Windows情報局ななふぉ出張所
海賊版ライセンスのロンダリングは不可、Windows 10アップグレード騒動を振り返る
Windows XPや海賊版のWindowsユーザーでも、Insider Previewを入れておけば正規版のWindows 10に無償でアップグレードできる――このような誤解が、先日、米マイクロソフトの公式ブログを中心に広がり、混乱を呼びました。
なぜこのような混乱が起きたのか、またWindows 10に無償でアップグレードできる条件とは結局何なのか、まとめておきたいと思います。
混乱を呼んだ公式ブログの更新
6月19日に公開された米マイクロソフトのWindowsブログでは、Windows 10のInsider Preview版のユーザーは、7月29日に“ライセンス済みの”(activated)正式版を受け取ることができる、との記述がありました。
騒動の中心となった米マイクロソフトのWindows公式ブログ。話題のタイトルにも混乱のあとがみられる。 |
この記述を一読した限りでは、Windows XPやVistaなど無償アップグレード対象外のユーザーであっても、プレビュー版さえ入れれば、7月29日に正規のWindows 10をゲットできるという意味にとれます。
以前にもマイクロソフトのブログでは、「海賊版のWindowsから、10に無償でアップグレードできる」との誤解が広まり、訂正されたことがあります。このことから、マイクロソフトが別の抜け道を用意したのではないか、との期待を誘ったのも無理はないでしょう。
その後、ブログからは“activated”の表現が削除され、アップグレードにはWindows 7や8.1の正規ライセンスが必要であることが明記されました。また、Insider PreviewプログラムはWindows 10のリリース後も継続するため、プレビュー版を使い続けること自体はできることが明らかになりました。
正規のWindows 10を無償で受け取れるのは、あくまでWindows 7や8.1の正規ユーザーのみであることが確認された。 |
ライセンスの“ロンダリング”はできない
Windows 10は、正式版のリリース後も、継続的に機能のアップデートが提供されることが分かっています。そのため、新機能を先行して受け取るベータテストとしてのInsider Previewプログラムは、7月29日以降も継続するというわけです。
これを利用すれば、今後もWindows 10のライセンスを購入することなく、最新のWindows 10を使い続けることができる、と考える人もいるかもしれません。
ただ、Insider Previewではまだしっかりと検証されていない、不安定な機能が追加されることも予想されます。そういった不安定な機能に振り回されることを考えれば、日常的な運用にあたっては、安定版のWindows 10を普通に購入したほうが、結局は安上がりになるでしょう。
とはいえ、マイクロソフトが海賊版のユーザーに対して正規版のWindowsをばら撒くのではないか、との期待は絶えません。同社が掲げる、3年以内に10億人のWindows 10ユーザーという目標を達成するため、なりふり構わない手段に訴えるのではないか、との見方です。
現行のWindows 8は、世界的にはXPのシェアをようやく上回ったところであり、“ビッグウェーブ”にはなっていません。つまりWindows 10のローンチには、これまでの不評を覆すほどの圧倒的な勢いが求められます。
だからといって、Insider Previewを正規ライセンスを入手するための抜け道として提供するのは、リスクが大きすぎます。意識の低い企業なら、社内で不足しているWindowsのライセンスを、Insider Previewを利用してロンダリングしようと画策するところが出てきても、不思議ではありません。
Windows 10は決して無償の製品ではなく、PCにプリインストールされるWindows 10は、PCメーカーに有償でライセンスされたものです。同様に、企業向けのWindows 10は無償アップグレードの対象ではありません。また、Officeやサーバー製品など同社のほとんどの製品は有償で販売されています。
このようにマイクロソフト製品のライセンスには、“超えてはいけない”ラインが存在することが分かります。もし海賊版のWindowsを使っていた人が、無償で正規のライセンスを入手できる方法が公式に提供されたなら、もはやマイクロソフト製品にお金を払う人はいなくなるでしょう。
無償と有償の境界線に立ったWindows
マイクロソフトはWindows 10への移行に向けて本気を出すとはいえ、「Windows 10をいくらでもコピーしてよい」というところまでは、まだ吹っ切れていないことが分かります。同社の収益の大部分は、ソフトウェアのライセンス販売に依存していることは明らかです。
しかしiOSやAndroidでは、OSのコストを意識することはなくなっています。OSのバージョンアップは無償が当たり前で、コストがかかるなら、それは端末価格に含まれているはずだ、というのが大部分のユーザーの感覚でしょう。
さらにアップルは、iOSだけでなくMacに対してもOSのアップデートを無償で提供するようになりました。これにより、OSは無償という概念がPCの世界にも浸透しつつあり、Windowsもまた無償での提供が期待されています。
WWDC 2015で公開された『OS X El Capitan』。今秋、無料でリリース予定となっている。 |
マイクロソフトの公式ブログがもたらした混乱は、同社が直面している厳しい現実を反映したものであるともいえます。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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