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アキバ系社長が地下イベントで激突 第1回AKIBAベンチャーピッチ開催レポート

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秋葉原に本物が集まった(写真はしゃべる抱き枕『痛すぽ』ジョイアス内村康一代表)
写真:高橋智

 秋葉原とは祝祭の街であり、すなわちむきだしの街だ。うわべの付き合い、ろくでもないビジネスマナー、日常に堕落しきったスピリッツに原色の輝きを与え、人類を野生に戻す現代の楽園。それがAKIBAだ。

 そんなJR秋葉原駅 徒歩5分の地下にあるクラブ『MOGRA』で7月23日(木)、大江戸スタートアップ主催のプレゼンイベント『AKIBAベンチャーピッチ』を開催した。日も暮れたクラブに人知れずアキバ系の猛者が集まる様は、電脳街の『ファイト・クラブ』……とまではいかなくても、ある目的に夜な夜な集まる密会的な雰囲気がある。

アキバ系社長、夜に吼える

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スタートアップが力を誇示した(写真は全番組録画機『ガラポン』保田歩代表)
写真:高橋智

 ピッチとは、ベンチャー企業が集まり、審査員の前で話術やテクノロジーを駆使してビジネスプランや事業計画を紹介、審査員に己の力を認めさせるコンテストのことだ。ビジネスの名を借りた戦いである。

 さくらインターネット代表の田中邦裕社長、日本マイクロソフトのOEM統括本部マーケティングスペシャリスト 嶋内愛氏など5人の審査員を前に、6人の起業家がステージに上がり、勝負の演説を見せた。

 対する起業家はいずれもAKIBA系カルチャーに事業のキーワードを持つ人物たち。

「なでると声が出る抱き枕です」「ミクさんがiPhoneで動かせる3Dプラットホームです」「厚さ2mmのスピーカーです」──

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審査員のCerevo岩佐琢磨代表。隙のないコスプレ
写真:高橋智

 「ワッショイ!」とばかりに襲い来る猛者たちを前に、Cerevo岩佐琢磨代表をはじめとする審査員たちは「運用は?」「ビジネス展開は?」「PCベイは?」と短刀のように鋭い質問を次々投げかけ、起業家たちの実力を見定めていた。

(なおピッチの詳細は後日おつたえする予定だ)

 混沌とした地下の対決に花をそえたのは、進行役の新人声優・鈴木絵理さんだ。

 鈴木さんは趣味やコダワリで起業しようという出場者のムードに圧倒されながらも「アキバならではの空気を感じる」「この場が世界の中心なんじゃないか」と美声を披露。なごやかなムードの演出に一役買っていた。

アキバ系の頂点に君臨したのは──

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真剣そのものの審議の模様。今回は、現時点の事業性よりも将来性にスポットを当てた評価にしようということで意見が一致。
写真:高橋智

「すごく、難航しています」

 全員のピッチが終わり、さあ第1回の優勝者を決めようかという段になり、審査員席はざわついていた。すでにしっかりとしたビジネスの形がある製造系の事業と、これからの期待値が高い事業とに票が分かれたためだ。

 ここでハプニングが起きた。この熱気に司会・進行のガチ鈴木があてられてしまい「ぼくのTシャツは『苺ましまろ』のキャラなんです。本当に大好きで。小さい女の子が大好きで」と、突然台本にない告白を始めてしまったのだ。

 しかしここで鈴木絵理さんが「わたしはいい大人なので大丈夫ですよ」と冷静にフォローに回り、ガチ鈴木は正気を取り戻していた。なお、ガチ鈴木の胸にプリントされていたのは『松岡美羽』である。

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新人声優の鈴木絵理さん(左)司会のガチ鈴木(右)
写真:高橋智

