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4K映像のLive!オーロラ中継システム、その裏側をのぞいてみよう

2015年01月03日 13時00分更新

 こんにちは。オーロラ生中継プロジェクト、Live!オーロラを主宰している古賀です。元旦から3日連続でお伝えしてきましたオーロラ連載。3回目となる今回は、Live!オーロラ中継システムの裏側をレポートしたいと思います。

 先日からお伝えしている通り、僕らは2014年9月に毎年恒例のアラスカ観測所への作業出張に向かいました。生中継システムを大幅にバージョンアップさせるための観測所作業が最大の目的です。

オーロラ中継システムの裏側
(撮影:『Nikon D700』+『Nikkor10.5mm』F2.8 SS8秒 ISO1250/古賀 2014年9月下旬)
オーロラ中継システムの裏側
(撮影:『Nikon D700』+『Nikkor10.5mm』F2.8 SS10秒 ISO640/古賀 2014年11月末)

 新しい光学機器を観測システムに導入する場合、春~夏の数ヵ月間、富士山や長野県の山麓で高感度撮影テストを繰り返し、東京のオフィスで撮影制御の遠隔・自動化処理のプログラムを開発します。観測所現地では、屋外でオーロラや星を対象に実際の光学撮影テストをし、撮影制御設定のパラメータを決めます。

 万が一、現地でオーロラが出ない時は?……うーむ、なんとも言えませんが、一応これまで20年間の観測と仕事の渡航ではオーロラ打率10割継続中です!

オーロラ中継システムの裏側
↑9月のオーロラ観測シーズンを前に、観測所内の新しい光学観測装置を東京都内の工場で制作。図面を描いて渡しますが、現場でどんどんブラッシュアップされていきます。長年お世話になっている精密板金工場の皆さんも、僕の想いに応えてくれる大切なパートナー。特注のカメラプレートや、土台にビス止めする一脚も作ってもらいました。

 今シーズンは9月頭、9月下旬、11月末の3回渡航しました。サーバーなどの大きなモノは事前に航空便で別送しますが、毎度、荷物の多さに手を焼きます。地球の果てに行くので、足りない部品や輸送中の故障があったら大変! 重要な部品はバックアップも詰め込み、観測所に着いてから組み立てを始めます。

オーロラ中継システムの裏側

 実際に観測所に来ると設計図面通りにいかない事の方が多いため、出国前に開発するプログラムは、システムを組み上げたときに最低限動作する部分だけです。機材を組んでいきながらエンジニアスタッフの國方と制御プログラムを現場で試しながら開発していくことになります。1年間の生中継観測で、厳冬期と夏の過酷な環境にさらされた機材が故障していることもあるので、修理も欠かせません。

オーロラ中継システムの裏側
↑梯子を登った上にある観測ドームに設置する機械は、事前に作業場でビス止めなどの組み立てをしておきます。
オーロラ中継システムの裏側
↑観測所屋外の作業。

 光学観測装置以外にも、温度・湿度などの計測を続けるデータロガー、屋外の音声を取得するマイクも基板から選んで開発しています。屋外にさらされているこれらの機材は、1年間の風雪でパッキンが劣化するので、この修復作業も大切です。9月でも日中の外気温は5℃ほどですが、一日中汗だくで作業するので、結構薄着で過ごします。

 屋内でひと通り観測機器の組み立てが終わったら、お次はドームへの設置です。写真ではわかりにくいですが、ドームは屋内から3mほどの高さがあるので、脚立に脚をかけながら作業を続けます。これが結構グラグラするので何度かヒヤリとすることがあります。(3年前は実際に落下して腰を強打!)10分間もドーム内で作業をすると、体の熱気であっという間に結露が……。

オーロラ中継システムの裏側
↑観測所屋上の、“観測ドーム”。リモート雲台に特注のプレートをつけます。
オーロラ中継システムの裏側
↑観測所屋上のLive!オーロラ専用ドームは2つです。右側は主に動画中継を行うための機器を、左側は2010年から続けているプラネタリウムドームへの全天周オーロラ生中継や一眼レフカメラによるタイムラプス生中継、未来に向けて開発中のカメラなどを設置してあります。(撮影:2014年11月末)

 全ての機器は日の出日の入り、月齢、気温などにより自動で制御され、僕が世界中のどこにいてもVPN経由で遠隔操作できるしくみにしてあります。

オーロラ中継システムの裏側
↑観測ドーム下の制御用サーバールーム。

 制御用サーバールームは、屋上からの配線の事情もあって、とても狭い場所にシステム機材を詰め込んでいます。今シーズンはWindows7が4台、Linux 2台、AndroidOS 1台のほか、音声ミキサー、IP伝送ボックス、マイコン制御ボックス、電源コントロール機材などが、屋上の観測機器と接続され、東京の僕の会社まで回線でつながっています。

