分をハードウェアに開こうという意図ですね。
IFTTT=本来は別々に存在する複数のネット上のサービスを連携することができるWebサービス

コネクテッドハードウェアの開発速度をあげるためにはインターネット機能のモジュール化が不可欠

さくらインターネットがIoT事業を検討中

小笠原 Cerevoの例を見てもらうとわかるように、大手メーカーが3〜5年かかかっていた製品開発は、スタートアップの速度感なら1年くらいでつくれるようになってきました。
 これ自体はすごく良いことなんですが、さらにクラウドやアプリサイドまで自前でつくるとなると、開発に+1年半くらいかかったりします。
 すると、結局、開発速度が2年早くなったのではなくて、実は半年しか早くなってないっていう世界観が今、起こってるような気がしていて。

 家電がメーカーの外部で早くつくれるようになった理由って、簡単に言うとモジュール化じゃないですか。
 それこそ極端な話、プロトタイピングの時に通信機能も実装したいと思えばアリババ(中国の通販サイト)を検索してWiFiモジュール探して買ってしまえばとりあえずはプロトタイピングができるというような。
 これを実製品の量産にまで活かせるようにしよう、というのが先日Cerevoが発表した『Blue Ninja』なんですけど、それでもまだハードだけなんですね。
 でも本来なら、ハードをつくるのと同じタイミングで、クラウドサイド、アプリケーションサイドの開発まで始めないといけないんです。

——ネットも、ハードも両方がモジュール的に扱えれば、両方足すと開発期間が2.5年みたいなことは起きなくなると。

小笠原 まだ抽象的なことしか言えないので、理解が結構難しい気もするんですが、ハードウェアの開発の周辺にいる人から見れば、いま話した問題は結構、シンプルにわかりやすいと思います。

 たとえば、GoProが売れると(CMOSセンサーを生産してる)ソニーが儲かるみたいな話がありますよね。
 さくらインターネットでいえば、大手SNSや、大手ニュースアプリ、大手フリマアプリが成長するのに合わせて、(ITインフラを提供する)さくらも成長する、というビジネスモデルをとってきました。

 今回のIoT関連の取り組みに関しても、実はビジネスモデルは同じなんです。特段ものすごく新しいことをするというのではなく、今までのビジネスモデルをIoTに関して少し広げる、ということを僕が古巣に戻ることで実現できたらいいな、と思ってます。

さくらインターネットがIoT事業を検討中
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