 そうこうするうち優勝が決まったとの報せが入り、会場は固唾を呑む状況に。

 ダララララララ……

 DJがおごそかなデジタル・ドラムロールを流し、審査員を代表して週刊アスキー編集長代理のイトーが第1回優勝者の名前を読み上げた。

「第一回優勝企業は……『痛部屋』の王さん!」

痛部屋の"ありそうでなかった"ビジネスセンス

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痛部屋のサンプル。すべてをポップカルチャーで埋めつくす
写真:SO-ZO

 痛部屋とは、早い話が痛車のインテリア版。企業からの依頼を受け、ゲストハウスやホテルの一部屋を、壁紙からトイレカバーにいたるまですべてポップなアニメ絵のキャラクターでラッピングしてしまう、まさにAKIBA系の強烈なインパクトを持つサービスだ。

「まさか優勝できるとはほんとに思わなかった。自分が大好きな町で優勝できて本当にうれしい。これからは秋葉原に痛部屋のショールームを作りたい」

 サービス運営元であるSO-ZOの王冉(オウ・ゼン)さんはひかえめにコメントしていた。将来はカラオケやマンガ喫茶、イベントスペースなどにも手をひろげ、観光事業や痛家電の開発といった野心も抱いている。

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SO-ZO代表の王冉(オウ・ゼン)さん
写真:高橋智

 痛部屋には鈴木絵理さんも大興奮。「これなら壁に壁ドンできますね」と、王さんになかなかうまいコメントを寄せる。

 優勝の決め手は
「思いつきそうで思いつかない。ただ部屋を痛くするというところから発想を広げているし、ビジネスのバランス感覚がいいというところを評価した」(イトー編集長代理)

 日本のクラウドファンディングサービス『きびだんご』を運営する松崎良太代表は「日本に人が来る要因になるところを評価した」、マイクロソフトの嶋内氏は「観光ビジネスの発展にもできるんじゃないか」とSO-ZOの力を評価していた。

アキバは多様性の街

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さくらインターネット田中邦裕社長。自他共に認めるアキバ系経営者
写真:高橋智

 ピッチを終えて、さくらインターネットの田中邦裕社長は「アキバというのは多様性の象徴だ」という持論を披露した。

「アキバがなぜ魅力的か。アキバは混沌としている。住んでる人も来る人も、みな多様性がある。多様性がある街にはクリエイティブが生まれる。クリエイティビティーが高い街が生き残るだろうといわれる中、いろんな価値観があり、寛容でオープンで、イノベーションの要素すべてを持っているということは重要だ」

 つまり、シリコンバレー、ヘルシンキ、トロント、ニューヨークといったイノベーション型都市に必要とされる条件を、まさに秋葉原は兼ねそなえているというのである。

「アキバ文化は多様性を受け入れる。神田神社の近くに住んでいるが、よくラブライバーが並んでいる。神社でお参りしている横で、缶バッジがめっちゃついたバッグを抱えて絵馬を買っている人がいる。なかには、ブロンドの女性がラブライバーだったりする。それがアキバ文化。決めつけないのがアキバ文化だ」(田中社長)

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さくらインターネットからは、2次元社員である桜葉 愛ちゃんが、この日のために3次元に出てイベントに参加してくれた。
写真:高橋智

 田中社長もアキバ系経営者のひとり。当日はボーカロイド KAITOの『千本桜』コスチュームで登場した。青い髪は「地毛です」とノリのいい田中社長。

 田中社長率いるさくらインターネットは、クラウドやレンタルサーバーなどのITインフラを生業としながら、スタートアップ支援にも意欲的な企業だ。サーバーを無償提供するなど、さまざまな支援策を打ち出している。田中社長は、スタートアップを支援する3要素にヒト、モノ、カネがあると語る。「カネを出してくれるところは多いんですが、ヒトとモノを出してくれるところは意外と少ない」。その部分のバックアップがさくらインターネットのこだわりだ。

 田中社長は「スタートアップ企業に会うとエネルギーになる。互いに熱量をあげられるところ、こうした場をつくっていきたい」と話し、起業家たちにねぎらいの言葉を贈っていた。

窓辺家の新キャラクターの名前は近日公開

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日本マイクロソフトのOEM統括本部 嶋内愛氏。窓辺ななみちゃんに扮して
写真:高橋智