 よく見るとわかる通り、サーバーの筐体はバラバラです。資金も全て自前なので中身の基板とシステムを一番重要なものとして、筐体はなんでも良いという考えです。日本からの輸送費だけでも大変ですから。

 今シーズンは光学観測装置10台のうち、2台が4K撮影機器です。動画生中継はハイビジョン対応になりました。エンコーダーやアーカイブシステムの内容はこれまでとは全く変わるので、結局観測所内システムの8~9割ほどを作り変えることになりました(それが故にいつもなら1回で済むところ、3回も渡航するハメに……)。

オーロラ中継システムの裏側

 さて。無事設置が終わり、自動撮影制御と、日本からのリモート制御のしくみを施した『Sony α7S』が、ほかの動画カメラと一緒にアラスカの空を眺め始めました。この機能の開発はリモートでアラスカのサーバーに接続しながら行なったため、3ヵ月間かかっています。

オーロラ中継システムの裏側

 隣のドームには、Nikonのカメラがタイムラプス中継用のシステムに接続され、4K全天周動画中継用のカメラ、月面を撮る望遠鏡カメラ(RaspberryPI)、研究開発用のカメラを設置してあります。

 今シーズンの開発で何気に楽しかったのが、超小型PCの『RaspberryPI』を導入したことでしょうか。

オーロラ中継システムの裏側

 本来は全体制御の一部をLinux上で動かすことを目的とした試験導入でしたが、せっかくなので望遠鏡にRaspberryPIカメラをつけて月面でも撮ってみよう! と。今回は予算の都合から赤道儀は使いませんでしたが、RaspberryPIで撮る月面動画はなかなかおもしろい画になりました。

 数日間の作業が終わったら、ドームの清掃をして終了です!

オーロラ中継システムの裏側

 1年間の風雪でとても汚れてしまいます。ドームを綺麗にして、遠くはなれた地から、美しい地球の神秘を皆さんで楽しもうじゃありませんか!

 収録したハイビジョン映像の一部は、Youtubeチャンネルで公開しています!

オーロラ中継システムの裏側
(撮影:帰国後、『Sony α7s』動画中継でとらえた映像 2014/10/25 02:31アラスカ)
オーロラ中継システムの裏側
(撮影:帰国後、『Sony α7s』動画中継でとらえた映像 2014/12/05 22:36アラスカ)
オーロラ中継システムの裏側
(撮影:帰国後、4K全天周動画カメラがとらえた映像 2014/09/15 02:15アラスカ)

 2年前くらいから「今年はオーロラの当たり年!」という声が、聞こえてくるようになり、中には「当たり年が終わってしまったら、もう見られないのですか?」といった質問を受けることがありますが、全然そんなことはありません。

 Live!オーロラがスタートした2006年はオーロラ発生源の太陽活動がとても低い時でした。少なくとも1年中24時間生中継を続ける僕らのデータでは、当たり年と言われているここ数年と、2006年頃のオーロラ観測頻度は殆ど変わりません。安心して地球の神秘と鼓動をリアルタイムで体感してください。

 2015年1月には東京・新宿で8年目の開催になる『宇宙から見たオーロラ展2015』、そのほかにもいろいろなイベントで上映する予定です。

オーロラ中継システムの裏側
↑今シーズンも、ドーム中継やるかも?
オーロラ中継システムの裏側
↑國方(右)と僕で記念ショット! なんだかんだ言って彼とは10年以上一緒に仕事を続けるパートナーです。

古賀祐三
エンジニア、クリエイティブ・ディレクター。有限会社遊造 代表取締役

1970年、愛知県生まれ。大学生の頃にアラスカで体験したオーロラ大爆発に衝撃を受け、エンジニア業として自らの作品を作る目標を抱く。電機メーカー勤務の後、1999年に独立。
IT革命前夜からインターネットを中心にオーロラ・マーケットの創造を進め、現在のオーロラ・ブームの火付け役の一人でもある。
専用のアラスカ観測所の設立と超高感度動画撮影や全天周などによるオーロラ生中継システムを開発し、2006年にプロジェクト「Live!オーロラ」を自らの会社で始動。世界中からパソコン、モバイル、プラネタリウムドームなどで一年中、リアルなオーロラ生中継を楽しめるしくみを作った。タイムラプス撮影では400万枚以上、動画中継では累計5万時間以上を記録、24時間放送で現在も更新中。
他、NICTオーロラライブ、SWC宇宙天気情報センターの企画開発も手がける。
2008年科学ジャーナリスト賞、2011年文部科学大臣表彰・科学技術賞。
2014年からアラスカ州政府観光局より公式サポート。(Live!オーロラ)

■関連サイト
Live!オーロラ
Youtubeチャンネルで、オーロラ動画撮影記録を公開中
オーロラのしくみ
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