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ヒマラヤでは軽量化とバッテリー温存がキモ!最強山岳カメラマンのドローン活用術

2015年03月19日 08時30分更新

 個人でも使える空撮機材として人気上昇中のドローンだが、空気が薄くて強風、極寒のヒマラヤで飛ばしている人がいる。日本人トップクライマーであり、最強の山岳カメラマンである平出和也さんだ。

 あまりにも過酷な状況下での使用例で、一般ユーザーにとって参考にならないかもしれないが、平出さんならではのカスタマイズや工夫点などについて聞いた。
 

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↑ドローン空撮のためにDJI『Phantom 1』とともにヒマラヤ、タウチェ峰を登る平出さん。
撮影 倉岡裕之

アルパインクライマー
平出和也さん
(ひらいでかずや)
'08年に挑戦したインド・カメット峰(7756m)に新ルートから登頂し、登山界のアカデミー賞といわれるフランス主催のピオレドール(黄金のピッケル賞)を日本人として初受賞。世界的に評価される。挑戦的な活動をする傍ら、現在プロフェッショナルの山岳カメラマンとして活動している。石井スポーツ所属。

 

軽量化のためにすべてプラスチック製ネジに交換

 ヒマラヤの未踏ルートをはじめ、標高何千メートルもの高所登山に挑みながら山岳映像の撮影もこなす平出さん。ドローンとは'12年の秋ごろに出会い、 '13年に世界最高齢でのエベレスト登頂をめざす三浦雄一郎さんにカメラマンとして同行したときから本格的に活用しているという。

 しかしながら、平出さんがドローンを飛ばす場所はヒマラヤなどの山岳エリア。大気が薄くて強風、しかもマイナス10~20度はあたりまえという、想像を絶するような過酷な世界だ。まず、「空気が薄いとプロペラが叩く空気の量が必然的に少なく、上昇させるのが難しい」といい、「1グラムでも軽く」と、ネジをすべてプラスチック製のものに交換するなどして軽量化をはかっているという。

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↑'13年、三浦雄一郎さんのエベレスト登山のときに使用したDJI『Phantom 1』。赤黒や蛍光色で色分けしているのは、機体の前後を判別しやく、岩壁や雪壁をバックしにしても見失わないようにするための工夫だ。

 

 ヒマラヤの山岳エリア、マイナス何十度という条件下では、バッテリーの持ちも気になる。それと、道中、充電はどうしているのだろうか。

「エベレストのときは合計6本のバッテリーを持って行って、トレッキング中はロッジのソーラーで充電させてもらって、ベースキャンプでは発電機(縁日などでも使われている燃料を燃やすタイプ)で充電してました」

 充電はできたとしても、気温マイナス10度~20度の世界で飛ばすとなるとバッテリーパワーの急激な低下は避けられない。

「低地だったら5~6分くらいもつものが1分くらいしかもたない場合もあって。30秒とか1分飛ばしたらすぐ戻さないといけない状況なんです。もし、クレバスに落ちでもしたら回収できないので、エベレストのときは最悪の事態に備えて、メモリーカードを1フライトごとに交換していましたね」

バッテリーを冷やさないための工夫

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↑バッテリーを保温するために使用してるプラスチック水筒と保温カバー。どちらもと登山用品店で手に入るものだ。

 

 低温下で使用すること自体が規格外であるだけに、ある意味、バッテリーの管理にいちばん気を使ったという平出さん。バッテリー冷やさないためにどんな工夫をしていたのだろうか。

「プラス40度くらいがいちばんパフォーマンスが出るそうなので、登山用のプラスチック水筒にお湯を入れて保温カバーをかけて、その間にバッテリーを入れて保温していました。ただし、朝入れたお湯が3時間くらいで冷えきってしまいますから、そしたらテルモス(保温水筒)に入れておいたお湯と入れ替えるんです」

 使い捨てカイロだと使うたびにゴミが増える一方だが、お湯なら再利用が可能で飲料用としても使える。このへんがアルピニストの知恵と言える。

「あと、バッテリーがらみで困ったことと言えば、海外へ持ち出すと、空港で爆弾だと思われてしまうことがあるんです。たとえばネパールから出国するときに、これは飛行機に乗せられない、と言われてしまったこともあって。それでわざわざフライトを変えたことが何回かあります」

もしもの墜落に備えて落下しても無難な方向へコントロール

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↑ヒマラヤの中でも優美な山容が印象的なアマダブラム峰(標高6856メートル)。平出さんはこの山にもドローンを持ち込んで、クライミングシーンを空撮。 撮影 Maik Psotta

 

 バッテリーパワーの低下は、ある程度予想をしながらドローンを飛ばしていたようだが、風に対してはどうなのだろうか。

「突風なんて吹いたらイチコロで(笑)。だから、たとえばアマダブラムという山の稜線上で飛ばしていたときは、落ちそうになったらどちら側の谷に落とすかをあらかじめ決めていて。こっちだったら回収できるという、多少リスクが少ないほうの谷へコントロールしながら飛ばしていたんです。とはいえ、思い通りの谷へうまく落とせたとしても、アマダブラム北稜のような切り立ったところで落ちたら、1000メートルとか2000メートルとかは落ちゃいますけど」

 ヒマラヤでドローンを飛ばしていると、最悪、はるか彼方へ墜落してしまって回収できないというリスクはある。しかし、今までだったらヘリでしか撮れなかった空撮映像を、ドローンなら個人の装備でパッと撮れてしまう。そんな手軽さがいいのだという。

「本物のヘリを飛ばして撮ろうとしても、タイミングよくピンポイントにフライトできるとも限りません。その点ドローンは、撮りたいその場で、自分でタイミングを判断しながら撮れちゃいますから。でも、実はひさしぶりに、こういうガジェットを操作していて手が震えたというか、手元から飛び立って、ちゃんと戻って きたときに、ああ、よく帰って来てくれた!って。 愛着もわくものだなと思いました(笑)」

 平出さんの登山スタイルは、一般ユーザーがとてもマネできるようなものではないが、アルピニストならではの創意工夫は、国内の山でドローン空撮したいと思っている人は、参考にしてもいいだろう。

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↑山頂へ突き上げるくの字形の稜線がアマダブラム北稜で、ヒマラヤのなかでは標高こそ低いが、細く急峻な稜線は指折りの難ルート。平出さんはこの稜線を登りながらドローンを飛ばし、コントロールしながら空撮していたのだ。信じられない!
撮影 McKay Savage

 

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↑アマダブラムの麓でドローンを飛ばす平出さん。

 

すぐに撮れるようにスタンバイ

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↑ドローンを使うまでのセッティングなどに時間がかかったりすると、撮れるチャンスが少なくなってしまう。極力、使うチャンスを増やすために平出さんは、登山中、プロペラを付けたままの状態でドローンをバックパックに入れて行動。ちなみに使用しているバックパックはドイターの28リットルで、プロペラを付けたままピッタリ収納できていいと選んだものだ。

 

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↑クライミング中、すぐにドローンを飛ばせるように、カラビナでドローンをバックパックに引っかけたまま行動していることもある。

 

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↑登山中、みんなの行動を止めるわけにはいかないため、電源のオン/オフなど、歩きながらセッティングしやすいようにドローンをカスタマイズ。電源のケーブルをわざわざ外に出しているのはそのためで、歩きながらでも電源のオン/オフがしやすい。

 

●関連サイト
石井スポーツ 平出和也の部屋

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