 ちなみに決戦当日、23日は秋葉原で自作パソコン向けの『Windows 10 DSP版』の発売日が発表される「前日」だった。

 マイクロソフトのDSP版Windows担当の嶋内氏のスポンサーセッションのテーマは、当然Windows 10。

「Windows 10はそもそもどういうものか。いままでのOSはデバイスの形状に応じて異なるバージョンを提供していたが、Windows 10 は One Windows と銘打ち、スマートフォンまでも同じWindows 10でサポートされているのが大きな特徴。OS側が(デバイスを)判断して(UIを)変えていくというテクノロジーになっている。そのため開発者にも異なる形状ごとに別のアプリを作るなどといった負担が下がり開発しやすくなる環境が提供できるのではと思っている。」

 Windows 10はいままでの集大成、新たなスタートラインという意味をこめたナンバリングの最終形として発表された。マイクロソフトではこれから『Windows 11』などを開発していく予定はなくなった。

 ただし、Windows 10の応援キャラクターは作る予定だと嶋内氏。Windows 7、Microsoft Azure、Windows 8にはそれぞれ、窓辺ななみ、窓辺クラウディア、窓辺ゆう、あいというキャラクターがいるが、Windows 10も新キャラクターをつくる。

 キャラクターボイスは野中藍さんが担当し、名前は公募から現在審査中。「(応募には)『10』をもじった名前が非常に多かった。たとえば、『天』と書いてそらと読ませるものなどがあった」と嶋内さん。
 最終的な命名公開は「近日中」とのこと。7月31日19:00より、DSP版Windows 10発売記念イベントも秋葉原にて開催する。

次にスタートアップするのは君だ

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写真:高橋智

 かくして混沌と祝祭に包まれた『第1回 大江戸スタートアップAKIBAベンチャーピッチ』は幕を閉じた。

 予定調和なきピッチイベントはまだ1回目。現場に詰めかけた参加者の熱量は、実際にイベントをやってみると想像以上だった。第2回開催に向けて、企画も考え始めている。いま読者としてこの記事を読んでいただいているあなたにも、次の機会にはピッチのステージに立つチャンスがあるかもしれない。

 まずは本記事ならびニコニコ生放送のタイムシフト視聴で、秋葉原の一角で起きた決戦の光景を目撃してほしい。

『大江戸スタートアップ AKIBAベンチャーピッチ』

●開催概要
■日時 2015年7月23日(木)
開場/受付 18時 開演19時 終了22時
■場所 MOGRA 秋葉原
東京都台東区秋葉原3-11 B1
JR秋葉原駅中央口 徒歩約5分、東京メトロ銀座線末広町駅 徒歩約5分
■入場料:無料
■観覧募集人数:100名
■主催 KADOKAWA
■協賛 さくらインターネット、日本マイクロソフト
■当日のタイムスケジュール
 開演前にDJによるデモ
 Akibaベンチャーピッチ プレゼンバトル
  1社目『痛すぽ』 株式会社ジョイアス(内村康一代表)
  2社目『pzBASS_UNIT』 株式会社スライブ(岩屋雄介氏)
  3社目『jThird』 株式会社ジェイスリー(松田光秀代表)
  4社目『痛部屋』 株式会社SO-ZO(王冉代表)
  5社目『ガラポンTV』 株式会社ガラポン(保田歩代表)
  6社目『GO-DJ』 株式会社JDSound(宮崎晃一郎代表)
 スポンサーセッション
  日本マイクロソフト株式会社
  さくらインターネット株式会社
 表彰式

■審査員
 さくらインターネット 田中邦裕 代表取締役社長
 日本マイクロソフト OEM統括本部  嶋内愛 マーケティングスペシャリスト
 Cerevo 岩佐琢磨 代表取締役
 kibidango 松崎良太 代表取締役
 週刊アスキー編集長代理 伊藤有

ニコニコ生放送 配信ページ

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