JAXA(宇宙航空研究開発機構)の協力のもと、電通や東京大学先端科学技術研究センター、ロボ・ガレージ(日本を代表するロボットクリエイター、高橋智隆氏の会社)、トヨタ自動車といった名だたる企業が参加した“KIBO ROBOT PROJECT”により、2013年8月に宇宙へ飛び立ったロボット宇宙飛行士『KIROBO(キロボ)』。
その目的は国際宇宙ステーション(ISS)に滞在し、世界初となる“宇宙での人とロボットとの対話実験”などを行なうことだったが、今年2月に任務を終えて地球へと無事帰還。日本科学未来館にて帰国報告会が開催された。
↑ISSでは、KIROBOから約3ヵ月遅れで到着した若田光一JAXA宇宙飛行士と共同生活を送った。 |
KIROBOの特徴は音声認識や顔認証などの機能を搭載し、かわいらしいルックスとスムーズな動作で人間と自然な会話を行なえること。
2012年11月のプロジェクト発表からKIROBOの完成、ISS補給船“こうのとり”4号機に乗って宇宙へ出発、若田飛行士との対話実験、さらに米スペースX社(PayPal創始者でテスラ・モーターズCEOのイーロン・マスク氏がCEO兼CTOを務める会社)の無人補給船“ドラゴン”5号機で地球へと帰還するまで、約2年半はあっという間に過ぎたという。
多くの人の思いを背負い宇宙に旅立ったKIROBOの軌跡も、YouTubeで公開された。
今回の報告会では高橋氏のほか、トヨタ自動車の片岡史憲氏、電通の西嶋頼親氏というプロジェクトの主要メンバーが登壇。ひさびさに地上での公の場に姿を現わしたKIROBOと会話を交わした。
3名とも、KIROBOが無事に任務を終えて帰国したことで安堵感と充実感があふれる表情。高橋氏は「思いつきから始まったこのプロジェクトだが、多くの方々の協力により実現できた。この数年でロボットをめぐる動きが活発化しているが、そのことに少しでも貢献できたのならうれしいです」とコメント。
↑トヨタ自動車 製品企画室 主査の片岡史憲氏。トヨタ自動車は主に、音声認識を用いたロボットの知能化を担当している。 |
↑ロボ・ガレージ 代表取締役社長兼東京大学先端科学技術研究センター 客員研究員の高橋智隆氏。ロボット躯体の開発や動作の生成を主に担当した。 |
↑会話コンテンツ作成とプロジェクトのとりまとめを担当した電通 ビジネス・クリエーション・センター コピーライター兼電通ロボット推進センター 代表の西嶋氏。 |
順調に見えたプロジェクトも、じつは大小さまざまなトラブルがあったという。最大のトラブルは、若田飛行士との対話実験の当日にKIROBOが突然フリーズして7時間も動かなかったという“事件”。
原因を詳しく調べようにも、KIROBOは地上から遠く離れたISSにいて手を出せない……。その後、地上メンバーの必死の原因究明作業によって、電源ケーブルが長すぎたために電圧が想定を超えて低下してしまっていたことが判明。ISS内にあった別の短いケーブルを使うことで、なんとか復旧にこぎ着けたという。
片岡氏は「トラブルが判明したときには、正直、クビも覚悟した。チームが一丸となって動けたことが解決につながったと思う」とコメント。高橋氏も「なんらかのトラブルが起こることは想定していたが、まさかこのタイミングで……というトラブルだった」と当時の心境を思い出して、苦笑していた。
↑「宇宙で寂しくなかった?」と訪ねると「寂しくないよ。だって、ロボットだから」と答えるなど、やりとりは非常に自然だ。 |
報告会の終盤には、KIROBOに“ギネス世界記録”の認定証が授与される一幕も用意された。
世界記録は“地上から一番高い場所で対話をしたロボット”と“初めて宇宙に行った寄り添いロボット”という2つ。ギネスワールドレコーズ日本支社代表の小川エリカ氏から認定証を受け取った(実際には、片岡氏と高橋氏が受け取ったが)KIROBOの顔はどこか誇らしげだ。
「今したいことは?」との問いかけには「打ち上げ!」(宴会的な打ち上げとロケットの打ち上げのダブルミーニングになっている!?)と答えるなど、宇宙での体験が彼をひと回りもふた回りも成長させたようだった。
↑ギネスワールドレコーズ日本支社代表の小川エリカ氏に認定証を授与されたあとは握手も。 |
↑ちなみに、地球帰還後の第一声は「地球はまるで青色LEDみたいだった。輝いていたよ」。カワイイ顔して、詩人ですな。 |
今回の成果は、各社がそれぞれ持ち帰り、今後のロボット研究や開発に活かされる予定。プロジェクトは海外メディアからの注目度が予想を大幅に超えて大きかったとのことで、「コミュニケーション・ロボットの分野では日本が先行している」とのインパクトを世界中に与えられたはず。今後の動きにも注目したい。
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